91話 はじまり
まず初めに那月が動いた。
枷鎖先輩にかけられた『付与』封印の縛りは既に解けている。
だが、相手は空に浮かぶ化け物。那月はその方角に手を突き上げ、焦点を定めた。
「落ちろーー《重力》!!」
『グォ……!?』
直後、重力に押さえつけられたクヴェルの体が下に落ちる。
その落下地点には翔が既に走り込んでいる。
「《雷電》」
無造作に束ねられた稲妻が昇龍の如くかけ昇る。
「ーー『雷龍』」
翔が口の中でつぶやいた。
と同時、稲光を放つ龍はクヴェルを飲み込む。
瞬間、黒煙が弾けた。
『ぎやァァァァ!!!!ーーなんつって』
煙幕が晴れると、人をおちょくるポーズをとったグウェルの姿。
ーーそして、それぞれ剣と足を振り上げた二つの人影。
「……そうだとーー」
「思ったよ!!」
紅蓮が大剣に炎を帯びさせ、颯は迅速の一蹴に風を纏わせ、それぞれ振り下ろす。
『ぐ、ガッ!!』
これはさすがに効いたのだろう。
クヴェルの両肩から血飛沫が吹き上げた。
『ーー残念でェしたァァァ……!!』
刹那、那月たちは逆再生のようなものを目の当たりにした。
否ーー『ような』では無く、その通り、クヴェルの体から吹き出た血は彼の肩に戻っていった。
傷口もみるみるうちに元通り、グウェルは不敵な笑みを浮かべて、その肩を回して見せた。
『君たちが、いくら頑張っても、このトォォり!!俺様は一切傷つかなァいの♡』
声高だかにそう言ったクヴェルは再び宙に浮き上がると、那月を睥睨する。
『……那月、って言ったっけ?お前だ、魔女の子孫。お遊びはもうお終いカ??』
地獄の底から響くような低い声。
その声に当てられた那月は、しかしその笑みを絶やさなかった。
「終い?……んなわけねぇだろ。遊びはこっからだ」
『俺様は飽きたよ……。死ね』
クヴェルは翼を広げると、そこに魔力を集中させる。
それはみるみるうちに黒球となり、その中心から一本の棘が突き出た。
『『死黒線・乱』!!』
棘から放たれた黒の光線が、四方八方を焼き溶かす。
「させないにゃ!ーー『守球結界』!!」
しかし、愛莉によって展開された結界に阻まれ、那月達を殺すには至らない。
『アァ!まどろっこしいィ!!』
「だから、まだ終いじゃねぇんだよ!!」
叫んだ那月が突進を開始する。
それを睨むクヴェルが、面倒くさそうに那月に手のひらを翳す。
『いい加減にしくさりやがれ!『死黒ーー』
「ーー『スキルジャミング』」
『んァッ!?』
クヴェルの手に集まりかけていた黒い魔力が、少女の一言で霧散した。
花恋である。
彼女は先日の強化合宿で、音淵先生の特訓を受けていた。
そして、彼の技を見て、観て、そして盗んだ。
自分のスキルで相手の標的を移すことで、魔力の流れを掻き乱す。
その技は音淵先生の『妨害不音』さながら。
「……那月くん!!」
「おうよ!」
花恋の呼び声に応えて、那月は天高く飛び上がった。
そしてーー
「うぉぉぉ!!『ディノ・ブロウ』!!!」
クヴェルの犬頭を重力増し増しで殴りつけた。
『がッ…………!!』
鈍い音が木霊する。
垂直落下するクヴェルは、しかし直ぐに羽を広げ、地面とスレスレのところで平行に停止する。
「水風流・返りの型五波ーー『打潮』!!」
「来栖流・攻めの型三陣ーー『圧轢掌』!!」
クヴェルの顔面を両側から、二つの掌底が挟み込む。
日奏と朝日が睨み合って、もう一方の手で、同じ技をクヴェルの顎に打ち込んだ。
「僕の手柄だよね?」
「ちょっと何言ってんの?私の手柄でしょ?」
喧嘩をする二人の背後からひとりの少女が飛び上がる。
狙うのは宙に打ち上げられたクヴェルである。
「ーー『穿炎爪』」
器用に腕と耳のみを『白狐』化しためめがその爪を振るう。
炎を纏ったそれはクヴェルの体を三等分にする。
「終わりだ」
翔が小さく呟いた。
手を高く掲げ、次の瞬間、それを勢いよく振り下ろした。
「ーー『月流堕雷』」
怒号が大地を揺らして響き、眩い光が止んだ先。
そこには、白の灰が積もるのみだった。
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