90話 解ける封印
「なんだ、これ?ペンダント…………?」
視線を落とすと、足元には黒色のペンダントが寝転がっていた。
那月は訝しげにそれを眺めると、ふと、何かを聞いた気がした。
ーー『取れ』
声に促されるままに、那月の左手が下に伸びる。
その時、何か嫌な気配を察知した月夜先生が振り返り、那月を視界内に収めた。
そして、劈くような声を張り上げる。
「それに触っては駄目!!」
「え………………?」
しかし、それはほんの一瞬遅かった。
振り返った那月の左手が、微かにペンダントに触れた。
直後、そのペンダントが宙空に浮かび上がり、そこで黒の光を放ち始めた。
『ケケケ……ケカ…………ケカカカカカ!!!!』
ペンダントのヘッドが開き、不気味な笑い声が漏れてでる。
月夜先生が僅かに唇を噛んだ。
放心する那月。その目の前で、ペンダントが地面に落ちる。
ペンダントから漏れ出た黒の光が先程までペンダントがあった空中へと集束しだす。
黒の光は霧へと変わり、霧は粘り気を持った液体へと変わる。
その状態で丸くなったり、四角くなったり、粘土を捏ねるかのように、その姿を造形していく。
それは徐々に形を帯びていった。
犬のように伸びた口元。切れ長の瞳。ヤギのような角。体は人のものだが、腕が八つ。足は鳥のようで、腰から伸びる尻尾はトライデント。最後に背中が盛り上がり、そこからコウモリが持つような羽が生えた。
『ケケっ!おいおいおい……まさか、まさかダナ!ちょっとイタズラするつもりガ、まさか封印解けちマウなんてヨォ!!』
その化け物は天を仰ぎながらそう叫んだ。
その姿を唖然と見つめる那月の横で、いつの間にかそこに立った月夜先生がうわ言のように呟いた。
「……本当に解けてしまった…………。アイツだけは、世界に離してはならなかったのに…………」
「それって……先生、あの化け物がなんなのか知ってるんすか?」
「あれは、アイツは……かつて世界を恐怖に陥れた大悪魔ーー『クヴェル・ド・ドル』」
月夜先生の声を聞いた悪魔ーークヴェルがピクリと、細長い耳を動かす。
『アァ?テメェ、俺様の事を知ってやガンのか?』
月夜先生は答えない。しかし、それすらも愉快そうにクヴェルは高笑いをする。
『だったら知ってんダロ!俺様の強さを!!テメェらみてぇな下等な生物ぐらい、簡単に捻り潰せるって事をヨォ!!』
「それって……!」
百花が叫ぶ。
クヴェルはそちらに視線を向けると細い瞳を更に細めて、口を横に裂いた。
『俺様はヨォ、今最高に気分がイイんだ。……けどヨォ、封印されていた間に胸の中に溜まり溜まったこの恨みだけは今なお行き場を探してヤガル……。だから、俺様は俺様を封印した憎き『厄災の魔女』と同種のテメェらニンゲンを全滅する。感謝するゼ、クソガキ。テメェは命の恩人だ。だから、人類の最後まで生かしといてやる…………………………ァン?』
クヴェルは途中で言葉を途切れさせると、鋭い視線を那月に向けた。
そして、鼻で何かを嗅ぐように空気を吸うと、それを強く吐き捨てた。
『クセェ、クセェクセェクセェなぁ!!おい、クソガキ!……どうして、テメェからあのクソ魔女の香りがするんだ、ァン!?』
「………………」
那月は何も答えられなかった。
厄災の魔女は彼にスキル《反帝》を譲渡した張本人で、だからその名前が出た瞬間に那月の意識はどこか遠くへと旅立っていた。
そんな那月の様子を肯定と見なしたか、クヴェルは舌打ちをして那月を睨めつける。
『魔女の関係者……なるほどだから俺様の封印を……。予定変更だァ。クソガキぃ……テメェだけは、テメェの匂いだけは許せねェ。だから、ここでコロス!!』
直後、クヴェルが空を蹴った。
音を置き去りにしたクヴェルは手の平に黒の光を集中させ、それを那月目掛けて放った。
『『死黒線』!!』
黒のレーザーが奴の手の平から放たれる。それは一瞬で那月の元へたどり着き、直後巨大な爆発を起こした。
『ケケっ!死んダナ……』
煙が晴れたそこには、ドロドロに溶けた地面が存在した。那月の姿など跡形も無く、それを見た百花から小さな悲鳴が漏れた。
「那月くんーーーー!!」
「けホッけホッ……!」
百花の悲鳴に紛れるように、しかしその声は確かに響いた。
「なんだ……?死ぬかと思った…………」
クヴェルが溶かした地面より少し離れた地面。そこに首根っこを翔に掴まれた那月の姿があった。
「那月くん!」
百花が安堵を孕んだ声を上げる。
それに被さるように翔も怒号を放った。
「テメェ、那月!!ボサっとすんじゃねぇ!俺が助けなきゃ、テメェ死んでたんだぞ!」
「……ッ!!……す、すまねぇ」
視線を逸らす那月に更なる怒りを覚えた翔はその襟首を掴んで、鼻と鼻が付くほどまで顔を近づける。
「お前を殺すのはライバルである俺だ。それだけは、忘れんな」
「ーーッ………………てめぇに殺されるくれぇなら、あの化け物にやられた方がマシだ」
「テメェ、まだーー」
「だけど!……だけど、翔、お前を殺すまでは俺ァ、死ぬわけにはいかねぇんだよ」
那月は翔の手を払うと、来ていたジャージの上着を脱ぎ捨て、赤色のティーシャツ姿になる。
そして、クラスメイト達に目配せをして、両手の拳を打ち鳴らした。
「ここは俺たちの学校だ。ここは俺たちの時代だ!過去のよそもんには、早々に退場してもらうぜ」
那月は次いで、大きく叫んだ。
「行くぞ!!クヴェル!!!!」
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