8話 もう一勝負
「…………さあ、もう一勝負だ……!!」
「ウガガゴルルル……!!」
那月が立ち上がった事にゴーレムは喜びに似た声を漏らす。
「え、ちょっと……大丈夫……?」
「…………」
少女の声は那月には届かず、那月の意識はただ目の前のゴーレムを倒すことだけに注がれる。
「……スゥゥゥゥゥ」
無人の住宅街に那月の息を吸う音だけが流れる。
「……ハァァァァ………スッ!」
「ウゴ……ッ!」
那月が息を吐き、再び短く息を吸う。
それを合図に、那月とゴーレムが大地を蹴る。
「ーーゴルッ!」
「ーーッ!」
ゴーレムの右ストレートが那月の頬を掠める。
休むことなく、左右左と素早いジャブがゴーレムから放たれた。
それら全てを那月はギリギリのところで避ける。
「ゴルラ……ッ!」
「……フッ!!」
拳が放たれてから回避したのでは間に合わない。
那月は、極限とも言える集中の中でゴーレムの予備動作や体重移動などから次の攻撃を予想し、回避しているのだ。
言ってしまえば、これは『ギャンブル』だ。
命をチップとした人生最高最悪の賭け。
「ゴル、ゴル、ゴル……ゴルラッ!」
なかなか当たらないことに痺れを切らしたゴーレムが右腕を大きく振りかぶって渾身のストレートを放つ。
「ーーうッ!!……ここだ!!!」
渾身の一撃は見事に空を切り、胴体ががら空きになり、ゴーレムのチャンスは一転してピンチとなる。
那月はその隙を狙って、空いた胴体に掌底を繰り出す。
「ゴル……?」
「ーークッ!ビクともしねぇ……だったら━━《重力》」
掌底を受けてもピクリともしないゴーレムに那月は自分のスキルを放つ。
「これで…………」
「ゴラァ!!」
「ーー!?」
しかし、結果は何も起こらず、ゴーレムの左拳が、那月の右斜め上から落ちてくる。
那月はなんとかそれを避けると、ゴーレムと距離を取る。
「クソッ!やっぱり……俺のスキルじゃあ……」
ジャリ
「……?」
那月が拳を強く握りしめると、ジャリジャリとした感覚が手の平をなぞる。
「これはーー」
「ーーゴルラァ!!」
いつの間にか那月に近づいていたゴーレムから両の掌を合わせた拳が振り下ろされる。
那月はそれを後ろ飛びで避けると、再度距離を取る。
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン
二度目の鐘の音が残り時間が一分であるということを受験生全員に知らせる。
「……拙い、もう時間が……一か八かやるしかない……!!」
那月は拳を強く握ると、脚に力を入れ、大地をめいいっぱい蹴る。
瓦礫に足を取られそうになりながらも徐々に加速し、遂にゴーレムと肉薄する。
そしてーー
「食らえッ!《重力》!!」
再び腹部を目掛けての掌底、スキルを放つ。
結果は先程と同様ーーではなく、ゴーレムの腹部の砂がホロホロと崩れる。
「よっしゃ!成功!!」
那月は先程ゴーレムの身体全体にスキルを使ったが、今回はゴーレムの腹部の砂一粒一粒にスキルを使ったのだ。
ゴーレムは魔石を中心として、身体全体に魔力を巡らせている。
そして、その魔力が筋肉となり神経となって、砂の体を動かしているのだ。
一定の魔力量で動かされるその身体は、ほんの五百グラム程度重量が増加しても、比例して魔力量を増やせば問題なく動かすことが出来る。
しかし、それが一点だけ増加するとなると話が変わってくる。
魔石から作られる魔力の神経、筋肉は確かに万能ではある。
しかし、それは人間のように万能という訳では無く、あくまで物を動かすという一点に限っては優れているということだ。
逆に言えば全体ではなく一点に集中して重力を掛けると、そこだけに魔力を流すことは魔石では出来ないため、砂を支える力が足りず、砂がホロホロと崩れる事になってしまうのだ。
自分の考えが成功した事に那月は左拳で小さくガッツポーズをした。
しかし、ゴーレムは気にする素振りも無く那月へと拳を振るう。
「ウゴ……?ウゴルラッ!!」
「ーーと……あぶねぇ……てか、全然きいてねぇな……」
那月はしゃがんでそれを回避し、またまた距離を取る。
そして、よく見るとゴーレムの腹部に出来た小さな綻びは新たな砂で修復されて、傷一つない流線ボディへ元通りとなっていた。
「攻略法は分かったんだが……絶え間なくスキルを当て続けないと倒せそうにないな……」
那月は、仕方ないと一人ごちると己の持つすべての力をこの戦いという名の賭けの場にオールインする。
覚悟を決して顔を上げ、ゴーレムへ向けて勢いよく突撃する。
「ーーやってやる……!!」
三秒も経たずにゴーレムの懐まで辿り着くと、ゴーレムの腰の部分に手を当てスキルを放つ。
「《重力》!!《重力》《重力》《重力》《重力》」
ゴーレムの腰の砂がボロボロと崩れていく。
しかし、それを黙って見てるほどゴーレムも優しくない。
「ゴォォラァァ!!」
「ーーッ!」
ゴーレムの手の平が那月を潰そうと両側から迫り来る。
那月はそれをしゃがんで回避すると、今度は胸部に手を当ててスキルを掛ける。
「《重力》《重力》《重力》《重力》!!……これはーー」
「ウゴラァァッ!!」
茶色のボディの中から赤く透き通る物体を那月が見つけたと同時、ゴーレムの右拳が那月の体を目掛けて振るわれるのが視界の端に映る。
「間に合っーー」
その拳が那月の体に当たる直前、那月はその間に左腕を滑り込ませて防御の形を取る。
「ーーうがぁ……!!」
メキメキと鈍い音を耳に、那月は殴り飛ばされ、電柱に背中を強く打ち付ける。
「く、そが……あと、少し……だったのに、よ……でも、勝てない訳じゃない……動きさえ止められれば……」
でも、どうやって……と那月が頭を抱えると、とある一角が目に入った。
「ーーあそこなら……」
「ウゴガァァラァル!!」
「やべッーー」
那月が瓦礫に埋もれたまま、勝ち筋を考えていると、それを隙と見たゴーレムが体当たりをしようと、那月の元へと疾走する。
那月はよろける足にムチを入れ、ギリギリのところで回避する。
「危ねぇな……」
「ウゴ……ウゴガル……」
壁に激突したゴーレムは頭を振ると、那月へと向き直る。
那月はゴーレムに背を向けて、尻をフリフリと挑発をする。
「や〜い、木偶の坊〜!こっちらにおいで〜」
「ガウラルル!!」
バカにされていると理解したゴーレムは再度那月へと突進をし、右、左とパンチを繰り出す。
「ゴル、ゴル!」
「よい、しょっと……」
那月はそれを回避すると、右へと走り出す。
ゴーレムが追い、那月が逃げる。
これを三回程繰り返す。そして、四度目のゴーレムの右ストレートを回避しようと、那月が後方へ飛ぶと、そこには瓦礫の山があった。
「ーーッ!」
「ゴォォォラァァ!!!」
逃げ場は無い。
那月はゴーレムの右ストレートをもろに食らって痛みに頬を引き攣らせる━━
「……ゴルラ?」
「……へへ、やっと……捕まえた……!」
━━否。喜びに頬を緩めた。
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