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67話 絶対の約束

 「センセ!!行かしてくれよ!!!」

 「ダメだ」


 那月の叫ぶ声が、旅館の前で轟いた。


 旅館の前には、颯、紅蓮、日奏、那月の姿がある。

 百花より、氷華失踪の報せを聞いて、救出に向かおうとして玄関を出て、音淵先生に止められているのだ。


 那月の意見を聞いた音淵先生は冷淡な声でそれを制する。


 そんな押し問答が、かれこれ十分は続いている。


 「センセは……センセは氷華が心配じゃねぇのかよ!!」

 「…………」


 那月の言葉に音淵先生は押し黙る。

 肯定も、否定も示さない。


 「…………そうかよ」

 「おい、黒滝」


 那月が失望の色を映した視線を音淵先生から切ると同時、音淵先生の横で腕を組んで立っていた枷鎖先輩から声がかかる。


 「音淵先生も心配しているのは同じだ。だが、それをお前達の前で見せると、余計お前達は調子に乗るだろ」

 「そんなことはーー」

 「それに」


 那月の言葉を遮って枷鎖先輩が続ける。


 「お前達が行って何が出来る?」

 「何って……助けるだろ……!!」

 「黒滝、お前は俺にスキルを制限されているんだぞ。他の者も、ダンジョンの主と渡り合える程強くなったとは到底思えない」


 辛辣な言葉が四人の心に深く刺さる。


 確かに、那月達が行って、それで氷華達を助けて戻ってこれる程、ダンジョンというのは生易しいものじゃない。


 熟練のプレイヤー達が、連日ダンジョンで命を落とすのを毎日ニュースアプリで目にする。


 それ故に枷鎖先輩の言葉は重たかった。


 「でも!俺達は十六層に居た巨大な木のモンスターに勝ちましたよ!」


 颯が言う。


 枷鎖先輩はそれに一瞥をくれると、鼻を鳴らした。


 「あぁ。トレントの事だな」

 「そう!そいつでーー」

 「あいつらなら二十層以降にうじゃうじゃと生息しているぞ」

 「え……………………」


 衝撃の事実に颯の口から息が漏れた。


 しかし、それは仕方無い事だろう。

 自分達が決死の覚悟で討伐したモンスターが何体もいると言うのだ。


 颯の心が沈んだ。


 「なら、俺は良いだろ!俺は強くなった!政宗先輩直伝の技がある!」

 「政宗からはまだ未完成と聞いているが?」

 「ぐ…………」


 紅蓮が言葉に詰まるが、諦めないで言葉を繋ぐ。


 「でも、本番でこそ本気が……」

 「本気が出せる……か。それで仲間を危険に晒すと」

 「え?」

 「使えもしない技を、奇跡とやらを信じて使う。例え、それが仲間の生死を別つ重大な場面でも、だな?」


 紅蓮が目を見開いて固まった。

 続く言葉が無いのを見ると、枷鎖先輩はわざとらしくため息をつく。


 そして、日奏に視線を向ける。


 「お前も何かあるか?」

 「…………いえ、何も…………」


 日奏は小さな声で呟くのが精一杯だった。


 全員の力不足が証明された所で、場に重たい空気が漂う。


 風が冷たさを運んでくる。

 空に浮かぶほとんど円の月が流れてきた灰雲に隠れる。


 明かりが消され、那月達の顔にかかる影がより一層暗くなる。


 沈黙が続いて何分たっただろう。

 立ち疲れた枷鎖先輩が旅館の中に戻ろうとして足を進める。


 「…………プレイヤーは……」


 那月が口を開く。

 枷鎖先輩の足が止まり、鬱陶しそうな目が那月を睨みつける。


 「俺の憧れのプレイヤーは……絶対に困っている人を見捨てない、ヒーローのような存在だ」

 「…………で?」

 「力不足とか、死の危険とか……んな事たァ十分承知してんだよ!!」


 枷鎖先輩は何も言わずに見守っている。


 「それでも、彼らは助けに行くんだ……傷だらけでも、泣いていても……最後は絶対帰ってくる。……俺は!!そんなプレイヤーになりたいんだよ!!!」


 静謐な森を那月の声が駆けて、幾重にも重なって返ってくる。


 「……だから、行くのか……それで、死んでも……?」

 「死ぬつもりはねぇさ……言ったろ?最後は絶対帰ってくる、ってさ」

 「ふ……くくく、あははは!!!」


 那月が笑ってみせると、枷鎖先輩は腹を抱えて笑った。

 よく見ると、目じりには涙が浮かんでいる。


 「先生。全責任は俺が負いますよ」

 「……分かった」

 「え、てことは……」

 「だが!」


 那月達が顔を見合わせ、歓喜の声を上げようとした所で枷鎖先輩の声が被せられる。


 「那月、お前にかけた縛りは解かない」

 「分かってる」

 「それと、絶対に氷華と子供を連れて戻ってこい。誰一人として欠けることなくな」

 「「「「……うす!!!!!!」」」」


 全員が声を揃えて返事を返すと、枷鎖先輩と音淵先生は踵を返して、旅館の中へと消えていった。


 後に残った四人は顔を見合わせた後、ダンジョンへ駆け出そうとする。

 しかし、そこへ旅館の入口を勢いよく開いて出てきた少女が待ったをかける。


 「那月くん!」


 百花である。

 急いできたようで額には汗が窺える。


 「私も……」

 「百花!……お前はお前の仕事があんだろよ。女将さん、放っとして大丈夫なのか?」

 「それは…………でもーー!!!」


 百花が尚も食い下がろうとするので、那月は親指を立てた拳を突き出す。


 「大丈夫。無事連れ戻ってくるからよ!!」


 ニカッと笑った那月は百花の返事を待たずに駆けて行った。


 残る三人も那月に続いて走って行った。


 四人の姿を見送った百花は両手を絡めて祈ることしか出来なかった。


 「那月くん…………頼んだよ」


 一分程、そのままじっと目を閉じていた百花は、瞼を上げ、頬を叩くと旅館の中へと戻っていくのだった。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


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面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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