73話 ノンシーフォレスト・ダンジョン攻略⑤
遅れました。
申し訳ありません。
「いっててて……!!!」
那月は腰を擦りながら立ち上がる。
辺りを見渡すと、木の根のようなものがひしめき合い、そのせいで光が届いていなのか、真っ暗だ。
「おい、みんな!大丈夫か!?」
那月が声を張り上げると、すぐ近くから声が返ってきた。
「大丈夫だ。それよりも大きな声は出さない方が良い」
颯の声だが、姿はやはり見えない。
よく目を凝らして、ようやっと輪郭が掴めるくらいだ。
「ったく、またお前の不注意じゃねぇかよ。那月」
紅蓮の愚痴めいた声が聞こえる。
それに続くように、日奏、氷華、碧海が声を出す。
どうやら全員同じところに落ちたようだ。
「しかし、ここはどこだ?」
「分からない。相当落ちたようだけど、こうも暗いと、何の情報も得られないね」
「なんか、光みたいなものは無いのかな?」
日奏がそんなことを言う。
それを聞いた紅蓮が閃いたように声の調子を上げ、剣を抜いた。
「俺の炎で辺りを照らしてやるよ」
「!それはいい考えだ。紅蓮、頼むよ」
「おうよ!」
颯に頼まれた紅蓮は一つ大きな返事を返すと、魔剣を解放させる。
「『魔炎』」
赤い炎が魔剣の剣身を包み込んで、その周りを明るくさせる。
まだ暗くはあるが、全員の顔は見えるようになった。
「これで、ひとまずは安心だ。……だが、ここからどうするか」
「…………?おい、あれって…………?」
颯が今後の方針を相談しようとしていると、那月の視界の端に妙なものが映る。
那月がそちらに指を差し向けると、全員の視線がその指を追う。
紅蓮が気を利かせて、そちらに剣を向けると、そこには荘厳な扉が屹立していた。
「これは…………」
全員が近づいて、改めて扉を見る。
扉のノブはリング状で、凶悪そうなヤギの口に加えられている。
扉自体は古びているが、脆そうには見えず、むしろ強固そうに見える。
紫色の扉はいかにも妖しそうな雰囲気を醸し出し、扉の縁は棘で覆われている。
「……ボス部屋……!?!?」
その扉を目にした一同が思ったことを那月が代弁する。
それを聞いた一同は揃って唾を飲み込んだ。
「おいおいおい、嘘だろ?……だって、落とし穴の先がボス部屋とか、有り得ねぇって!!」
「いや、そうとも言いきれない」
紅蓮が慌てて否定するが、それを颯が否定する。
「まず、ダンジョンには扉が二つ存在すると言われているが、俺たちは既にもう一方の扉を知っている」
紅蓮が口を噤むのを見て、颯が続ける。
「安全地帯が二つ以上ある可能性もあるが、この禍々しい扉に限ってそれは無いだろう」
「で、でも……可能性はゼロじゃない……でしょ?」
碧海が恐る恐る声を出す。
だが、颯は無情にも、しかし優しく首を振った。
「もちろんゼロじゃないけど、この静けさの中、それは無いだろう。安全地帯にモンスターは近づけるが、ボス部屋にモンスターは近づこうとしない。つまり…………」
その先の言葉は言わなかった。
言わなくても伝わったからだ。
全員が押し黙る中、那月が能天気な声で恐ろしい事を言ってのけた。
「取り敢えず入ってみようぜ」
「「「「…………!?」」」」
「は?お前何言ってんだ?」
全員が驚いた顔を見せ、紅蓮が呆れ声で言う。対する那月は、表情を崩さず、言葉を続けた。
「いや、俺たちはこっから出たいわけじゃん」
「……あぁ。だが、出口までは上がらないとーー」
「だから、あるじゃん。出口」
那月が扉の先を指さして言う。
全員の口が吊り上がった。
「お、お前……まさか…………」
「な、那月?……冗談、だよね?」
「…………それは、さすがに…………」
紅蓮、日奏、氷華が、その先を言うなと首を振るが、アホにそれは通じなかった。
「ボスを倒したら外に出られるじゃねぇか」
平然と言ってのける那月。
しかし、その意見にも一理ある事は否定できない。
「…………確かに、上に上がって帰るにしても、トレント以上のモンスターが常にそこらを歩いていると考えると、生きて帰れそうに無いな」
「それに、ここが暗いって事は、暫くは暗い階層が続きそうだね」
颯と日奏の意見を聞いて、一同は考える。
上に上がってトレントより強いモンスターを複数相手取るか、ボス部屋に入ってトレントなんか目じゃない程強いボスモンスターを一体相手取るか。
二つに一つ。
その二択が究極の質問とばかりに時間を消費させた。
十分の格闘の末、全員はボス部屋に入ることに決めた。
「全員、覚悟はいいか……?」
「おう!」
「うん」
「出来てるよ」
「問題……無い」
「足でまといにはなりません!」
それぞれの反応を聞いて、那月は勢い良く、扉を開く。
「しゃあ!!ぶっ倒してやるぜ!!!」
扉を開くと、そこから、白い光が漏れてでる。
一瞬、目が眩み、視界を奪われたが、直ぐに元に戻った。
そしてーー
「おぉぉ!!」
そこに神秘的な空間を見た。
円形の空間。
天井は計り知れないほど高く、円柱のようだ。
上を見上げると、太陽のようなものが光輝いている。
地面は草で覆われており、壁は木だ。
中央へ目を向けると、川が円形に流れていて、その更に中央に島が浮いている。
島には大きな気が一本立っており、金の幹に青々しい葉が生い茂っている。
まさに楽園のような空間に全員が見とれていると、木の下で何かが動く。
「!?、みんな!気をつけろ!!」
颯が叫び、全員の視線が動く物へと移る。
保護色で見えなかったのか、そこには二メートルを優に超える、緑色の豹がおり、こちらを睨みつけていた。
豹は緑色の体に黒い斑点があり、所々に小さな木が生えている。
二本の六角錐の水晶がそれぞれの肩に付いており、透明だ。
おどろおどろしい魔力を纏うその豹は、B級のモンスター、『ツーラン・バオ』だった。
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