災厄の眷属
太陽が空の真上あたりまで昇り始めた頃。
俺は久々に勢揃いできた冒険者パーティ『銀の孤児院』の面々で旧孤児院跡にバハムートでやってきた。カーナも一緒だ。
用件はもちろん、女神から伝えられていた魔物の討伐のためだ。
『まったく……こんな短い距離で当機を使うとは』
どこかへ行くのを察したバハムートはしきりに乗ってほしいアピールをしてきたので彼女で移動することにしたのだが、行き先が目と鼻の先であると知って着陸した時にがっかりしていた。
俺も申し訳ないことをした気分だ。歩きで5分とかからないコンビニまでタクシーで行った、みたいな罪悪感がある。
「ごめんな、こんな距離でわざわざ」
『今後はもっと長距離の飛行をさせてほしいものですね。目的地がなくても構いませんので』
「へー、ならその辺をぐる~っと回る、とかでもいいのかい?」
『問題ありません。高速で空を翔ける素晴らしさを教えてあげましょう』
「そいつぁ面白そうだねえ!」
「はい……とても、良い景色をご覧になれます……」
ドライブ……いや遊覧飛行の方が正しいか? ともかくリィンは興味を惹かれているようだ。
『そんなことより……なんで私たちは松明とバケツ持たされてるのよ?』
「あー、なんか魔物の弱点らしくって」
手に持った松明とバケツを掲げなら問うシックスに返す。
そう、今回の魔物は明確な弱点が存在するらしいのだ。
夢から覚める前に、「あいつらは炎とか、水で倒せる。積極的には襲ってこないだろうが、とにかく絶対に触るなよ」と女神が言っていた。
ギルドでもそれらしき依頼が出ていたのでちゃんと受けてきたから真実であるとも判明している。依頼書にも、その2つが弱点であるとしっかり明記されていたのを覚えている。
孤児院のあった場所の近くなので川があるのは知っているし、水に関しては現地調達することにした。
「で、何たおすの?」
「えっとね、災厄の眷属だって」
依頼に出されていた討伐対象の名前がそれだった。
「「『っ……!!』」」
「……?」
途端、カーナ以外の3人は顔を強張らせた。
「……持たされてたこいつで嫌な予感はしてたんだが、まさかその通りだったとはね」
「あれ……? なんか、マズい相手だったりしたかな、ダイヤモンド級の魔物らしいんだけど」
「へいき、だけど」
『相手っていうか……ほら、銀の災厄と会ってるでしょ、私たち』
「うん。……もしかしてアレと何かあったの!?」
災厄の眷属、そんな名前が付けられるだけあって魔物の姿は銀色で、ドロドロに溶けたそれはまるでスライムのようだった。一言で言うと、経験値を10050くらいくれそうだ。
仰々しい名前だが、俺は単に銀色だからとそんな名前が付けられているんだと思う。女神もただの魔物呼ばわりしてたし。それに外見のせいで凶暴性よりも逃げられるのを心配したくなってしまう。
なのにリィンたちがどこか不安がる様子なのは、まさかレヴィアタンを倒した後、銀の災厄は彼女たちに何かをしていったという事なのか!?
「いや、なんもなかったんだけどよ」
「え、あ、そうなの? じゃあなんでそんなビクビクしてるんだよ。やっぱり危ない魔物だった?」
「そうじゃなくてよ、あん時にザックがいなくなった直後……銀の災厄はすぐに帰っちまったんだ」
「うん……それから?」
「それだけだよ」
「え? 何か……されたとかじゃなくて?」
銀の災厄に何か恐ろしい目に遭わされたのかと思ったらその逆、何もされていないのだとヴェナが言う。
それにしてはひどい怖がり方に見えるが……。
『何もされなかったのが怖いのよ……。アレって人を殺すのに特化した災害みたいなものだもん』
「そんな奴があたしらには見向きもしないで帰ってったのが怖くて敵わねえ。……どっかで、あたしらの事をずっと見てるんじゃないかってよ」
「ははは、心配しすぎだよ。多分、リィンたちの事は見てないと思うな」
銀の災厄は人間に興味はない様子だった。シスターは別だが……リィンとヴェナとシックスを監視しているとは思えない。
疑ってしまったが、どうやら俺の大切な仲間にちょっかいをかけたりはしていなかったようだ。少し安心だな。
「でもみんなが不安なのも分かったよ、とりあえず俺たちの手で災厄の眷属を倒して、その不安を少しでも振り払おう!」
「お、おう……」
とはいえリィンたちが銀の災厄に怯えているのも事実。今回はその銀の災厄を想起させるような相手が討伐対象なので、これで少しでもトラウマを拭ってくれれば嬉しいな。
返ってきた返事はかなり気弱なものだったので、俺もみんなの事には注意しながら依頼をこなそうと思う。




