9話 試験終了
「やっと、捕まえたぜ……」
那月の頬は喜びに緩んでいた。
つまり、この状況は那月が意図して作り出したもの。ゴーレムはまんまと那月の策に踊らされていたのだ。
そして今、那月は見事にゴーレムの動きを止める事に成功した。
「ーーゴラウル!?」
ゴーレムは造られて初めて死というものを感じていた。
ゴーレムに死という概念が存在するのかは疑問であるが、それは紛れも無い「死」であった。
ゴーレムの目の前の少年。黒髪の少年は確かに弱かった。取るに足らない、言ってしまえば羽虫のような存在だった。
攻撃は貧弱で守りは脆弱。一つ拳を当てれば吹き飛び、気絶をしたほどだ。
なのにどうして、ゴーレムは今、その少年に殺されかけている。
少年が立ち上がった時ゴーレムの胸中は喜びと好奇心で満たされた。しかし、それは直ぐに失望へと変わった。
少年は痒くなるような攻撃を繰り返してはただただ逃げるだけ。
見苦しい悪あがき。
悪あがきを見れば見るほどゴーレムの目には少年が愚かしく映った。
ゴーレムは少年にトドメをさすべく本気の一撃を見舞った。
直撃だ。少年は良くて気絶、悪くて死亡。戦いは終わった━━かに思われた。
しかし、驚くべき事に少年は笑ったのだ。
恐怖がゴーレムの体を迸る。同時に喜びに体が震えた。
━━強いということを身をもって感じたから
那月はゴーレムの胸の中心に手を当てる。
揺れる視界、遠のく意識、苦しい呼吸、重たい体。
眠りたい、楽になりたい。そんな誘惑を頭の隅に追いやって那月はしっかりとそれを口にした。
「《重力》ーー」
ボロボロ、ボロボロ。その単語が那月の口から紡がれる度にゴーレムの体が崩れていく。
「グアァァラアゥゥゥ!!!」
ゴーレムの叫びが辺りに木霊する。
そんなことは気にもとめずに、那月はただひたすらにゴーレムの体を削っていく。
「ーー《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》《重力》ーーッ!?……見えた!!」
そして、遂に那月はゴーレムの核にたどり着く。
赤く透き通るそれは、直径十センチのボールだった。
「ゴアゥル!?」
己の核が剥き出しになった事に気づいたゴーレムは残る全ての魔力を拳に集中させる。
「ゴォォォラァァ!!!」
魔力を速度へ、速度を破壊力へと変換させた右ストレートは那月の頭部へと迫り━━
━━空を切った。
「ーーフッ……!!」
那月は読んでいたのだ。ゴーレムが土壇場で右ストレートを放つということを。
なんの疑いも無く、その事を信じていた。
結果、ゴーレムの右ストレートは那月の耳元を轟音と共に過ぎ去って行った。
「ーーッ!」
那月は勢いよく頭を上げ、ゴーレムの核を睨みつける。
そして、大きく腕を振りかぶって、重力に従うままにそれを振り下ろした。
「うぉぉぉぉ!!!!いっっっってぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」
那月の拳がゴーレムの核の中心に向かって勢いよく飛んでいく。
そして那月の拳がゴーレムの核に当たる瞬間ーー
ブー、ブー、ブゥゥゥゥ!!!!
試験終了の鐘が無人の住宅街に鳴り響いた。
「ぅ、ぁ、……いっ、て……ん…………ーーーー」
同時、那月の意識は体から引き離され、那月はその場に倒れて、気を失った。
「へぇ、あのヒューマンゴーレムを倒すとはやるねぇ。ちょっと手を抜きすぎだったんじゃないの?」
弾二四高校モニター室。
試験の映像を観る六人の影がそこにはあった。
その内の一人、白衣を着た女がモニターに映る那月を観てそう口にする。
「おかしいな……確かに本来の力の一割も出せないようにしてはいるが、受験生レベルに倒せるようなゴーレムじゃないぜ……」
ゴーレムの創造者である羽攘が反論する。
「まぁまぁ、どうでもいいじゃない……フゥ」
「ウッ……!ゲホ、ゴホ……先生、しっかりと考えてください。入学者を選ばないといけないのですから……あと、タバコは他所で吸って下さい」
タバコを吸っている三十代後半くらいの男に二十代後半くらいの若男が注意を入れる。
「ガハハハハ!!しかし、この少年……えーと、黒滝那月!彼は凄いな!!諦めの悪さというか、なんというか……!」
大きな声で、ムキムキボディの男が言う。
「えぇ、確かに凄いわね……」
白衣の女がでも、と続ける。
「まだまだ弱い。というか弱すぎる。今回はたまたま運が良かったという所ね。これがゴーレムで無かったら死んでいたわ。まぁ、スキルは面白いし、来年に期待といった所かしら?」
「確かに!!」
「まぁ、いいんじゃないですかね?」
「俺も賛成で」
「じゃあ俺も」
白衣の女の提案に脳筋、タバコ男、若男、羽攘と賛成の票を入れる。
「では不合かーー」
「合格」
白衣の女が那月に不合格の烙印を押そうとしたその時、男の声が被さる。
「正気ですか!?校長……!?」
「……」
校長と呼ばれた男は無言をもって肯定を示す。
「しかし、校長……!!」
「彼は強い。そして、これからも強くなる。私達の仕事は今はまだ未熟な蕾を立派に咲かせることだろ……?」
「……そうです。……でも……!」
「まだ何か?」
男から放たれる強烈な圧力が白衣の女が言葉を紡ぐ事を阻む。
しかし、女はその事をハッキリと伝えた。
「しかし、彼、筆記テストが七点です……」
「……。」
「……。」
「…………………………合格……」
校長はしばらく頭を抱えたあと、小さな声でそう告げた。
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