未踏破の迷宮
「そういうわけで、聖剣諸島……レヴァンカールにいく事になった」
朝になり、俺は女神から聞いたような内容をみんなに話した。
まあいくらなんでも夢の中でそういうお告げを聞いた、なんて言っても信じてもらえないだろうから、俺が敵の正体をそういうものなんじゃないかと推理した……という事にはさせてもらったが。
「聖剣諸島……でございますか……?」
「え、マジかよ、ザック君あそこに行くつもりなの?」
反応はだいたい2種類だった。ヴェナやシックスやカーナのようにどこの事か分からず首を傾げるのと、リィンたちのような手練れの冒険者側が渋い顔をするというもの。
あ、トル・ラルカにいるから、まだトルフェスたちも一緒なんだよな。俺のパーティのみんなと一緒に彼とメダリアさんも話を聞いていたのだ。
「トルフェスでもそんな顔するって事は、もしかしてかなりヤバい所なのか? リィンも知ってる?」
「噂くらいだけどな。あたしはあの街付近からあんま離れるのって多くなかったし、実際行きまではしてねえけど……お前は行ったんだろ? トルフェス」
そう言いながらリィンの視線はトルフェスに向けられる。
「ふっ、まあね。そこで俺が手に入れたのがあの魔剣だったからね」
「あ! そっか、だからあのレイピアを持ってたのか!」
振れば敵を削ぎ落とす力を持ったあのレイピアもまた、聖剣遺跡から発掘されたものだったということか。
「……なら魔剣じゃなくて聖剣では?」
「うん、俺も後で知ったんだけど聖剣の中でも力が弱いものだったみたいでさ、普通の剣と比べたらそりゃあ強かったんだけど……聖剣って呼ぶには1歩格が足りないみたいでね、特に銘とかもない魔剣と称することにしたんだよ」
「へえ」
『……あぁ? 魔剣の方が格下だってかぁ? 気に食わねぇなぁ』
聖剣より魔剣の方が下のランクだと言われてジルは納得がいってないようだ。
きっと自分の強さに相当自身があるんだろう。……まあ、俺はまだその実力を1回も見てないんだけど。
「とは言ってもあのレイピアを手に入れるのに俺たちもかなりの被害を出したんだぜ? 連合団の精鋭を揃えて、他にも声かけられる冒険者をできるだけ高ランクで固めて……。で、結果的に残ったのはその魔剣と、うちの団の人間が数人。よく生きて帰れたよね、メダリア」
「そうですね……。遺跡内に置かれた聖剣そのものが罠だったりもしましたし。持つとその身が焼かれたり、毒に侵されたり、呪われて周囲の魔物を引き付けたり……、思い返すと、こうして無事に帰って来られたのは奇跡としか思えません」
「だよね。……ま、俺にはメダリアが一緒にいてくれるようになったってのも、同じくらいの奇跡だと思ってるし、同じくらい嬉しくもおもってるんだけどさ」
「団長……いえ、旦那様……♡」
「……おい、つまんねーものあたしらの前で見せびらかすんじゃねえよ。帰れ帰れ」
トルフェスに肩を抱かれ、顔を赤らめたメダリアさんにリィンは冷めた顔をしている。
気持ちは分からないでもないが、聖剣遺跡に関する情報を持ってるみたいだし、もうちょっといてほしいんだけど。
「ごめんごめん、続きは家でやるよ」
『家ではやるんだ……』
「続きって?」
「ま、まあそれ以上は俺も聞かないけど。……それでトルフェス、もう少し聖剣遺跡の事教えてくれないか?」
彼が集めた高ランクの……多分ダイヤモンド級冒険者の集団ですらほぼ全滅したという危険な場所であるのは伝わってきた。
ならばその最深部に挑もうとする俺たちにもっと内部の詳しい話を聞かせてもらいたかったが、トルフェスは首を横に振る。
「ごめんねザック君、俺から話せるのはここまでだよ」
「そんな……。もしかして情報料をくれって事か? それなら」
「そういうのじゃないんだ。仮に取ろうとしてたって命の恩人みたいな人からはタダにするって」
続きを聞きたければ金を積まなくてはいけないのか、と思ったが違うようだ。
俺の行動を止め、それからトルフェスは申し訳なさそうに笑う。
「ホント……話せるのはさっき言ったことくらいでさ。なにせ入ってすぐにそうなっちゃったからね」
「えっ!?」
熟練の冒険者たちがダンジョンに入った直後に壊滅。それは確かに恐ろしい事だ。
「……なあトルフェスよお、それって欲に目が眩んだって事だよな?」
「あはは……まさか俺たちも遺跡の名前の如くそこらじゅうに聖剣が落ちてるとは思わなかったからね」
……熟練の冒険者たちが辺り一面に落ちている希少な武器を見て我慢しきれず罠にかかる。……まあ、確かに恐ろしい事だ。
「バカだね」
「あっこらヴェナ! 俺も言いはしなかったのに!!」
「それはもう言っているようなものでは……」
「……精鋭って言っても、あの時は俺も、俺の団も若かったからね。実際馬鹿だったとは思うよ」
手痛い失敗を語るトルフェス。だが、その顔はどこか昔を懐かしむもののようで、後悔はあるだろうが思い出したくない過去というわけではないようだ。
「ただあの失敗があったからこそ俺も今まで生き抜けたんだろうなとは思うし、生き残ったみんなとも長く一緒にやってこられたんだ。そんな想い出も、こいつは詰まってて……」
そう言いながら彼は腰に手を当て、それから違和感に首を傾げる。
「ああ……喰われたんだった、あのレイピア。ははは!」
「わ、悪いトルフェス……。俺を守るためにそんな大事なもの」
「いーよいーよ、想い出があるって言っても武器だしね。壊れたり失くしたりなんてよくあるからさ! それに」
気にしなくていい、と言いながらトルフェスはメダリアさんの手を握り、俺たちに見せてくる。
「これからの俺は剣を握るより、こっちの方が大事になってくるからね」
「……うふふっ♡」
「おい余所でやれっつっただろ!!!!」
本格的にリィンが我慢しきれなくなったのに合わせてか、それとも本当に続きを余所でやるのか知らないが、トルフェスはメダリアさんと一緒に席を立った。
「ともかく理由があるなら俺も止めないけど、行くんなら気を付けるんだよザック君! 俺みたいになるかもしれないし……あ、それだとあんまり忠告にはならないかな、メダリア?」
「大丈夫ですよ、あの人には守りたい方がたくさんいるみたいですから」
「そうだね。……俺も、君に守ってもらうだけじゃなくて、君を守れるようにリハビリを頑張らないとだね」
「クソあいつら……最後までのろけていきやがったぞ……」
去り際もイチャイチャしてるし、仲は良さそうなので俺はどっちかというと安心した。リィンは付き合いきれないのか終始嫌そうな顔をしてたが。
ともかく、参考になるかは何とも言えない所だが、油断のできない場所なのは分かった。孤児院へ戻ったらできるだけ聖剣諸島の事については調べておく事にしよう。




