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聖剣諸島

「ザック、聖剣諸島は分かるか?」

「え……どこだそれ」


 聖剣を使って銀の災厄のコピーを造り出した敵の所在だろうそこは、そのものズバリの地名だった。

 名前からして聖剣のありそうなところだが、どの辺りにあるんだろうか。


『ここの東の方だろ? 俺と同類の力がビンビン感じるぜ』


 トル・ラルカで一泊したので、ジルの言う方角的には……あそこか。

 カトレアさんと出会ったフォラグレイン大陸。そこの少し西方に位置する場所に小さな島の密集した地域があったはずだ。

 ジルの予想が正しかったようで、女神は頷きを返す。


「当たりだ。あの群島、実は地下で1つに繋がっててな。そこは無数の聖剣が納められた迷宮になってて、「聖剣遺跡」と呼ばれてる」

「へえ。……あれ? でもあそこって確か地図だとレヴァンカールって名前だったような」


 以前俺が確認した時には聖剣諸島なんて名前、見かけなかったはず。ジルと女神の言う場所は、たしかレヴァンカール諸島と命名されていた気がする。


「元は遺跡の存在なんて知られてなかったみたいだな。最近になって聖剣遺跡が発見され、そういう俗称で呼ばれ始めたんだろう」

「じゃあレヴァンカールが本当の名前ってことか」

「そうなるな。まあ魔力が濃すぎて人が住める環境じゃないみてえだから、違う名前で呼ばれて困るやつもいないだろ。……なあ? ジル」

『……なんで俺に振るんだよ』


 にやにやしながら女神はジルを見ている。

 問いかけの意味は分からないけど、確かに名前自体は別にいいか。本当の名前を呼ばなきゃ困るわけでもないだろうし。


「で、そこの最奥から飛んできた聖剣があの村に落ちて、聖剣の能力で大地に眠る記憶から俺の事をコピーしたんだろう」

「だいぶ特殊な能力だな」


 まあいっぱい聖剣がある所から来たならニッチな能力持ってるのもあるか。

 で、銀の災厄の姿を真似た聖剣をあの場所に発生した災厄の眷属が取り込んだと。俺たちが対峙したのはちょうどその辺りのタイミングだったんだろうな。


「……でも災厄の眷属はもう倒したし、聖剣諸島のお前の敵の目論見も失敗したって事でいいんだろ?」

『いやぁ、そういうワケにもいかねぇだろうぜ』

「?」


 俺より先に何かに気付いた様子のジル。彼は何を知っているのだろうか。


「ジル、なんか分かるのか?」

『あぁ。お前の言う「敵」とやらが使った聖剣は、1本だけじゃねぇんだろ?』

「おー、同じ剣だけあってそういうの分かるんだな!」

『俺は魔剣だってぇの。……で、それで合ってんだよな』

「お前もいると話が速くて助かるな」


 ジルが言った通り、銀の災厄を模倣した聖剣だけでなく、他にも聖剣は使われていたらしい。

 そうなると、あの場所にあった異常に関りがあるわけだけど――。


「ザックの戦った災厄の眷属、あれは……聖剣の力で召喚されたものだ」

「……そうなるよな」


 突如発生した無数の災厄の眷属。ここ最近は滅多に見られなくなったはずの魔物がどうしてあそこまで大量発生したのか。

 その答えは「それもまた聖剣の力だった」というわけか。

 つまり聖剣遺跡の敵は銀の災厄を模した存在を災厄の眷属で作り上げ、銀の災厄を倒そうとしただけでなく、


「俺たちも、敵として襲おうとしてたわけか」


 俺がシスターたちと共に暮らす孤児院の近くにも出現した大量の災厄の眷属。

 あれもまた、聖剣によって召喚されたものであったとしたら、狙われているのは銀の災厄だけでなく、俺も、という事になる。


「こうやって俺と話してるのがバレた訳じゃないんだろうが、ザックの事を見逃がしたりした時もあるからな。ひょっとするとお前も俺の仲間だと思われたのかもな」

「冗談じゃねえ!」


 なにが仲間だ。むしろ俺はこいつの敵なのだ。……最近はまあ、少しそういう認識を改めてもいいかな、なんて思ってないわけでもないが、少なくとも仲間になった覚えはない。……まだ。


「その上さっき俺と一緒に肩並べて戦ったからな。ザックはどう言おうと向こうからしたら無関係には見えないだろうな」

「くっ、ほとんどお前1人でやってたのに……!」


 それはいいとして、俺もロックオンされたというなら黙っているわけにはいかなくなるか。

 きっと俺だけでなく『銀の孤児院』の全員が狙われるはずだ。こいつに関わっただけで狙われるというならシスターたちも一緒に仲間扱いされるかもしれない。

 つまり、聖剣遺跡の奥に潜む何者かは銀の災厄の敵であると同時に、俺にとっても無視できない敵であるというわけだ。


「……おっ、俺が何を言いたいか分かった顔してるな」

「ここまで言われたらそりゃそうだよ。……俺に倒して来いって言いたいんだろ」

「おう! 頼むぜ、ザック」


 なるほど、これはいつものように俺に対する命令でもあったわけか。全てを俺に任せた女神の顔を見て納得する。

 ……しかしもうちょっと頼み方はなんとかしてくれないものかな。今回は特にこいつのせいでとばっちり喰らってるようなもんじゃないか。


「……なあ、お前の尻拭いしてやってるんだから、俺にも何か見返りがあって良くないか?」

「えー。あるだろ、聖剣遺跡なんだから好きなだけ聖剣でも拾って帰れよ」

『あぁ? ザックに俺以外の剣を使わせる気かよ!? 嫌だからな俺は!』

「……ダメだってさ」

「ちっ、じゃあそうだな……。敵を殺して、俺の所に来たら好きなとこにキスしてやるよ。それでどうだ?」


 ジルがごねてくれたおかげで帰ってきたらご褒美がもらえそうだ。

 ……でもキスかぁ。まあ興味はあるが……敵の強さも分からないのに本当にそれくらいの報酬で首を縦に振っていいものか。

 ただ断ったらそれはそれでさっきみたいに全部ナシになるかもしれないし……そもそもされたいのかこいつに? 顔も体型も好みなのは認めるが。

 女神の顔をじっと見つめてじっくり考える。


「うーん……」

「なんだよ」


 そこで目があってしまい、恥ずかしくなって思わず俺は目を少し下に逸らした。

 赤く瑞々しい唇が目に止まり、その柔らかそうな質感に思考が止まる。


「ほんとにどこでもしてもらえる?」

『おい、いいのかザックそれで!!』


 惜しくも誘惑に負け、俺は女神のキスを褒美として決めたのだった。

 ちなみに、女神は「おう、どこでもいいぜ!」と笑顔で言ってくれた。絶対覚えておくからな。

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