72話 ノンシーフォレスト・ダンジョン攻略④
「氷ぉぉ華ぁぁぁあああ!!!」
那月は叫びながら、手を前に突き出すと、最大威力の《:重力》を発動させる。
対象は氷華へ目掛けて振り下ろされたトレントの枝。
「ーーーー!!」
枝は突然加速したかと思うと、氷華の鼻先を掠めて地面に打ち付けられる。
枝はその衝撃に耐えきれず、地面と接触とすると同時に木端微塵となる。
「氷華!大丈夫か!?」
那月は氷華に声をかけると、座り込んでいる氷華に手を差し伸べる。
「ん、大丈……ぶ……」
「氷華!!」
氷華は那月の手を取り立とうとするが、上手く力が入らないのか、直ぐによろけてしまう。
那月がそれを抱きとめる形で受け止めると、颯が口を開く。
「魔力切れか……なるほど、相当切迫していたようだな」
颯は辺りを見回し、地面の氷を確認する。
「那月、まだ魔力は有り余ってるな?」
「おう!」
「じゃあ、半分くらい氷華に分けてやってくれ」
颯の指示を受け、那月は直ぐに氷華の手を取った。
魔力の受け渡しは簡単そうで意外と難しい。
魔力をスキルを媒介としないで『放出』する事で相手側へ送るのだが、この「スキルを媒介としない」というのが、難しいのだ。
生まれた頃から魔力の存在は理解しているが、それをスキルを媒介としないで送るなんてのは魔道具くらいでしか行わない。
しかし、それとて少量。
むしろ、魔道具に吸われているまである。
だが、それを何も介さずに行うとなると、それこそ特訓が必要だ。
それも、一ヶ月程の特訓が。
那月は授業で魔力の受け渡しを習っていたのだが、『放出』を出来なかった為にそれが出来なかった。
しかし、『放出』を習得した今、那月は他人に魔力を渡すことが可能なのだ。
那月は氷華の手を握り、目を閉じ集中する。
直後、那月の手が白く光、それが氷華の手へと流れていく。
「よし、紅蓮ーー」
颯は那月達から視線を外し、紅蓮を呼ぶ。
呼ばれた紅蓮は振り返らずに、腰に差した両手剣の『魔剣グランネビュラ』を抜き放つ。
「分かってるよ!」
紅蓮は赤く光る魔剣を目の前に持ってくると、天に高々と掲げて見せる。
「『魔剣解放━━炎上烈火』!!!」
紅蓮が叫ぶと、魔剣が赤く光る。
そして、次の瞬間、その刀身が盛る炎に呑み込まれる。
「トレントの弱点は『火』だったよな!……だったら、『魔界の炎』はめっぽう弱いよな!!」
紅蓮は燃え盛る魔剣を一直線に振り下ろす。
「『魔炎一閃』!!!」
紅蓮の剣から斬撃が炎を纏って打ち出される。
それは一直線に進んでいき、目の前に屹立していたトレントの体を容易に裂いて、灰に変える。
それでも威力が死なない斬撃はその後ろ、三体程を同じく灰に変えて、消えていった。
「今だ!走れ!」
紅蓮の攻撃によって、トレントの包囲網に穴が生まれた。
そこに颯がいち早く走り込み、碧海をおぶった日奏、同じく氷華をおぶった那月、最後に紅蓮が後を追う。
「とりあえず、走れ!トレントの影が見えなくなるまで走るんだ!」
その後三十分くらい走った六人ーー二人は走って無いがーーは見事、トレントを撒くことに成功した。
「はぁはぁはぁ!!」
「ぜーぇはぁ、ぜぇはぁ!!」
「…………ぁ゛あ゛!!」
「ふぅ、ふぅ……」
走った四人が息を切らしながら、木の陰にもたれ掛かる。
その前に氷華と碧海が星座の体勢で座っている。
「はぁ、はぁ……それで?どうしてこんな危ない事をしたのか教えてもらおうか?」
颯が叱責の声で二人に問いかける。
「!私が悪いの!私が勝手にーー!!!」
碧海が声を張り上げるが、直ぐに氷華に口を押さえられる。
「……またトレントに、見つかりたい?」
「(ふるふる)」
碧海は涙目になりながら、首を《:重力》振る。
それを見た氷華は碧海を解放して、颯に向き直る。
「確かに……悪いとは、思ってる……でも、理由を聞いて、欲しい」
「理由?」
「そう」
その後、氷華は二分をかけて、颯に女将さんの病気の事と、このダンジョンのみに生える特別な薬草の事を説明した。
「なるほど……女将さんが……」
颯は事情を理解したらしく、声を和らげた。
「それでも、君たちのした事はとても危ない事だ。それに、法律違反でもある」
ダンジョンが出現以降、国はプレイヤー以外の者のダンジョンへの立ち入りを禁止している。
それを二人は破ったのだ。
「ごめん、なさい」
「ごめんなさい……」
颯に咎められ、二人は頭を下げる。
それを見た颯は満足気に頷いた。
「よし、それじゃあ、帰ろうか」
続く言葉に最も反応を示したのは氷華でも碧海でも無く、那月だった。
「おい!そりゃあ、ねぇだろ!」
勢いよく立ち上がった、那月は背にしていた木に向けて拳を勢いよく叩きつける。
カチッ
「「「「「「かち?」」」」」」
突如鳴った不吉な音。
それに、皆が耳を傾けた瞬間、地面に穴が空いた。
「え?」
その声は誰のだったか。
少なくとも、皆が同じ心境だったことは明らかだ。
━━まさか、落とし穴があったとは……!
直後、六人は闇へと飲み込まれていった。
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