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82話 氷華とヒョウカ

 ーー待って!


 声にならない声を彼女ーー氷華は放った。

 氷柱の中にいる彼女の声が届くはずもないのだが、前方の少女は振り返った。


『なに?』


 透き通るような、それでいてどこか冷酷で寂しい声が返る。


 氷華は言葉を探し、口にする。


 ーーあなたは誰……?

『私は?』


 少女は首を傾げ、小さく失笑した。

 小さい背中を反転させると、小さな歩幅でゆっくりと近づいてくる。

 そうして氷華が閉じ込められた氷柱の前にやって来た少女は俯く顔をそっと持ち上げた。


 顔にかかった靄のような影が消え、その顔が浮び上がる。

 幼くも美麗な顔立ち。髪は瓶覗色。大きな瞳は銀の光を宿している。

 その容姿を見て、氷華は息を詰まらせた。


 その氷華の表情を見て、少女は再び失笑。そして、先刻投げかけた質問の答えを口にした。


『私はあなたよ。サザナミ ヒョウカ』


 そう。それは、彼女ーー漣 氷華の幼少の姿であったのだ。


 氷華は絶句する中、ヒョウカは言葉を続けた。


『忘れてしまったの?……ううん。忘れさせない』


 声のトーンが低くなる。続く言葉に、氷華は大きく目を見開いた。


『化け物』


 呟き、ヒョウカは氷華の目をじっと見つめる。


『お母さんはそう言ったわ。あなたがお母さんを殺したその瞬間にね』


 ーー違う


『違くないわ。あなたが殺したの。凍馬もお父さんもお母さんも……みんなあなたが殺したの。その化け物のチカラで』


 ーーやめて


『やめる?あなたが始めたことじゃない……今さら被害者ぶったところで、過去の罪からは解放されない』


 そこでヒョウカは皮肉気な笑みを称えた。


『そう言えば、お友達を作ってたわね』


 ーー……え?


『彼らはどうなったかしら?……黒滝 那月や、紅城 紅蓮、薫風 颯、そして……冬雪 碧海』


 その名前に氷華は弾かれるように前を向いた。


『……思い出した?あなたは暴走したのよ……昔と同じくね』


 ーー碧海は、彼女は無事なの?


『さぁ?……そんな事私に聞かないで。あなた自身を見つめ直してみないよ』


 そう言われ、氷華は自分の手の平に視線を落とした。直後そこに血の色を見て顔を青ざめる。


 ーーいや、いやいや……いやァァァァ!!!


『きゃははは!……無様ね。あの時死んでおけば、こんな苦しみ味わわなくて済んだのに。あなたが無駄に生きたせいで、無駄に命が消えていく。結局のところ…………』


 そこで言葉を区切ると、ヒョウカはいっそう侮蔑を孕んだ言葉で吐き捨てた。


『あなたに生きる権利なんて無いのよ……化け物』


『化け物』という単語が脳内で何度も何度も再生され、その度に記憶が蘇る。


 弟を刺し、父を刺し、母を刺し殺した氷の針山。

 滴る血が氷を赤く染め、反対に突き刺さる家族の骸は青ざめていく。


 追い打ちをかけるように新たな記憶が過ぎる。

 追加で三本の氷針が地面より突き出、その頂点に何かが刺さっている。

 見たことがある。それは同級生だ。


 那月、紅蓮、颯。彼らの腹部から多量の血が流れ、小さく動く口から同じ言葉が漏れる。


『化け物』


 やめて、と彼女の口が開くよりも先に新たな氷の針山が現れる。

 やはり頂点には誰かが刺さっていて、氷華はそれを見るのを拒んだ。


 しかし、ヒョウカの謎の力が働き、氷華の顔が上をむく。

 ふと、自らを覆う氷柱に赤黒い液体が滴った。


 それは誰あろう碧海の鮮血であった。


 見上げる氷山の天辺で、彼女の骸の色が薄れる。そして、やはりその小さな口が微かに動いた。


 はるか離れた山の頂上。そこから放たれた微かな小声。

 しかし、それは氷華の耳にありありと届いた。


『化け物』


 同時、氷華は目を閉じた。現実から逃げるように耳に手を当て、体を限界まで縮こまらせる。


 しかしーー


『化け物、化け物、化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物ーーーー……………………』


 延々繰り返されるその言葉に、氷華は小さな嗚咽と、一雫の涙を流し、体から力を抜いてしまった。

「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


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