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84話 氷の少女

(2/2)

 氷華との面会が許されたのは、彼女の意識が戻ったという吉報が入った、その一週間後だった。


 彼女の事が気になりすぎて、勉強に身が入らなかった彼らにしてみれば、永遠にも届く長い時間だった。


「氷華!!」


 病室のドアをノックもなしにこじ開けたのは、やはり黒髪の少年だ。

 そこから口火を切ったように、桃色、金色と、見慣れた面々が病室を満たしていく。


 最後にゆっくりと入ってきたヘッドホンを首にかけた先生の視線が、氷華を静かに見つめていた。


「先生……」

「氷華。言いたいことは山ほどあるが、とりあえず…………」


 音淵先生の視線が氷華から百花に移る。

 桃色髪の少女は頷くと、「せーの」と小さく掛け声をかけた。


『氷華、回復おめでとう!!』


 クラッカーこそ鳴らされなかったが、到底病院で出していい声量を超えていた。

 しかし、全員の安堵しきったような表情を見ると、とても咎める気にもなれず、それどころか、胸に込み上げるものを氷華は抑えられなかった。


「ありがとう……!」


 彼女はひとしきり礼を言うと、そっと目を伏せた。

 そうして、何かを考えるように時間を使うと、意を決したように全員の顔を順繰りに見回した。


「……みんな、話がある」


 氷華のその言葉に、皆が息を飲む音が病室に響いた。


「話……って?」


 百花が尋ねる。



「私は…………学校を辞める」



「は…………?」


 那月の声がまず響いた。


「学校を……やめる……?何言ってんだ?」


 当然の疑問だ。全員もその疑問は同じようで、無言ではあるが何度と首を傾げている。


 だが、氷華は答えない。それを答えたのは、音淵先生だった。


「……生命に変えられる物は限られていたということだ…………」

「それって…………」

「…………私は、スキルを失った」

『ーーッ!?』


 今度こそ、驚愕が雷のように落ちた。

 那月が何かを言おうと口を開くが、それは続かなかった。


「臓器移植。その代償に私はスキルを失った。……スキルのない私は…………プレイヤーになれない」


 氷華の凛とした、しかし寂しさを孕んだ言葉に誰からも反論は出なかった。

 当たり前だ。スキルがなければ、力がなければ人は助けられない。それは絶対の真理なのだから。


「ごめんなさい…………本当に、ごめんなーー」

「ーーだから?」


 と、氷華の言葉を遮って低く唸ったのは、誰であったか。


「スキルを失った?だからどうした?失くなったなら、探せば良い。落としたなら、また拾えば良いだろ」


 さも当然とばかりに言ってのけたのは、翔だった。


「スキルは一つ……無くしたら、もう戻ってこない………………スキルがなければ、プレイヤーには、なれない」

「誰が言った?」

「誰って……常識で」

「じゃあ、俺は非常識を知っている。力を無くしてももがいて、力も無いのに、最強のプレイヤーを目指した男を俺は知ってる」


 翔は那月を一瞥して続けた。


「俺は、ディクトに両親を殺された。だから、ソイツらを殺さなきゃならないし、もう俺みたいな思いを誰にもさせてはならないと思ってる。だが、俺一人の力じゃ前者は出来ても、その後……ディクトという存在を根絶やしにする事は出来ない」


 翔はそこで言葉を区切ると、ゆっくりと氷華に手を差し伸べた。


「なろうぜ、プレイヤー。俺たちの手でこの世界を変えてやろうぜ。お前が力を失ったなら、その手を伸ばせよ。ここにいる十九人全員が、お前の手をとってくれる!もちろん俺も含めて!」

「ーーーーッ!!!!」


 氷華の心臓がドクンッと力強く跳ねて、トクントクンと走り出す。

 顔が熱くなって、胸が熱くなって、凍り固まってた何かが、確実に解かされていく。


 その瞬間。氷華は求めていたものを手に入れた。

 と、同時。失ったものもーー。


 《ーー条件を満たしました》

 《ーー個体名『サザナミ ヒョウカ』の申請を確認》

 《受理》


 《スキル《凍結氷姫アイス・オブ・クイーン》を獲得しました》


「え…………?」


 氷華は自分の脳内に響いた機械的な言葉に驚き、つい声を漏らしてしまった。

 翔を含めて皆頭に疑問符を浮かべるが、それどころでは無い。


「漣……?」


 音淵先生が尋ねてくる。

 混乱する頭は事実をありのまま答えることしか出来なかった。


「頭の中に……声が……《凍結氷姫》……を獲得…………?……意味が……」

「なっ!?四文字スキル!?」


 氷華の声を聞いた音淵先生が、これまで見たことないほどに驚きの声を上げる。


「先生、四文字スキルってなんですか?」

「四文字スキル……別名『覚醒スキル』」

「覚醒……」

「……つまり、えと……産まれたその時から持ってるスキルの進化系……とでも言うか……つまり、とても強力なスキル、ってことだ」

「てことは……!」


 全員の視線が氷華に向いた。彼女はまだ何がなんだかと言った様子で、目を丸くしている。


 翔が一歩前に歩み出る。

 そして、再度手を伸ばし、微笑んだ。


「今度はとる手を持ってるだろ?」

「ーーーーッ……うん!」


 氷華は翔の手を取ると、力強く頷いた。


 彼女の背後の窓の外には真夏だと言うのに、銀色の結晶が降っていた。

 雪はその存在を確かに主張し、しかし大きく温かな大地に解け消えた。






一週間後。無事退院した氷華はその扉の前で固まっていた。


「大丈夫……大丈夫……」


三十分。三十分間、その扉の前で同じ言葉を繰り返しては、ノブに手をかけ、それを離す。

また、伸ばされた手は、すんでのところで引き戻された。


深呼吸を一つする。

大丈夫だとは分かっていても、不安は残る。

友を傷つけてしまった罪は、謝ってもなくならない。

だから、もし突き放されても良いだけの覚悟はしてきた。

しかし、扉の前に立つと、その思いは強くなって、押しつぶされてしまった。


「大丈夫……大丈夫……」


しかし、覚悟はそれよりも強かった。

再度呟いた少女は、唇を噛んで、ドアノブに手をかける。

そして、目をいっぱいに瞑って、ままよ、と胸の中で叫んでそれを回した。


中から光の粒が漏れる。それは筋になって、板になって、とうとう視界を黄色く染めた。

それと同時ーー


『氷華、おかえりー!!!!』


何重にも重なる声と、クラッカーの弾ける音。

それを耳朶に受け止めながら氷華は。


「うん。ただいま……!!」


雪解けのような涙を流し、太陽のように煌びやかな笑みを見せる彼女は、かつて自分自身が恐れた氷の少女ではなく、一人の夢見る少女であった。

第三章はこれにて終了です。


次章は『封印の悪魔』編となりますので、ご期待と共にお待ちいただければ幸いです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


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面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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