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9.愛を誓う

 プリュイレーン王国に雪は降らない。

 冬でも変わらず雨の降る中で、私たちのささやかな式が執り行われた。


 参列したのはジュードの父である国王陛下と、母である王妃殿下。さらに、双子の兄だという王太子エメリー殿下であった。


 皆、手紙でやり取りしていた通りの好人物で、もしも両親や兄弟と仲が良かったのなら、こんな温かさを感じられたのかなと眩しく思った。


 そして、なんと、神父役はブリュットが務めてくれた。






 国王一家は式の前日から泊まり込んでおり、屋敷の庭にあった真っ白なアナベルでブーケを作ってくれたのは、なんと陛下だ。


「この花には『ひたむきな愛』という花言葉があるのだよ。

 長年、君を想い続けてきた息子にふさわしいと思ってね」


 彼はそう言うと、ジュードと似た怜悧な目元を緩めて笑った。


「父上は庭師になりたかったそうだ」


 ジュードがこっそりと耳打ちする。それから私たちは、雲の国に生えている、こことは違う植物の話で盛り上がった。





 家族だけの披露宴。その料理を作ってくれたのはエメリー王子であった。


 その面立ちはジュードと寸分違わずそっくりで、しかし彼は髪を長く伸ばしていた。また、色彩が少しだけ異なっている。

 ジュードの空色の瞳とは違い、彼は太陽のような金色の目をしていた。


「ジュードと手紙のやり取りしているうちに、自分でも料理をしてみたくなってね。

 今では趣味が高じて、私室の奥に調理場をつくってしまったほどだ。

 王城には臣下のための食堂があってね。そこで出す季節のメニューを考えるのが楽しいんだ」


 エメリー王子は、ブリュットを前にしたときのジュードのように目を輝かせて言った。


 ジュードのつくる料理は素朴で手軽なものが多いが、彼のつくるものはとにかく華やかで手が込んでいた。


 美しく飾り切りをほどこされた色とりどりの野菜は、宝石のように料理を彩っていて、思わず感嘆の息を漏らす。




 精緻な刺繍の施された清楚なウェディングドレスは、王妃殿下が拵えてくれたものだと知ってさらに驚く。


「わたくし、貴族に生まれていなければ針子になりたかったの。

 旦那様に出会わなければ、きっと家を飛び出して針子になっていたと思うわ」


 そう言って彼女はころころと笑う。


「針子にはならかったけれど、家族の寝巻きはわたくしが縫っているのよ。

 本当はすべての服を拵えたいのだけれど、そうなると針子たちの仕事を奪ってしまうでしょう?」


 おっとりとした面立ちの妃殿下は、歌うようにそう言うと、柔らかい笑みを見せた。


 私は、ジュビアだったころの幼い彼がいつもネグリジェ姿であったことを思い出し、口元を綻ばせてしまった。

 ジュードは目ざとくそれに気がついたのだろう、耳を赤くして私を睨んだ。





 家族だけに見守られたささやかな式は、恙無く終わった。

 ところが、宴のさなかに、ジュードは思いもよらぬことを言い出したのであった。


「今から時渡りの儀を行なう。兄上、力を借りても?」




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