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80話 五奇病薬(桃)

 「ふむふむ……なるほど……。…………ん?これは……あ、そういう事か…………」


 一人で意味不明な単語を呟くのは、桃色の髪の少女。

 彼女は碧海が自室より持ってきた医学書を眺めながら何度も頷き、同じ量首を傾げる。

 その本にはファフネルの花から製法する薬『五奇病薬』の作り方が書いているのだが、それがどうやら難解で一通りの手順を理解するのに相応の時間がかかるのだそうだ。

 幸いな事に製法は事細かに記載されているので初心者でも時間をかければ理解出来る親切設計だ。


 しかし理解は出来ても技量が無ければ無意味なこと。

 百花は最後のページまで目を通し、しばし瞑想。


 「ーーッ!」


 力強く目を開き、碧海と那月の顔を見る。


 「内容は理解出来たよ。これから製作に取り掛かるから、那月くん手伝って」

 「おうよ!」


 那月が元気よく返事を返すと、碧海がおずおずと手を上げる。


 「百花お姉ちゃん……私は……」

 「お母さんの容態を見ててくれるかな?……悪くなったら手を握ってあげるなりして」

 「え、それだけ?」

 「うん。それが一番大切だから」


 碧海は少し思案顔を見せ、大きく二度頷いた。


 「うん……うん!わかった!」


 碧海は女将さんの眠る部屋へと真っ直ぐに走っていく。

 それを見送った百花と那月はキッチンへと向かった。


 キッチンへ着くなり、百花が調理道具を漁り始める。

 鍋やヤカン、菜箸や包丁を一通り用意する。


 「本当はフラスコとかがあれば良かったんだけど……」

 「まぁ、魔女は大きな鍋で薬を作るって言うしな!」

 「まぁ、それもそっか!」


 能天気な会話をした二人はそれぞれの作業へと移行した。


 「じゃあ、那月くんは鍋に水入れといて!」

 「了解!」


 那月が鍋を持つのを見届けて、百花はファフネルの花の花弁を一枚一枚丁寧に切る。

 それをまな板の上に並べると、銀色の刃が光る包丁を握った。


 ファフネルの花はその調合法によって薬の効果が変わる特殊な薬材だ。

 女将さんの病状を回復させるには、桃色の花弁を四、空色と朱色を二に、黄色と黄緑を一の割合で調合する必要がある。


 「ふぅーーーー」


 百花が大きな息を吐いて、集中をする。

 まず桃色を目算で五等分に分け、一枚を覗いて隣にはける。

 他の花弁も五等分にし、必要枚数だけ横にはける。


 那月が横に鍋を置く音が響く。

 百花はそちらに目をやり、切り分けた花弁を掴みあげる。


 「次はコップの用意をしといて。コップは内側をこのファフネルの花の茎で軽く拭いといてね」


 そういうと、百花は腹を割いて平にしたガラスのように透き通る茎を手渡す。

 那月が作業に向かい、百花も前に目を向ける。


 「さて、こっから…………」


 眼前に置かれた鍋をコンロの上に移動させ、火をつける。

 沸騰するのを待って百花はお湯をビーカーに見立てたガラスのコップに注ぐ。


 温度が九十六度に下がるのを待って、保温機を下に置き、コップの中に黄色の花弁を放る。


 「《天女》」


 同時に百花がスキルを唱える。淡い光をビーカーに当て、スキルを維持する。

 製法の手順の一つで『魔力を当てながら』というのがあるのだ。


 片手でスキルを維持し続け、ビーカーの中を菜箸で混ぜる。

 液体が黄色に染まるのを待ち、保温機のつまみを回し、オフの文字の下で止める。

 すると、たちまち温度が下がるので、九十一度で保温を起動させる。


 「シビアだなぁ」


 そんな事を呟いている間にも黄緑色の花弁を入れた液体は若草色に変色する。

 今度は加熱器で加熱し、温度を九十七度にし空色の花弁。

 九十五度に落とし、朱色。

 最後に百度に上げると桃色の花弁を四切れ投入した。


 「ゆっくり〜ゆっくり〜……」


 菜箸を三秒かけて一周させ、それを十回ほど繰り返したところで、液体の色が白に変わった。

 透き通った白で、よく見ると桃色や空色、朱、黄、黄緑といった花弁色の何かが瞬いて消えてを繰り返している。


 これで薬は完成なのだが残念ながらこれではまだ飲むことは出来ない。

 ファフネルの花は更に一工程加えないと、激毒で、一滴の摂取で死に至るのだ。


 百花は慎重にコップを手に取ると、横にいる那月に声をかけた。


 「那月くん出来た?」

 「おうよ!隅から隅まできっちり拭いておいたぜ!」

 「わぁ〜、ありがとう!」


 礼を言った百花は予め切り分けておいたファフネルの花の茎を那月が用意したコップの内壁に付けると、それに当てる形で薬液を流し込んでいく。


 ファフネルの花の製薬法の最後のひと工夫はこれだ。その茎の中に溜まった中和粘液と合わせることでやっと摂取可能な薬へと化ける。


 全て注ぎ込んだコップを最後に菜箸で掻き混ぜると、小さく息を吐いた。


 「ふぅ。完成っと……那月くん」

 「あぁ。早く行こうぜ。碧海も待ってるしな」

 「だね」


 二人はコップの中の液体が零れないギリギリの速度で廊下を走ると、一つの部屋の襖を開けた。


 「お姉ちゃん!」


 焦燥を滲ませた声で碧海が出迎える。

 視線を少しずらせば、激しく呼吸をする女将さんの姿。汗が布団を濡らし、それを握る手は何かに耐えるようにきつく固められている。


 百花は碧海に安心してという意味を込めた笑みを向けると、女将さんの横に腰を下ろした。

 那月も反対側に座り、そっと女将さんの背中に手を回し起こさせる。

 その際、自重すらも苦に感じるだろうと、自前のスキルで体重を浮かび上がらないギリギリまで落としたのは那月の気遣いだ。


 「水海さん。もう大丈夫です。これを……」


 百花が優しげに言うと、女将さんが瞼を少しばかり上げる。その視線の先に百花を見ると安心したように目を閉じ、唇を震わせた。

 ほんの少し空いた口許に、手を添えながらコップを近づける。

 少しづつ傾けていき、薬を注ぎ込んでいく。

 女将さんが五回に分けて飲んだ薬の、最後の一滴が座れたその時、女将さんの体が白い光を放った。


 「お母さん!?」


 光が収まり碧海が叫ぶ。

 静かな寝息を立てる女将さんを見て、百花は確認するまでも無かったが念の為診察をする。

 数秒女将さんのお腹の上で踊っていた手を止めると、碧海の視線を真っ直ぐに受け止める。


 「碧海ちゃん。ありがと」


 それだけで十分だった。

 碧海は大粒の涙を浮かべると、我慢していた声を盛大に張り上げて母の回復を喜んだ。

「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


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