77話 ノンシーフォレスト・ダンジョン攻略⑨
「…………出来た……」
紅蓮は自分の手に響く感触と、目の前の光景を交互に感じ取り、ようやっと技の成功を実感した。
感覚的には一度しか振るっていないはずだが、それは確実に二本目の刀を振るった証だ。
そして、同時に繰り出されたという証拠に、ツーラン・バオがいくら甲高い声を上げようともその水晶が回復することは無かった。
「出来たァァァ!!」
全力のガッツポーズが振り上げられる。過酷な修行が報われたのだ。それくらいしてもいいだろう。
だが、それが戦場でなければの話だ。
「グァァル!!」
水晶を破壊されたことに対する怒りを爪に乗せた攻撃が紅蓮目掛けて繰り出される。
紅蓮は技会得の余韻に浸っていた為に、それに反応しきれない。
完全に不意をついた攻撃。それが紅蓮の頭を引き裂こうと迫り来る。
「『エリアグラビティ』!!」
直後、ツーラン・バオの爪は重力が追加されたために、紅蓮の鼻先を掠めて地面に落ちた。
あまりの威力に地面にヒビが走った。
「よくやった紅蓮。……だが、気を引き締めろ。これからが本番だ」
「お、おう……わり」
颯の忠告に紅蓮が気を引き締め、ツーラン・バオを睨みつける。
水晶を壊され、攻撃が当たらなかったツーラン・バオの怒りが限界に達したようで、鼻息が荒くなり、瞳には殺意が色濃く映し出されている。
「来るぞ!」
颯の叫びと同時、ツーラン・バオの姿が消えた。
すると、紅蓮の右横から爪による斬撃が飛んでくる。
だがーー。
「効かねぇよ!」
紅蓮は大剣を振り上げることで、それを弾き返す。
反撃によってツーラン・バオの体が浮いて、動きが止まった。
「『氷結の枷』!」
「『エリアグラビティ』!」
二人のスキルがツーラン・バオの動きを完全に止めた。
そして、残る二人が駆け出した。
「『魔剣解放ーー英蓮鳳凰』!!」
「《加速》ーー『絶破連蹴』!!」
紅蓮が燃え盛る大剣をツーラン・バオの胴体に横一文字に斬りつける。
血の噴水が散るが、それで終わりではない。
一拍の間もなく、颯の蹴りが繰り出される。
加速により速くなった足の動きでとてつもない連撃をその胴体へと繰り出していく。
最後に強く蹴り飛ばすと、ツーラン・バオは吹き飛ばされ、背後の大樹へと背を打った。
「やった……のか?」
「それ、フラグ……」
那月の言葉に氷華がツッコミを入れる。
すると、案の定ツーラン・バオが起き上がった。
「がぁ、がぁ……」
しかし、その姿は既にボスモンスターとしての威厳を感じられない程に憔悴しきっていた。
「へっ、もう虫の息じゃねぇか!このままぶっ飛ばしてやるぜ!」
「待て!那月!!」
颯の忠告を無視して、那月が飛び出す。
持ち前の身体能力を駆使して疾駆すると、一瞬でツーラン・バオの懐へと入り込んだ。
「終わりだ……『重外ーー」
「グァルーー!!」
直後、那月は肩に焼けるような痛みを感じた。
そして、浮遊感がそれに続き、最後に投げ飛ばされた。
「ぐはーー!」
那月が壁に背を打ち付け、地面に落ちる。
その直後にツーラン・バオの咆哮が轟いた。
「グァァァァァァァアアアアアアア!!!!」
それは見たくもない光景。
ツーラン・バオの体に黒い靄が纒わり付いていた。
緑の体が赤黒く光り、瞳には混じり気の無い怒りの色が映る。
その光景を紅蓮と氷華は知っている。
ついひと月前に見たそれはーー《狂乱》。
四人の少年少女はそれを見て言葉を失った。
ツーラン・バオの狂乱化に、四つの絶望が空気を満たした。
「うそ、だろ…………」
紅蓮の口からその言葉が零れた。
当然だ。ただでさえ強い相手がより一層の強くなった。その強さはハイ・オークの比では無い。
圧倒的強者。それを前に笑うものはこの場に一人しか存在しなかった。
「はは、はははは!はははははは!!!!」
「な、那月?」
「良いねぇ!そう来なくっちゃ!!」
「グァァゥル……!!」
那月の言葉に呼応するようにツーラン・バオが小さく唸った。
直後、二つの足跡が地面を抉った。
「オラァ!」
「グァァ!!」
那月の拳がツーラン・バオの顔面を弾く。続いてツーラン・バオの拳も那月の顔面を弾いた。
殴る殴る殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
ひたすらに鈍い音のみが反響するその一室。
その中央に立つ二体のモンスターを前に、三人の人間は戦慄と、興奮を覚えた。
「おいおいおい……」
「まともにやり合ってる……!?」
「楽しそう……」
どうやら絶望が限界を振り切ってしまったようだ。三人は不敵な笑みを浮かべると、同時に駆け出した。
「那月!下がれ!」
颯が叫び、スキルを使う。
加速した足を繰り出すと、それはツーラン・バオの顔面にクリーンヒットした。
「おう!」
那月はそれを見て一歩下がる。すると、そこには氷華の姿があった。
「うぉぉぉ!!」
紅蓮が叫ぶ。大剣を振り下ろすと、それはツーラン・バオの硬い皮膚に切り傷を付けた。
今までと比べるととても小さな傷だが、そんなことは気にし無い。
ーー今はただ斬るのみ!!
二人の攻撃を受けたツーラン・バオは暫くして反撃に映る。
「グァァ!!」
鋭い爪が横に薙ぎ払われた。
紅蓮は胸を浅く、颯は肩を深く抉られる。
しかしーー。
「……へへ、捕まえた」
「離さないよ……」
二人は胸に抱えるようにその腕を掴む。絶対に離さないと強く力を込めた。
ツーラン・バオが逃げようと藻掻くが、死力を尽くす二人を前には非力だ。
「そのまま捕まえとけ!!」
那月が叫ぶ。
全員の注目がそこに注がれた。
そこには何も無い空中に地面と平行にジャンプする那月の姿。
「『氷柱』!!」
直後、那月の足裏に氷の柱が出現し、一気に伸びた。
それにより那月がピストルの弾丸が如き勢いで射出される。
「食らいやがれーー」
瞬く間にツーラン・バオの懐まで迫る那月。
腕を振りかぶると、そこに重力を上乗せする。
「ーー『重外拳』!!」
那月の渾身の一撃は見事にツーラン・バオの胸へと当たり、そして穿いた。
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