89話 魔道具学
その男子生徒は、本来なら立ち入り禁止の宝物庫に入っていた。
「先生ー、これで全部っすか?」
「えぇ。全部の種類あるわよね?」
短剣を、自動で動く荷車に乗せた女性が振り返る。
女性はウルフカットで髪を揃え、首筋にかかる髪を後ろで一本に纏める。
ローブのような物に身を包み、腰には指示棒のような木杖がぶら下げられている。片眼鏡を高い鼻に乗せて、ほうれい線がうっすらと浮かび始めた口元をメイクで誤魔化している。
彼女の名は月夜 彗。弾二四高校の教師で、もちろんプレイヤー。担当科目は『魔道具学』である。
そして今、助手を連れて、一時間目に使う魔道具を宝物庫から調達している最中だった。
助手の男子生徒は月夜先生の言葉を聞いて、床に落ちた指輪の魔道具を拾った。
「じゃ、出るわよ。手伝ってくれてありがとね」
「うっす……ん?」
先生が入口の壁に向かうのを見て、その助手も荷車の魔道具に魔力を込めた。
と、そこで少年はあるものに気づいた。
床に一つのペンダントが落ちていたのだ。ロケットペンダントで、黒のチェーンに、黒のヘッドが付いたどこか禍々しさを感じるものだ。
一瞬、訝しんだ少年出会ったが、荷台から落ちたのだろうと思い、それを先程置いた指輪に乗せた。
「どうしたの?」
「あ、今行きまっす!」
少年は慌てて荷車を操作すると、壁を潜った。
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「では、これより。第一回目の『魔道具学』の授業を開始します。挨拶を」
「起立!」
委員長ーーめめの号令とともに、地面に座していた那月達が一斉に立ち上がる。
「礼!」
『お願いします!!』
二十の唱和が校庭に響き渡った。
那月達は現在、訓練棟の左に位置する校庭にいる。
その広さは尋常でなく。校舎と比べても余りが出るほど。
その校庭の中央で、那月達は魔女のような女教師を前にしていた。
彼女は魔道具学担当教師の月夜 彗である。
「本日は初回ということで、皆さんには魔道具適性を検査してもらいます」
「魔法適性?」
那月が首を傾げると、月夜先生は即座に答えを返す。
「皆さんは魔道具を使ったことはありますね?」
「えぇ。普通に日常生活で使ってますよ。電気とか」
「あれは、魔力を流せば使えるように作られた人口のものです。ですが、魔道具にはダンジョンから出土した天然のものもあります」
朝日が答え、先生が説明を付け足す。
「天然の魔道具はじゃじゃ馬です。それ故に主人を選びます。適性があれば百人力。なければなまくら。それくらいの差があるのです」
「へぇ」
那月から感嘆の声が漏れる。ふと、那月が何かを思い出す。
「あ、そう言えば紅蓮の剣ってなんかすげぇよな。それも魔道具なのか?」
「え?おうよ。こいつは正真正銘ダンジョンから出た魔剣だ」
「なるほど。紅城くんは<剣>の特性があるようですね」
「センセ、センセ!じゃあ俺の特性はなんスか!?」
「それを今から計るのですよ」
月夜先生はそう言うと、指を鳴らした。
すると、訓練棟の方から一人の男子生徒が荷車を押してやってきた。
彼は月夜先生の横で止まると、小さく一礼した。
「こちらは私の助手です。ナダ君、杖を」
「うっス!」
ナダと呼ばれた少年は荷台から木の杖を取り出すと、それを手渡した。
「この杖には魔力を込めると火の玉が出るという特性があります。それぞれに特有の能力がついているのも天然魔道具の特徴です」
月夜先生は杖を空に向けると、そこに魔力を込めた。
直後、杖の先端に拳大程の火球が出現し、それが青空めがけて射出された。
「このように、適性があると火球が出ます。ですが、適性が無いと……」
そこで月夜先生はナダに杖を返す。
今度はナダが杖を空に向ける番だ。
杖の先端が太陽に近づけられて暫く。しかし何かが起こる気配は一向に無い。
「とまぁ、このように適性が無いと魔力を込めても何も起こらないっス」
ナダはまた月夜先生に杖を渡す。
「ところで、私のスキルは《同調》。魔道具との適性値を一段階上昇させるというものです」
先生はまた杖を空に構えると、今度はスキルを唱えて魔力を流した。
すると、今度はハンドボール大の火球が先端に出現する。
「適性値が一段階違うだけでもこうして大きさに差が出ます」
火球は空に射出された。
心做しか先程のよりも速度が速い気がする。
先生は火球に注目する皆の視線を手を叩いて集中させる。
「それでは皆さん検査を始めましょう」
そうして一年A組の魔道具適性検査が始まった。
「うおっ!俺は<刀>にも適性があんぞ。つか<大剣><短剣>も適性◎だ……けど、それ以外はからっきしだな」
と、紅蓮。
「へぇ、僕は<剣><短剣><弓><槍>に適正あるけど、どれも○だよ」
日奏。
「俺は……<杖>が◎、<槍>が○か……」
翔である。
と、こんな感じにどんどんと仲間たちの適性が明かされていく中、一人だけ頭を抱えている人がいた。
「なんで、なんで俺だけ、全適性ゼロなんだァァ!!!!」
そう、那月はあらゆる魔道具に触れ、魔力を流したが、一切の反応がなかった。
これには流石の月夜先生も苦笑い。
「えっと……黒滝君は適性ゼロと……うん、まぁ、頑張ってください」
「くそがァァ!!」
那月はしょんぼりと、しかしまだ諦めることが出来ずに、荷車の方へと向かった。
「ん……?」
ふと、足元に視線が落ちた。
そこにあったのは一つのロケットペンダントであった。
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