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その輝きを模すこと叶わず

 カーナをトルフェスとメダリアさんの所へ預けて、俺は銀の災厄と共にシルバーイミテイターへと迫る。

 一応は俺の復讐相手なんだが、とにかく眼前の敵に有利みたいだから、そこは一旦忘れて心強い味方として考えておく。

 さっきもトルフェスを助けた時にシルバーイミテイターに触れてたけど取り込まれるようなこともなかったし、何ならこいつ1人で抑え込めるんじゃないかとも思う。


「こいつを使え!」


 そんな銀の災厄から投げてよこされたのは大きな鎌だ。海で出会った時に持っていたあの蒼色の刃を持つそれの柄をキャッチし、眼前の敵の銀の体を切り裂く。


「うおおおおおッ!!!」

『――!!』


 柔らかいゼリーでも斬るかのような感触と共にシルバーイミテイターは真っ二つになる。

 こいつが外見通りに銀の災厄の能力をコピーしているなら、防御だってきっと凄まじいはずだ。それをこんなに容易く両断できるとは、とんでもない切れ味だな。


「これ、すごい威力だな……!」

「元は死神の鎌だからな。斬れば斬るだけ切れ味を増すなんておまけ付きの代物だぜ」

「死神の!?」


 もう1体のシルバーイミテイターを素手で叩き伏せ、靴で頭部を踏みにじりながら教えてくれた。一応自分の写し身みたいなもんなのによくそこまでできるな。


「なら、今のでこいつ死んだりしたのか? 死神の鎌なら即死効果とかありそうだけど」

『いやザック、油断すんじゃねぇぞ。あいつピンピンしてやがる』

「そうなんだよな、何でも斬れるだけで他の力はないから、相手が不死身じゃ殺せないんだよ」


 胴体と下半身に別れた敵は、それぞれが欠けた部分を補うように再生していき、シルバーイミテイターは更に1体増えてしまった。

 攻撃する手段は手に入れたが、その度にこうして増えていってしまうなら手の打ちようがないぞ!?


「くっ! こいつら不死身な部分までお前と一緒なのかよ!」

『! ザック、離れろぉ! なんか飛ばしてくるみてぇだぞ!』


 2体のシルバーイミテイターは体を震わせ、放射状に銀の粒を発射した。

 まるでショットガンのように広範囲へ高速で拡散するそれは、ジルに言われてからではもう回避するのが難しくなっている。

 自力では避けきれないのを察したか、銀の災厄は俺を引っ張ってコートの中へと抱き込んで守ってくれる。


「うわっ!」

「気を付けろよ、当たったら俺でもどうしようもないからな!」


 彼の体に直接触れ、思わず俺は声を上げてしまう。外見からは想像もできないほどに低い温度で、こいつがやはり人間ではないんだなと改めて認識できた。

 そこは今はどうでもいいとして、斬っても死なない相手をどう倒せばいいのか。早くその答えを見つけ出すべきだろう。


「……それで! 不死身の相手をどうやって倒せばいいんだよ!」

「不死身? 何言ってんだ、そこまで俺の模倣ができてるかよ!」

「……どういう事だ!? これじゃあ、殺せないって言っただろ!?」


 彼から借り受けている蒼い鎌を見せて言う。

 銀の災厄を模倣しているシルバーイミテイター。それが不死身だと言ったのはこいつ自身のはずだ。


「さっきのはその鎌に不死を殺せる力がないって説明しただけだ、そいつらは不死身なんかじゃないさ」


 あ、そういうことか。この大鎌は取り込まれる心配もなく攻撃できるし相手の防御も簡単に通り抜けやすいけど、死なない相手を殺せるような特別な能力がないって教えただけで、シルバーイミテイター自体が不死身という話をしたわけじゃないんだな。


「こうすれば、簡単に殺せる」


 そうしてそれが事実であると示すためにか、銀の災厄は銃を取り出した。

 銃身の長い、白銀の銃。その引き金を彼が踏みつけていた敵へ向けて引くと金属が擦れ合うような歪な発射音と共に、シルバーイミテイターは跡形もなく消し飛んだ。

 一時は3体に増えたシルバーイミテイターだが、瞬く間に数を戻した。消えた1体が蘇るようなこともなく、確かに不死身というわけではないらしい。


「お前に貸した方は、単に相性が悪かっただけだな。尋常の生物だったらともかく、急所なんて無いも同然な種族相手じゃどれだけ切れ味が良くてもなあ」

「な、ならそっちの銃貸してくれよ! 何の役にも立たないじゃねえかこの鎌!!」


 ようやく反撃の手段を手にした、なんて思ってたけど斬ったら増えるなら役に立たないどころか邪魔にしかならない。

 共闘させようってなら、せめてそのすごい威力の銃を使わせてほしかった。


「いや、これはちょっとな……。ザックじゃ多分死ぬし、そっちのハーヴェスト・ブルーで我慢しててくれ」

「死ぬのなんかもう平気に……え? この鎌そんな名前なの?」


 蒼き三日月の大鎌、ハーヴェスト・ブルーか……。まあ、悪くないな。

 シルバーイミテイターを斬るのには向かないが、それならそれで防御とかに使う事にしようか。


『んな事よりよぉ、そんな銃があんならさっさとぶっ殺しちまえばいいじゃねぇかよ』

「……確かに。なんで俺の手を借りさせたんだよ、1人でやれただろ」


 ジルが言うように、やろうと思えば銀の災厄だけでシルバーイミテイターを殲滅できたはず。

 なぜわざわざ俺と一緒に戦おうとなんてしたんだ?


「勇者になったザックがどれだけ強くなったか、見たかっただけだ。……もっとも、相手が悪かったみたいだがな」


 問い詰めると、銀の災厄はそう答えた。実力を測ろうとしたわけか。

 しかし敵は物理的な攻撃だけではどうしようもないタイプ。俺の実力を知るにはあまりに向いていなかったわけだ。

 その上相手の攻撃は即、死に繋がるようなものばかり。これまでの俺は敵の猛攻を体で受けてしのぐ場面も多かったので、とにかく相性が悪かった。

 それを認めたかのように、銀の災厄は俺を離し、2体のシルバーイミテイターの前に立った。


「一瞬だが、お前と戦えたのは楽しかったな。とりあえず、こいつらは俺が殺させてもらう」


 そう言って、銀の災厄は片手を上に上げた。

 すると災厄の眷属討伐のために用意していたバケツの水が一斉に浮き上がり、彼の手の上へと集まっていく。

 殺意を向けられているのに気付いたシルバーイミテイター2体はそこで逃亡を図ろうとするが、銀の災厄が集約させた水が二手に別れ、2体の敵を包み込んだ。

 全身を水で覆われたシルバーイミテイターは一瞬で動かなくなり、人の形を保てなくなったのか、その中で水銀の塊へともどっていく。


『あぁ、弱点はそのままだったんだな』

「俺も含めて水とは相性が悪いからな。触れたら動けなくなるし、取り込む事もできねえから確実に死ぬ」


 流石に同族だけあって弱点を熟知しているみたいだ。さっきの銃だけでなく、的確に弱い部分を突いて撃破する。

 ていうか、こいつも水が苦手って言ってるのに水を操る事はできるのか……。


「……終わりだな」


 数十秒くらい経ったか。その呟きと共に敵を包んでいた水が弾け、地面に水と水銀の水たまりが2つ出来上がる。

 災厄を模倣した怪物、シルバーイミテイターは、こうしてその銀の災厄自身の手で始末されたのだった。

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