10.双子の力
「双子が忌み嫌われている理由を知っているか?」
ジュードが問い、私たちは皆、首を振った。
「男児の双子が揃い、しかもいくつもの条件が揃わねばならぬのだが、……時を操る力を持つのだという」
「時を操る?」
陛下の瞳に剣呑な光が宿った。
「--そうです、父上。この屋敷の書庫に、古い魔法使いの手記が眠っており、それで知りました」
「そういえばこの屋敷は、神話の時代の大魔法使いのものだったと聞いたことがあるな」
陛下が思い出したように言った。
「そのような方法があるのならば、なぜそれを使ってリュシィ姫を迎えに行かなかったのだ?」
エメリー王子が不思議そうに問う。
するとジュードは悔しげにくちびるを噛んだ。
「--条件がいくつかあると言ったでしょう。無事に行って帰ってくるためには、起点と終点が必要なんだ。
跳べるのは双子の片割れだけ。だから終点は兄上、あなただ。あなたがここで待っていてくれたら帰るための座標となる。
……けれども、起点が足りなかった。向かいたい時と場所を強く記憶するもの。誰も知らぬ幻の王国の遺物などありませんでしたからね」
ジュードは皮肉げに笑う。
「--起点が私だと言うこと?」
私は尋ねた。ジュードは困ったように笑う。
「私も行く」
「--だめだ」
ジュードは即座に否定した。
「時渡りをできるのは一人だけだ。だから、俺だけが行かなければならない」
「私が悩んでいたからよね?」
そう尋ねると、ジュードはばつが悪そうに、誤魔化すような笑みを浮かべた。
「あなたを危険にさらすくらいなら、……悪女だと罵られても、国よりもあなたを選ぶ」
そう言って手を伸ばした。
「私は、あなたを失いたくない」
すると彼は目を見開き、それから顔を赤くした。ジュードの手もまた私の手に触れた。
けれども次の瞬間、彼の姿はかき消えていた。
「--すまない」
王太子殿下が、強く握られた跡の残る手首をこちらに見せた。
術は発動してしまったのだ。




