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死と破壊、そして

 騒がしいギルバーたちが帰り、孤児院は普段の静けさを取り戻していた。

 俺は脱いだ服を洗濯カゴへと持っていき、明日まとめて洗う衣服の中に放り込んだ。ただの涙だし、別にそんな汚いって程でもないけど、あのままは寝られないしなあ。


「あ、シスター」

「あらザック、もう起きて平気なの?」


 部屋に戻る途中、俺はシスターと顔を合わせた。


「はい。一応ギルバーに話を合わせはしましたけど、毒もそこまで効いてなかったしもう何ともないですよ。シスターは何してたんです?」

「リュオンとローレナを寝かしつけてました。……ふふっ、最近はザックのおかげでお腹いっぱい食べられるから、とっても寝付きがいいんですよ」


 そう言われ、俺もちょっと鼻が高くなる。

 ギルバーたち『黄金の旗』も事前に言っていた通り孤児院への送金はこまめにしてくれているようだが、みんなにも生活があるのだからそこまで莫大な金額ではない。

 額だけで言えば俺が倒した盗賊たちの賞金の方が上だろう。まあ、あんな大金はそうそう何度も手に入らないだろうから、一時的な話にすぎないけど。

 それでも、俺が孤児院のために貢献できているという事実はとても嬉しいものだ。子供2人が不自由なくご飯を食べられているというのは俺にとっても良い話だ。


「今度、孤児院の建て替えも検討しましょうか。みんなほどじゃないにしても、俺も頑張りますから」

「あらあら、大きい夢ですね。期待していますわ」


 俺の提案にシスターは笑顔を見せる。

 食事の次は住む場所だろう。最近は雨風の強い日が多いので、孤児院も雨漏りや隙間風が酷くなり始めていたのだ。

 まあシスターが言う通りに高い目標ではある。この世界で暴れる『銀の災厄』は世界各地に爪痕を残している。人だけでなく多くの建物も破壊され、建築関係の人手は常に手が足りなくなっているのだ。

 より多くのお金を稼いでおかねばいけない。できればまた女神様がそういう依頼に繋がりそうなお告げをしてくれればいいのだが。

 そう考えて、俺はひとつ気になった事があったのを思い出し、シスターに尋ねてみる。


「……ところでシスター。死と破壊の女神について何か知ってる事ってありますか?」


 彼女を守れと言った女神様は死と破壊の女神を名乗っていた。

 俺はあまりその存在を詳しくは知らないが、シスターなら知っているのではないだろうか? シスターだし。

 質問に対し、一瞬首を傾げたシスターを見て心当たりがないのかと思ったが、何か思い出しているだけだったらしく、すぐに返答が返ってくる。


「えっと……? ああ、最近祀られ出した神様の事ですね。街へお買い物しに行くと時々耳にするので、知っていますよ」

「どんな神なんですか? ……やっぱり、その2つを司ってるだけあって怖いんでしょうか?」


 女神様について知っていると分かり、俺は恐る恐る詳細を聞く。

 目を付けられるとヤバいタイプだったらどうしよう、と不安ではあったが、なぜかシスターは俺の反応を見て笑う。


「……ふふっ、そんなに怖がらなくても。ザックも少しくらいは知っているでしょう?」

「えっ!? ……まあ……ええ」


 まるで女神様と会っているのを知っているかのような態度に俺は驚愕する。もしかして、夢を通じてシスターを守るよう言っているのを知られているのだろうか。

 それなら納得はいくか。俺は知らないけど、シスターの夢の中で俺を頼るよう言ってたりするかもしれないし。……でも、直接干渉する気はなさそうな口ぶりだったような気もするけどなあ。


「それと、ザックは2つと言っていましたけど、その神様が司っているのは4つですよ」

「え、もう2つあるんですか?」


 俺が知っているのは死と破壊だが、実は他にも何かを司っていたらしい。そう言えばなんか言い淀んでたっけ。


「はい。死と破壊、そして性愛と再生を司る女神。名前は、ベルと言うそうですよ」

「……また両極端ですね」

「神様ですから。そういう二面性があるのでしょうね」


 俺の夢の中に出てくる女神様はベルという名前らしい。……なんか聞き覚えあるな。いや二文字だし、そんな珍しい名前でもないから聞いたことあっても変じゃないけど。


「彼女は銀の災厄が破壊した後を追うように現れて、その地で愛を振りまいては人々に生きる勇気と活力を与えていくそうです。だから、死と破壊、そして性愛と再生の女神と呼ばれているんですね」

「死と破壊は女神様がやってるわけではなさそうに聞こえますけど」

「銀の災厄の後に現れる事からそう呼ばれているのでしょう。あと、災厄と女神が実は同一のものであると考えて信仰する方もいらっしゃるみたいですね」


 なるほどなあ、と俺は納得した。俺の夢に現れる女神様は、どちらかといえば滅びではなく、そこからの復活を与えてくれる神様のようだ。

 でもどうして彼女の実際の活躍ではなく、どちらかと言えば風評みたいなものだけを名乗ったのだろう。神様クラスでもそういう事言うのって恥ずかしかったりするのか?


「急にこんな話をしてどうしたのですか、ザック。もしかして、あなたも信仰してみたくなったのですか?

「え? いや、そんな……! ここで育ててもらっててそんなことする気は……!!」

「そんなに慌てなくってもいいんですよ。シスターだなんて呼ばれますけれど、私の信仰はもう砕かれているのですから」

「……!」


 笑いながら、眉を曲げてシスターは言う。

 そうだ、聞いたおぼえがある。この孤児院を作る前、彼女ははどこか別の教会のシスターだったそうだ。

 だがその教会は銀の災厄に破壊され、奇跡的に生き残った彼女は自身の信じる神がなんの救いも与えてくれなかった事に絶望し、この地に孤児院を建てたのだそうだ。

 そうして、ここは銀の災厄で行く場所を失った人が住まう所として、俺たちのような子供が暮らしていたのだ。

 ……その後、銀の災厄と同一とさえ言われている女神が現れた事、彼女はどう思っているのだろうか。


「シスター、本当に違うんです……俺、別にその神様を信じたいとか、そんな話じゃなくて」

「……もう、いいって言ってるじゃないですか。私もその神様の事は悪いように思っていないんですから。むしろ感謝してもいます」

「え……!?」


 思わぬ言葉に、俺は目を丸くした。夢の中で女神様とシスターの間には何かがあると知っていたが、一体何があったのだろうか。


「そんなに驚かなくっても。ザックだって、会った事はあるでしょう?」

「それはまあ、そうなんですけども……」


 夢の中で女神様には出会っている。印象としても、口は悪いが暴虐さみたいなものは感じなかった。どちらかというと弱そうにも見え、あとおっぱいがデカかった。


「……一言で言うと、アリだと思います」

「よくわからないけど、そうなのね」


 しばらく考えたが、否定的な感情は出てこない。神だけあって多少倫理観に問題はある気はするが、神様なんだしそんなもんだろう。

 俺の結論にシスターも納得したのか、笑っていた。


「ザックもこれから街を出る時もあるでしょうし、もしもどこかで見かけたらお礼を言っておいてね」

「はい、その内また来るでしょうし、言っておきます」

「?」


 そう言って、俺は話を終えるとシスターと別れて自室へ戻っていった。

 しばらく話を聞いていた末、あの女神様は邪神の類いではなさそうだ、と俺の中で結論が出る。シスター自身も悪い感情を抱いているわけではなさそうだし、危険ではないだろう。

 ……あ、でもシスターと女神様の間に何があったのかは聞くの忘れてたな。まあきっとどこかで助けてもらったというだけの話だろうし、わざわざ聞かなくても……。

 ……あれ、でも女神様が司ってるのって性愛と再生って言ってたけど、どうやってシスターを助けたんだろうか。……え、これってそういう話なのか!?

 自室に戻った時にそう気付いた俺。30分ほどベッドの中で何があったか聞きに行くべきか迷い、そういう話は無理に聞いたらだめだよなと判断を下してそのまま目を閉じた。

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