97話 B組との邂逅
那月達の傷が完全に癒えたその日。それは丁度体育祭の前日だった。
そして翌日。体育祭当日に那月達はクラスルームにて、沈黙を守る音淵先生と対峙していた。
「……はぁ。お前らホント、バカだな」
第一声は呆れを多分に孕んだものだった。
「これで負けたりしたらタダじゃ済まさねぇからな。……特に黒滝と白浪!!」
音淵先生は那月を指さして、続いて教室の対角線先にいる翔を睨む。
「お前らは問題が多すぎる。だから、ここで名誉を挽回しろ。問題を起こすだけが取り柄じゃないことを証明しろ。……さもなくば……」
音淵先生は喉元に手刀を当てると、それを横に切る。
名指しされた二人は揃って喉を鳴らすと、冷や汗の滲んだ額を精一杯縦に振った。
「……さて、これ以上は何を言っても時間の無駄だ。各自ジャージに着替えた後、校舎前に集合!!」
「「「「「はい!!!!」」」」」
▼
「…………お、おっそぉぉい!!!!」
そんなわけでジャージに着替えた那月達は音淵先生の指示通り校門前で待っていた訳だが、その呼び出した本人が十分経った今現在もやってくる気配が微塵も無い。
那月が叫ぶと、めめがそれを落ち着かせる。
「……ただまぁ、遅いのも事実だしな。僕が呼びに行こうか?」
颯が提案する。
めめは思案顔で考えてから、ひとつ頷く。
「いえ、私が行きます。学級委員長ですから」
「あー、そういえば稲荷さん学級委員長だったね。この学校、委員長らしいことする機会ないから忘れて……ん?」
木菟がそこまで口にしてから、不意に視線を下に落とした。
それから、首を傾げた。
何かが張り付いている。
木菟のお腹辺りに顔を埋めた何かが引っ付いている。
なんだこれ、と木菟が手を伸ばしかけたその瞬間ーーそれは頭をモゾモゾと動かすと、ゆっくりと顔を上げた。
「……ミミズク……!!」
それは少女だった。
ミミズクのパーカーを着た小柄な少女。
フードから亜麻色の髪が零れ落ち、憧憬と恋慕を混ぜ合わせたような雌黄色の瞳で木菟を見つめる少女は舌っ足らずな口調で一言だけそう告げた。
「小学生……?」
「小学生だ……」
「小学生だな……」
「なるほど、ありだね」
日奏が首を傾げて、颯が驚愕して、紅蓮が納得して、天斗がいやらしい目で睨め回す。
それを気にした様子もなく、ミミズク少女は木菟に張り付いたまま、ただ彼の顔を見つめ続ける。
「あ!やっぱりここにいたか!ルナ!!」
と、少女を眺めていた那月達の背後から、大きな声が響き渡った。
全員が驚いて振り返ると、そこには見知らぬ巨漢が立っていた。
黒のジャージに身を包んで、そのラインは黄色。
つまり、那月達と同じ学年の生徒なわけだが、どう見ても同学年には見えない出で立ちだ。
その巨漢が少女ーールナの首根っこを掴んで木菟から引き剥がした。
「おい、ルナ。お前はすぐ迷子になるからちょこまか動くなって」
「……大虎……見て見て!ミミズク!……ミミズク見つけた!!……カワイイ!!」
「はいはい。そうだな、良かったなー」
大虎と呼ばれた巨漢はルナを適当に流すと、木菟に向き直り、顔の前で片手の手刀をつくる。
「いやー、悪かったな。こいつは見ての通りミミズクファンでな、隣のクラスにお前がいるって話したらこのザマよ。ほんと、悪かったわ」
「隣のクラス……って、君たちB組の生徒?」
「あぁ……自己紹介がまだだったな」
大虎はルナを地面に下ろすと、それでも離れないように手を繋いだ。
「一年B組、檜山 大虎。こっちは同じクラスの夕凪 月。今日は楽しい体育祭にできるよう互いに頑張ろうな!!」
大虎が歯を見せて笑いながら、手を差し出してくる。
向けられた木菟は一瞬気後れしたものの、すぐにその手を握り返す。
「烏野 木菟。こちらこそ良い体育祭にしよう」
「…………ま、噂通り……か」
「ん?」
「いやぁ、はは!!なんでもねぇよ!!」
大虎は大仰に笑うと、バンバンと力強く木菟の背を叩く。
それを眺めていた那月はそういえば、と日奏の方を向いた。
「なあ、日奏。音淵先生は勝てって言ってたけど、体育祭ってただの祭りだろ?そんなに勝ちにこだわるもんなのか?」
「あぁ、それはねーー」
「おやおや?これはこれは!落ちこぼれの黒滝那月くんじゃないか!」
日奏の言葉を遮って、どこか嫌味ったらしい口調が飛んでくる。
那月は嫌な予感をちりちりと感じながら、しかし振り返った。
そこにいたのは果たしてーー
「徹……」
「僕の名前を気軽に呼ぶな、落ちこぼれ。まぐれで合格したくらいで調子に乗るなよ!」
なおも嫌味を重ねるのは、入試の時に那月に共闘を提案し、那月のスキルが雑魚と知るや、罵り裏切った、外園 徹その人だった。
彼は唾を吐き捨てると、不敵に笑った。
「……まぁ、まぐれ受かりの落ちこぼれに負けるやつなんてここに居ないだろうから、せいぜい無様な踊りを見せてくれよ!!ハハハハ!!!」
高らかに笑う徹。
それを見た紅蓮が那月に小声で尋ねた。
「おい、那月……あの無性に腹が立つやつはどこのどいつだ?」
「あいつは…………」
「入試で那月を裏切ったクズだ」
「!?」
那月が言い淀む中、答えたのは誰あろうーー翔だった。
翔は徹を一度睨むと、一歩前に踏み出た。
「な、なんだよ……」
徹がその眼光に気圧されながらも、プライドだけで声を上げる。
それすら翔をイラつかせるのか、とうとう翔が強い足取りで徹に詰め寄り始める。
「……那月?」
と、翔が那月の横を通り過ぎようとしたところで、その動きを那月が手で制する。
その手は若干震えているように見えたが、那月の声は震えていなかった。
「……翔。大丈夫だ。俺は大丈夫……」
そう言うと、那月は開いていた掌をギュッと握って、俯けていた顔を上げた。
視界の先に徹を映して、静かに、力強く言葉を紡ぐ。
「俺の名前は黒滝 那月!……近い将来、最強のプレイヤーになる男だ。……だから、そのための踏み台になってくれよ、徹」
「…………〜〜ッ!!き、貴様ァァ!!黒滝ィ!!!ーーアガッ!?」
顔を真っ赤にした徹が那月に掴みかかろうとしたところで、突然動きが九十度転換し、徹の頭が地面に叩きつけられた。
「ええやん、ええやん!自分ごっつオモロいやん」
そう笑い声をあげるのは、徹の頭を手で掴んで地面に沈め、その背中に座り込む少年。
キツい関西弁を話す少年は、やはり黄色ラインのジャージ。
どげとげしい黒髪に相手を威圧するようなつり目の少年はどこか、那月に似ていた。
「俺の名前は芭条 春馬。あんたと同じく最強のプレイヤーを目指すモンや」
少年は那月を見やると、無邪気に笑って見せた。
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