7.ジュード・ジュビア
「俺と共に生きてくれないか」
ジュードはまっすぐな目をして言った。
その言葉に鼓動が跳ね上がる。生まれてからこれまでで感じたことのないような、この上ない喜びが胸に溢れていた。
「ーーでも、……この世界での私に、価値はないわ。王女という肩書だってなくしてしまった」
「そんなことは問題ない」
ジュードは首を振った。
「いいえ。だって、あなたは名の知れた貴族なのではなくて?
その洗練された所作も、教養も。とても下位の者だとは思えないわ」
「そうだとしたら? なにか問題があるのか?」
彼は心底不思議そうに訊いた。
「ーーそんなの……! 私と結婚したって、なんの得にもならないのよ?
こんな亡霊のような私じゃあ、あなたになにもしてあげられないわ」
私は苛立ちを覚え、語気を強めた。ジュードはしばらく面食らっていたが、ややあってくつくつと笑った。
「俺のためを思ってくれてるんだな」
その言葉に、かっと顔に熱が集まり、私は俯いた。
「千年前はどうか知らないが、今は王族でも恋愛結婚をする者が多いぞ。
それに俺は森の中に籠るのが仕事なんだ。執務に必要なものはここに届けられる。社交とは無縁だから、安心してほしい」
「でも……」
気がつくと頬の鱗をてのひらでなぞっていた。ざりざりとしたおぞましい顔に。
「ずっと昔から君を好いていたんだ」
ジュードは、大きなてのひらで私の顔をそっと包み込んだ。
こんな気色の悪い感触を知られたくなくて身をよじる。
けれども彼は手を離してくれず、頬に口づけが降ってきた。
驚いて固まっている私に、ジュードはとろけるようなほほ笑みを見せる。
「君が頷いてくれるなら、--もう逃がしたくはない」
気づくとこくこくと頷いており、……すると、今度はくちびるに口づけが落ちてきた。
「ず、ずっと昔からってどういうことなの?」
彼とどんな風に接していいのかわからなくなって、食事の席ではずっとうつむいていた。
食後のお茶を飲んでいるとき、ずっとどう切り出そうか考えてきたその言葉をなんとか舌にのせた。
ジュードは不思議そうに首をかしげる。
「わ、私のことを……その……好いてくれていたって」
なんとか言い切ると、彼はにやりと笑う。
私はそのとき気がついた。今のは演技だったのではないか、と。
「孤独だった俺といつも共に居てくれたのは君だ。惹かれるのは当たり前だろう?」
「……いつも?」
「やっぱり気づいていなかったのか。わかるように話していたつもりだったんだが……」
ジュードはにこにこしながら「俺がジュビアと名乗った時からだよ?」と答えた。
私は耳を疑ったが、彼は居住まいをただし、私の元へやってきて跪く。
「改めて名乗ろう。
俺は、プリュイレーン王国の第二王子。ジュード・ジュビア・プリュイレーンだ」




