後日談 胡蝶姫
それはある雨の昼下がりだった。珍しくジュードは出かけており、退屈だった私は、自室の模様替えをしていた。
私は大抵ジュードのいる場所で過ごすため、この屋敷に来てずいぶん経つけれど、自室は寝るだけの場所という感じだった。
衣装棚を動かすと--実は私はとても力持ちだ--壁に宝石が埋め込まれているのに気がついた。蝶の形をした空色の宝石。
義妹がいつもつけていた髪飾りに似ている。そう思って手を伸ばすと、かちりと宝石を壁に押し込んでしまった。
轟音が鳴る。壁がず、ず、と動き出し、上へと続く階段が現れた。
ジュードの帰宅を待とうかと思ったけれど、好奇心の方が勝り、一人で登ってみることにする。
階段の先にあったのは小部屋だった。私が城で籠っていたのと似たような広さで、小さな窓と書き物机だけが置かれている。
その机の上には、一通の手紙が置かれていた。
『雲の王国の真実をここに記す
リヴェール・デュー・プリュイレーン』
そこには、雲の王国が滅んだ本当の理由が書かれていた。竜の血を受け継ぐ唯一である私を殺そうとしたこと--。
内乱に協力したのはやはり妹のマリポーサだ。……けれども彼女は幼い頃から魔族に洗脳され、魔術もかけられていたということ。
手紙と一緒にあったのはマリポーサの晩年の手記であった。
私の記憶にある妹の文字とは違う、整ったまじめそうな字で、淡々と事実が並べられている。
しかし、時折子どものような文字で、おねえさまごめんなさいと、それだけが書き殴られていた。
胸が締め付けられる思いだった。
手紙には、雲の王国が滅びたあとのマリポーサのことが綴られていた。
本当に幼かった頃、無邪気な笑顔を浮かべて駆け寄ってきたマリポーサ、--マリィのことを思い出し、私はしばらく泣いていた。
私を招き入れた後、壁の扉は閉じてしまっていたらしい。
帰宅後、私の姿がどこにも見えずに憔悴したジュードが王都まで飛んで行ったことを聞いたのは、翌朝の事だった。
妹は千年も前に死んでしまった。
罪を背負って。けれども愛する人にめぐりあい、支えられながら生きられたということを知ることができてよかった。
私は、魔術師リヴェールに感謝した。そして、雲の王国の真実の物語を書き残すことにした。
今ではどこにも残っていない、私しか覚えていないふるさとの物語を。
数年がすぎた。
私たちの間に女の子が生まれた。ジュビオラ・マリィ。彼女にそう名前をつけた。
新作『ラベンダー!~ 森の妖精魔道士が捨てたもの~』完結しました!
森の屋敷を舞台にした、数百年後のお話です。
マリポーサが主人公の姉妹作『胡蝶姫は、罪と堕ちる』も完結しています。
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