70話 ノンシーフォレスト・ダンジョン攻略②
安全地帯に入った四人は、石造りの扉に背をもたれさせると、ズルズルと地面に腰を下ろす。
そして数秒の沈黙。
からのーー
「「「「はぁぁぁぁああ…………」」」」
一斉に安堵の息を漏らす。
「助かったぜ」
「お前のせいだけどな」
「なんだとぉ?」
そんなやり取りが行われていたが、四人の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
暫く安心感に浸っていると、那月が疑問を口にする。
「そう言えば、お前らのあのカッコイイ技名なんだよ!ずるいぞ!」
「いや、むしろなんでお前無いんだよ。那月ならとっくに考えてそうだと思ったけどな」
逆に尋ねられて、那月はキョトンとした表情を返す。
「え、だって戦闘で役に立たないじゃん?」
「は?」
「え?」
那月の言葉に紅蓮だけで無く、颯と日奏間でもが首を傾げる。
「…………なるほど。那月、君は技に名をつけることの利点を理解していないみたいだね」
「利点?」
那月が疑問符を頭に浮かべると、颯が説明をしてくれた。
「技に名をつけることは一見すると、不便に見える。技名をいちいち叫んでいたら敵に悟られてしまうし、時間の無駄だ」
「うんうん」
「だがしかし!」
颯が体をぐっと前に出す。
「技名を叫ぶことによって魔力消費を抑えられ、逆に時間を短縮できるという利点もあるんだよ」
「どういうことだ?」
「那月はスキルを使う時、頭で効果を想像して、それに魔力を流す事で技を使っているだろ?」
「そうだけど」
いまいち理解しきれていない那月に颯は説明を続ける。
「だが、それは非効率的なんだ」
「?」
「そうだな…………」
颯は何か考えるように天を仰ぎ、直ぐに閃き顔で那月を見る。
「例えば技をクッキーと考えてみてくれ」
「ふむ……?」
「那月のスキルが生地で、魔力を火だとする。もしその状態で丸いクッキーを作ろうとすると、手で型を整えなければならないから時間もかかるし、形も崩れる。これが技名無しの状態だ。わかった?」
「わ、わかった……」
那月が着いてこれていることに颯は満足気に頷く。
「じゃあ、もしそこに技名という型が決まっていたら?」
「…………あ!?」
那月が何かを思いついたらしく大きな声を上げた。
「そう。型を押すだけで、綺麗な生地が一瞬で出来上がる。あとは火を通すだけで完成だ。ほら、技名があった方が良いだろ?」
「た、確かに!すげぇ!すげぇな!!お前らよく知ってるな!!」
「いや、むしろお前は何で知らないんだよ。確か、お前の特訓の先生は生徒会長だろ?教えてくれなかったのか?」
「教えてくれなかった」
「そ、そうか…………」
生徒会長のずぼらな所が垣間見えた所で、その話は終了となった。
その後、協議の結果、この場で少し休むことに決定した。
そして、さっきの話を聞いた那月はさっそく技名を考えるのだった。
「うーん。まずはやっぱりよく使うところからだよな…………」
那月は立ち上がり、近くの岩まで歩いていく。
岩の前に立つと、手を翳す。
「今、スキルの『付与』は出来ないから、まずは……《:重力》」
那月はひとまず、先程見せた広範囲の重力を上げる技を技名無しで披露する。
目の前の岩にヒビが入った。
「なるほど……こんぐらいだな」
魔力の減りを確認すると、今度は技名ありを試してみる。
「そうだな……範囲……エリア?……重力だから…………よし!ーー『エリアグラビティ』!!」
瞬間、体から魔力が抜ける感覚を感じると、目の前の岩が砕ける。
しかし、那月は首を傾げていた。
「んー?確かに消費魔力は減ったけど、あんま変わんなくね?」
「そりゃそうだよ。今考えたばかりの技名でしょ?技は何回も使うことで体に馴染んでくるんだよ。馴染めば馴染むほど、消費魔力は最低限になってくるって訳」
「なるほど……よし!」
日奏の助言を聞いた那月はその後、休憩時間が終わるまでスキルを使い続けるのだった。
「お前の魔力どうなってんだよ……十五分ぶっとうしで使っても無くならねぇなんて」
「ん?普通だろ。あと五時間は余裕だね」
「化け物が……」
紅蓮と那月がそんなやり取りをしながら、安全地帯の出口に手を掛け、扉を開く。
外に何のモンスターがいないのを確認すると、外に出る。
「さっきの事もある。地面にも注意を注いで、全速で行こう」
颯の言葉に全員が頷くと、揃って駆け出していく。
十層を過ぎた頃から階層全体をくまなく捜索するようにしているが、未だに氷華と碧海の姿は見ていない。
見落としであってくれと願うばかりだが、現実はそう甘くない。
四人は十四層をくまなく探し終えると、颯の誘導で十五層への階段へと行く。
「たく。これだけ探して見つからないたァ……どうなってんだよ?」
「ほんとだねぇ。もしかしたらもう帰ってたり?」
日奏がそんなことを言うが、それは颯によって否定された。
「いや、どうやらそんなに甘くないようだ。これを見てくれ」
颯が地面に指をさす。
三人は促されるままに視線を動かし、顔を歪める。
そこには足跡があったのだ。
一つは子供のもので、もう一つは女性の物だ。
「これって……」
「間違いない。二人のだよ。それも新しい」
「おぉ!近いってことか!?」
いい事じゃねぇか!と紅蓮が短絡的な結論を出すが、颯は深刻な顔を崩さない。
「逆だよ。あの冷静な氷華が碧海ちゃんを見つけて引き返さなかった。ということは何かあったって事だ」
「おい!大丈夫なのか!?」
「分からない。でも、急いだ方がいいのは間違いないね」
四人は顔を見合わせ合うと、一つ頷き、氷華達を追うべく駆け出すのだった。
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