63話 枷鎖先輩の特訓
林間学校五日目午前。
那月と翔は枷鎖先輩の元に集合していた。
「「先輩、課題クリアしました!」」
「……へぇ」
枷鎖先輩は感心したように声を漏らす。
だが、その目は不敵に細められる。
「ならば、見せてもらおうか」
「おう!いいぜ!」
枷鎖先輩は腰をかけていた岩から立ち上がると、岩山が無数に立ち並ぶ、その中央に移動する。
「どうやって見せるんですか?そこらの岩にでも?」
「いいや……恐らく他のグループも同じことをしているだろう」
「?」
那月が首を傾げるのを見て、枷鎖先輩は面白そうに笑う。
「対人戦だ」
「「!!」」
その言葉に二人は驚いた顔を見せるが、すぐに笑みをたたえる。
「なるほど」
「これでやっと、先輩をぶっ飛ばせるぜ……!」
「雛が卵から孵ったくらいでライオンに勝てるとでも?」
その後、枷鎖先輩の提案で準備時間兼、作戦時間を経て二人と一人は対峙する形で向き合っていた。
「いつでもかかって来い。むろん、二人で来ても構わぬ」
枷鎖先輩がそう言うので、那月は翔と目配せをし、頷き合うと、二人同時に駆け出した。
まず那月が普通のパンチを繰り出す。
だが、当然ながらそれは避けられる。
しかし、それは那月も承知の上。
罠は既に仕掛けられている。
枷鎖先輩が避けた先、そこに翔の拳が迫っていた。
「二段構え……だが、工夫がたりない!」
「それはどうかな……《:重力》!!」
「なに!?」
瞬間、枷鎖先輩の体がずしりと重くなり、回避が遅れる。
それが隙となり、翔の拳が枷鎖先輩に当たる。
ーーと思われた。
「ーーだから工夫が足りない」
「……くっ!」
翔の腕に巻かれた鈍色の鎖が光る。
そう、翔の拳は枷鎖先輩に当たる直前で止められたのだ。
まさに不意をついた一撃。
それを止められた二人は枷鎖先輩の蹴りを避けられず、後方へ吹き飛ぶ。
「……どうして」
「どうして?愚問だな。この対人戦がお前達の成長を見るテストである以上、お前達の新たなスキルの使い方を警戒しない訳が無い。違うか?」
真っ当な意見に二人は揃って口を噤む。
「さて、不意打ちは失敗だ。次はどう来る?」
「翔……」
「あぁ、わかってる」
翔は頷くと、腰の辺りに手を回す。
そして、そこから何かを抜き出した。
それは白い光の弧を描くと、翔の胸の前に構えられる。
「短剣……?」
「そう。そして、《雷電》!」
翔がスキルを発動させると、短剣が黄色く輝き、雷がその刀身で飛んで跳ねる。
「なるほど、武器に付与させたのか」
「はい。先輩のを真似させてもらいました」
枷鎖先輩は自分の鎖に目を落とす。
「だが、お前は並外れた身体能力がある訳じゃないだろう?」
「えぇ、ですからーー」
翔は那月の方を向くと、短剣を放り投げた。
短剣が空を舞い、那月の元へと落ちていく。
那月は飛んでくる短剣の柄の部分を持ち前の動体視力で見極め、キャッチする。
「俺が行くんすよ!!」
そう言い、那月は地面を強く蹴る。
「速い……!まだ『記憶の鎖』は解いていない筈なのだが……」
「はっ!俺が十人分の生活なんて三日もあればなれるってもんよ!」
「超人が……」
そんなやり取りをしているうちに那月は枷鎖先輩の懐まで入り込む。
「……いくらお前が早くても真正面は愚策じゃないのか?……《鎖鎖》!!」
枷鎖先輩が地面に手をつくと、地面から無数の鎖が突き出してくる。
それらは那月に狙いを定めると、那月を拘束するために伸びてくる。
だが、それは先程、翔が食らっているのを見ている。
策を持たずに突っ込むほど、那月は馬鹿じゃないのだ。
「《:重力》!!」
鎖に手を翳して狙いを定め、スキルを発動させる。
すると、途端に鎖の動きが悪くなる。
枷鎖先輩の作り出す鎖は枷鎖先輩自身がスキルを通じて操作している。
しかし、そこに掛かる集中は相当なもので、複数を一度にとなるとそれこそ動きながらでは出来なくなる。
ならば、一本一本の鎖の重さをバラバラにしてしまった場合、どうなるのか。
答えは一つ、統率が取れなくなる。
「はぁ!!」
動きの悪くなった鎖を飛び越え、那月は枷鎖先輩に短剣を繰り出す。
だが、流石は生徒会長。
スキルを使えない状態でも、首を傾げることでその攻撃を回避した。
「ーーッ!」
しかし、短剣が頬を少し掠った為に、そこから高濃度の電気が体に流れる。
「…………くっ!……少し、お前達を甘く見ていたようだ。少々本気を出そう。鶏を相手取るくらいまでな」
「行かせてもらうぜ!」
「…………!!」
枷鎖先輩が不敵に笑い、那月と翔が駆けていく。
それから晩まで対人戦は続いたが、結局那月達は勝てず。
しかし、スキルが強化された事はわかったので、次回からはもっとハードな特訓になると宣告された時の二人の顔は不思議と笑顔だった。
本作をお読みいただきありがとうございます。
「面白い!」
「続きが気になる!!」
「頑張れ!!!」
と思って頂けたら
下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。
面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。
ブックマークもして頂けると本作の励みになります!
また、感想なども思った事を書いて頂けたら私の励みになります!!
何卒よろしくお願いします。




