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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

来たのはだーれだ? 

掲載日:2020/12/01

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやは「だーれだ?」を仕掛けたことあるか? もしくは仕掛けられたことあるか?

 あれって、仕掛けるのは案外難しいぜ。気配を殺すのもさることながら、相手の目の位置をほぼ把握したうえで、そこをきっちり押さえないといけない。ギャグじゃなく、鼻や口を押さえちまうこともあった。さすがに、相手の様子で気づくから窒息させたりとかはしないだろうが。


 道具を使わずに、できる遊びってのは根強い。俺も一時期はこれにはまっていて、スニーキング技術を磨いたもんだ。

 だが、おかげでおかしな目に遭ったんで、いまは自重している。「かんちょー」とか「ひざカックン」に流行りが移っていったのもあるが、この二つも、科学的にはなかなか危ないらしいな。

 だが「だーれだ?」も本当は危ないもんかもしれん。その話、聞いてみないか?



 俺が「だーれだ?」にはまったのは、こいつを友達に仕掛けられてからだな。

 まったく気配に気づかないまま、唐突に視界を隠されることに、かなりびっくらこいたもんさ。幸い、声は特徴的な相手だったからな。即答して解放されたんだが、当時の俺にとっては少々、ショックだったらしい。

 自分がされたことを何倍にもして、相手にやらなきゃ気が済まない。そんな考えが強い子だったんだ。


 クラスでも、「だーれだ?」を仕掛けてくる奴もたくさんいて、俺はそいつらにやり返す形で数を重ねていく。

 いつどこで、誰が自分を目隠ししてくるか分からず、俺は徹底的に気を張っていた。ほぼクラス全員に仕掛けたし、仕掛けられたが、その流行りに乗らない奴がひとりだけいた。

 そいつはクラスの中で一番背が低い男子。「だーれだ?」を仕掛けようにも、仕掛ける側がそれなりにひざを曲げないと、うまく目を隠すことができない。それでいて、頻繁に背後を気にするものだから、悟られずに近づくのも簡単なことじゃなかった。


 ――なんとかして、あいつに「だーれだ?」と仕掛けてやりたい。


 思いが募る俺は、とうとう下校際に実行に移すことにしたのさ。


 俺とは帰る方向がまったく逆のあいつ。単独でついていったなら、怪しさは抜群だ。俺はあいつと同じ方向で帰る友達の一団に加えさせてもらい、機会をうかがう。事情もすべて伝え、協力を取り付けている。

 あいつと数メートルの距離を置き、昇降口をスタート。校門を出る前から、あいつは定期的に背後を振り返ってくる。俺たちグループもくっちゃべりながら、いかにもだらついている雰囲気を出しつつ、あいつの後を追った。

 その間、俺はあいつを注意深く観察していたが、どうやら振り返るペースが決まっていたんだ。10秒弱前を向いて歩いたら、ほんの1秒足らず後ろを向き、足を止める。そしてまた前を向いて……の繰り返しだ。

下校をはじめて10分間、それが乱れる様子は見られなかった。


 規則めいているなら、好都合だ。

 当初の肉壁となってくれたグループも、10分歩けばだいぶ厚みが薄くなってくる。決断を迫られ、ついに公民館横のストレートに近づいたとき、俺はついに動いた。

 あいつが前を向くや、俺はみんなに囲まれたまま、スニーカーを脱いだ。アスファルトに潜む砂利たちが、靴下越しにちくちくと足を刺激してくるが、よけいな音で計画をおじゃんにしてしまうよりはマシ。


 ほぼつま先立ちの小走りという、アニメの忍者さながらの動きで、俺は壁となってくれたみんなの間をすり抜けた。あいつの背中はほんの3,4メートル先にある。

 もう後戻りはきかない。もし失敗して姿を見られれば、あいつは登下校のみならず、学校内でも俺への警戒を強めてしまうだろう。そうなれば、今回のように協力を取り付けても、リトライ成功率は厳しくなるに違いない。

 迷わず、俺はあいつとの距離を詰めていく。相手だって歩いているが、下手にあせって速さをあげれば、思わぬ音が立ってばれかねない。


 ――あと4秒……あと3秒……。


 頭の中でカウントしながら、ついに俺はあいつの顔を圏内に捉える。

 下手をすれば、両手で包み込んでしまえそうな小さいおはち。でもためらう余裕はもう2秒しかなく、俺は耳の位置を頼りに、前をいくあいつの顏の前に手を出した。


「だーれだ?」


 顔をじかに押さえず、数十センチの余裕を持たせて目元を覆う。動いている相手に対して行う時の、マナーのようなものだ。歩く勢いで、目をぎゅっと押さえつけてしまうことを防ぐ。

 あいつの足が止まる。そこまでは想定内だったが、続いて人の名前が続くだろうその口元は、まったく別の言葉をつむいだんだ。


「やめろ!」


 声と共に、両手が振り上げられて、俺の腕を殴打する。

 不意を打たれたが、そのパンチ力は驚くほど弱い。俺の腕はぶるりと震えたものの、弾き飛ばされずに、そのまま視界を押さえ続けた。

 あっという間に、頭へ血がのぼったね。これまで何度も「だーれだ?」を見てきているはずだし、ルールを知らぬでもないはず。それがこの仕打ちとは、礼儀知らずの無礼者にしか思えない。


「なにしやがんだ、バカ!」


 かえって力を強め、意地でも目隠しし続けようとする俺だったが、後ろにいるグループのみんなが、「あっ」と声をあげて前を向いたんだ。


 公民館横のストレートであるこの道は、実に1キロ近く伸びていて、その左右に一定間隔で街灯が設置されている。いずれも数メートルの高さから、軽く首を曲げる形でランプを取り付けられていた。目の良い人なら、道の端から一方の端まで、その明かりの姿を認めることができた。

 そのずっと前方。ストレートが途切れるT字にかかるランプが、ふたつとも弾けるのが見えたんだ。空高く飛んだガラスが地面に落ちないうちに、今度はもうひとつ手前側、向かってこちらに近いランプが、同じように砕け散った。

 それだけじゃない。他の通行人が見えないこの道を、こちらへ向かってひた走ってくる者がいる。まだここからじゃ点ほどの大きさに過ぎないけど、その胴体と同じ長さくらいの突起が、頭部からYの字に飛び出している。


「だからやめろって!」


 再度、怒鳴る彼は、ついに殴るのを諦め、俺の腕に爪を立ててきた。

 さすがにこれは効く。前方に気を取られていたのもあるけど、かっと熱くなった腕を押さえながら、俺はあいつの目隠しを解いてしまう。


 その時にはもう、ランプの割れと影はここから4つ先のところまで、近づいていた。つい先ほど、4つ先のランプの破片が、宙へ派手に舞い上がったところだ。

 更に近づいたことで、はっきりと見えるようになってきていたその影は、俺たちより5割増しの体格を持っている。頭のてっぺんからつま先に至るまで、緑色の毛をふさふさと生やし、目鼻どころか肌の姿すら、ちらりとも見られない。

 Yの字に伸びる突起も、そいつの毛がねじれるように集まり、先へ行くに従って細くなっていったものだったんだ。

 それが腕を大きく振りながら走り、俺たちに迫らんとしていた。


 目隠しを解いたとたん、毛むくじゃらのそいつは、ピタリと動きを止める。

 目隠しされていた奴はというと、一歩もその場を動くことなく、じっとそいつをにらみつけていた。

 やがて毛むくじゃらは、また腕を振り出したが、進む方向は逆。先ほどまでの動きを巻き戻すようにして、そいつはあっという間に遠ざかっていったんだ。

 でも、ランプの割れたガラスは戻ってはこない。道のわきの田んぼの土に転がり、ときおりキラリと光を放つのみで、こそりとも動く気配を見せなかった。


 ことの次第を呆然と見守っていた俺たちだったが、目隠ししたあいつが、どさりとひざをついて、ようやく我に返った。

 しきりにまばたきしながら、あいつは指で目元を拭う。その肌には赤い筋が引き、まつ毛にも紅色のしずくが、いくらかくっついていたよ。声をかけようとしたが、そいつは完全に無視。差し出した手も乱暴に払いのけ、そいつはもうこちらを振り返ることなく、走り去っていったよ。


 ――「だるまさんがころんだ」だ。

 あいつは前を見続けることで、毛むくじゃらのあいつが迫ってくるのを防いでいたんだろう。たぶん、俺たちが知る時から、ずっと。

 そこで俺ははたと思い当たる。なら前を見続ければいいだけだろうに、どうしてときおり、後ろを向いたんだ……。

 

 次の瞬間、俺の肩に固い何かがぶつかってきた。

 袖が盛大に破け、真っ赤な血が飛び出す。俺の肩の表面の肉をえぐっていったそいつは、野球ボール程度の大きさをしていた。

 剛速球のごとく、そいつもまた速さを緩めず、あいつの去った方向へ飛んでいったんだよ。

 その日以来、俺はそいつに近寄らないようにして過ごしたんだ。


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