74話 ノンシーフォレスト・ダンジョン攻略⑥
那月達がその魔力に当てられ動けないでいる中、一人ツーラン・バオの足元を指さす者がいた。
「あ、あれ!!」
碧海が声を上げ、それを指差す。
ツーラン・バオの足元、巨大樹の根元に生えた一輪の花。
五枚の花弁を持ち、それぞれ桃色、黄色、黄緑色、空色、朱色と異なる色をしている。
さらに、花弁はうっすらと光っており、そこから伸びる茎はガラスのように透明だ。
碧海もそれは本の中でしか見たことが無かったが、直ぐに分かった。
「ファフネルの花…………」
全員の視線がその花に集中する。
名前こそ知らなかったが、それが碧海が探していた幻の薬草だと言う事に気がついたからだ。
しかし、そんな事は直ぐに脳内から忘れ去られた。
「ガァァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
空気が揺れ動くような咆哮。
全身の毛が逆立ち、汗が溢れて出る。
息が詰まる程の魔力圧が那月達の体を硬直させる。
顔が青くなり、空気を求めて喘ぐ声が零れる。
怖い、逃げたい。
そんな感情すらも、震えと共に湧き上がる。
「…………くっ、!あぁぁぁ!!!」
「那月!?」
那月が震えを誤魔化すように飛び出した。
「ガル?」
「食らえッーーーー」
「よせ!那月っーー」
紅蓮の静止も聞こえず、那月は振りかぶった拳をツーラン・バオの顔面目掛けて振り放った。
「ガルーー」
ドゴォォォンン!!!という轟音。
「那月!!!」
紅蓮が背後の壁に突き刺さる那月へ振り返る。
一瞬だった。
一瞬すぎて紅蓮の目には何も映らなかった。
那月が拳を振り放った瞬間、ツーラン・バオの腕がボヤけたかと思ったその時には、轟音が耳元で響き、那月が壁に突き刺さっていた。
「那月!!」
「紅蓮!!」
紅蓮が白目を向く那月に駆け寄ろうとすると、颯が声を上げる。
「…………戦闘は既に始まってるぞ」
颯が警戒態勢をとり、姿勢を低くする。
それに倣い、日奏、氷華も戦闘態勢になり、最後に紅蓮も剣に手を添える。
氷華は碧海を背後に隠すと、碧海の周りに分厚い氷壁を作り出す。
「ここに、隠れてて…………」
「氷華お姉ちゃん……」
碧海が心配そうな顔で氷華を見つめる。
氷華は力強く頷くと、小さく微笑んだ。
「大丈夫……大丈夫」
氷華はそう言うと、立ち上がり、そこから離れる。
そして念の為、更に氷壁を厚くする。
尚も心配そうな視線を送ってくる碧海を見えなくする為だ。
「氷華、いいのか?」
「問題、ない……それより、前……来る!」
氷華が注意を促した瞬間、颯の目の前にツーラン・バオが迫り来る。
加速を腕に乗せ、恐ろしい速さで爪を振り下ろしてくる。
「ーーっ!」
颯が後ろに下がろうとするが、遅すぎる。
ツーラン・バオの爪が颯を斬り裂いーー
「だりゃぁぁ!!!!」
「ーーガッ!!!」
突如、ツーラン・バオの体がくの字に曲がり、後方へ吹き飛んだ。
「ったく、痛ぇなぁ……お返しだ、馬鹿野郎」
全員が固まる中、そう呟いたのは、拳を振り抜いた形で静止する那月だった。
「那月!?おま、大丈夫なのか?」
「おう!問題ない!」
親指を立てる那月だが、その額からは一筋の赤い液体が伝っていた。
「大丈夫じゃないじゃん!血出てるよ!」
日奏がそんな事を言うが、那月はそれを聞き流す。
何故なら、怒りに狂ったツーラン・バオの殺意に満ちた眼光が那月を射抜いていたから。
しかし、今度は恐怖は無い。
震えも、汗だって出ていない。
むしろ逆だ。
胸が高鳴り、笑みがこぼれる。
胸中を満たすのはワクワクとした感情。
闘争心という名の化け物が体の内から溢れて、自然と身体を戦闘態勢へと移させる。
「ーーっ!!」
動いたのは那月だ。
ツーラン・バオ目掛けて全力疾走。
そして、腕を振りかぶり、殴り掛かる。
「《:重力》!!」
拳の周りの重力を重くし、目下のツーラン・バオの額に拳が迫る。
「ガァァル!!」
ツーラン・バオが躱そうと足を動かすと、水がピシャリと跳ねた。
どうやら、気付かぬうちに円形に流れる川に足を入れていたようだ。
だが、それはツーラン・バオの致命傷となる。
「……『氷結の枷』!!」
ツーラン・バオの足元の水が一瞬にして凍り、それが足に巻き付いて、ツーラン・バオの動きを止める。
「ーーがる?」
ツーラン・バオが不思議そうに足元を見るが、直後に降り注いだ衝撃に苦悶の声を上げた。
「グァァァアアアア!!!!!!!」
那月の拳を額に食らったツーラン・バオはフラフラと揺れると、字面に膝をついて倒れた。
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