61話 陸王先生の特訓
音淵先生グループが砂地を去った後。
その砂地は、同じくそこを使用していた陸王先生グループの貸切となった。
「ガハハ!!!なんと!貸切とな!!!」
バカでかい声で筋肉ダルマこと、陸王先生が砂地の中央へと歩いていく。
その後ろを朝日、日奏、獅雄の順で耳を塞いでついて行く。
陸王先生が立ち止まり、振り返る。
「さて、アイツらが新しい特訓をするというのなら、こちらも新しい特訓をしようじゃないか!!」
「まじ!?」
「それは、嬉しいですけど……」
「心配ではあるな!」
朝日、日奏、獅雄が反応する。
全員微妙な表情だ。
「なぁに、心配することは無い!むしろ喜べ!!前までの特訓よりハードで濃厚で筋肉な内容だ!!」
「やっぱりかぁ…………」
朝日が落胆の声を上げる。他の二人も肩を落とす。
それを見て陸王先生は不思議そうに首を傾げる。
「なんだ?嬉しくないのか?」
「いえ、なんでもないです」
「……そうか」
日奏の応えに、不服そうな声を上げるが、陸王先生は一つ咳払いをして、ニカッ!と笑う。
「では、今日からの特訓を発表する!!その名もーー」
そこで言葉を切ると、大きく息を吸う。
そして、叫んだ。
「対!人!!戦!!!」
「「「〜〜〜〜!!!」」」
空気が爆発した。
耳を塞いでもなお、脳が揺れるほどの振動が陸王先生の声から振るわれる。
まるで暴力のようなそれに殴られ、三人が復帰したのは、二分が経った頃だった。
「ーーッ!いい加減に声の調整覚えろよ、このッ……クソデカ声ジジィ!!!!!」
「ジジっ……!言ってはならぬことを!!やる気か朝日!!!」
「おうよ、やってやりますよ!!対人戦だろうが対声戦だろうが、かかってこいやぁ!!!」
朝日が叫ぶと、クソジジ……陸王先生は嬉しそうに目を細めた。
「そうか、そうか。早く特訓を始めたいという事だな。わかる、分かるぞその気持ち」
「そこまでは言ってなーー」
「だが、しかし!!!!!!!!!」
陸王先生の目がカッと見開かれる。
「その前にお前達に一つ言わなければならない事がある」
珍しく声を抑えて話す陸王先生に三人は驚きを隠せない。
だが、陸王先生は気にした様子は無く、話を続ける。
「俺はーーーー手加減が出来ない」
「「「は?」」」
「だから……本気で戦え。……さもないと死ぬぞ」
「「「ーーーーッ!!!!!」」」
低く小さな声音で告げられた一言は、三人の瞳に覚悟を灯させるのに十分すぎるものとなった。
「ガハハハハ!!!じゃあ、始めようか!!三人一斉にかかってこい!俺に勝てるのは何日後だろうな?」
不敵に笑う陸王先生は腕を組んで仁王立ちをする。
その目は「いつでもかかってこい」と言っていた。
三人は目配せをし合うと、陸王先生を中心に三角形を作るように散らばった。
「へぇ」
「じゃあ、行きます!!」
最初に動いたのは日奏だ。
日奏は地面を蹴り、一瞬で陸王先生の懐に入ると、人差し指を突き立てる。
「《波紋》━━『高波紋』!!!」
日奏の指の先に一滴の水が生まれ、それが陸王先生の胸を水面にして落ちるイメージが浮かぶ。
ちゃぷり、と水滴が水面に吸い込まれ、そこに波が生まれる。
波は中心に行く程高く、外へ広がるほど弱くなる。
「……?」
陸王先生は首を傾げる。
攻撃にダメージが伴わない事を不思議に思っているようだ。
だが、それもそのはず。日奏の技は攻撃では無く、補助なのだから。
「《武神》━━『武闘気』!『岩砕拳』!!!」
陸王先生が困惑していると、その背後から朝日がジャンプして拳を振るう。
朝日の身体は赤いオーラを纏っており、その拳は普段の倍以上の速さを出している。
『武闘気』はその身体能力を増加させる技だ。
つまり、速さも増していれば、攻撃力も増しているというわけだ。
「ーーッ!」
予想を超えた速さで迫る拳に陸王先生は咄嗟に腕を胸の前でクロスさせることしか出来なかった。
しかし、その顔には危機感は無い。
━━朝日の力ならば衝撃が少しあるくらいか……問題ない!!!
陸王先生がそんなことを考えるが、そこではたと気づく。
先程、日奏が使った技。それがまだ効果を見せていないという事に。
「まさかーーッ!」
「遅い!!」
陸王先生が回避を考えるが、それは既に手遅れだ。
朝日の拳が陸王先生の腕を打つと、その体が後方へ吹き飛んだ。
「ーーっつ〜〜〜!!!」
陸王先生は青くなった腕を振り、顔を歪ませる。
そう、喜びの笑みによって。
「ガハハハハ!!!面白い!日奏の技で俺に入るダメージを増加させ、朝日が威力の増した攻撃を入れる。…………ククク、面白い、おもしろいぞ!!」
「ふんっ!陸王先生よ、無駄口がすぎますぞ!」
陸王先生が先程の攻撃を吟味していると、獅雄がその背後から現れる。
「《金剛》━━『金剛力士』!!!」
「なにっ!」
獅雄の体が銀色になり、鋼よりも固くなる。
「『鉄壊』!!!」
そして、そこから繰り出される攻撃は朝日のそれよりも重たい。
だが、今度は陸王先生は吹き飛ばされずにそこに踏みとどまった。
「良い連携だ。が、まだ弱い!!」
陸王先生が再び不敵な笑みを浮かべる。
それに対して生徒三人は唇を尖らせる。
「いやぁ、今のは入ったと思ったのに!」
「強すぎるよぉ〜」
「俺が勝てない、だと……!」
それぞれが嘆いていると、陸王先生は胸を張って叫んだ。
「さぁ、何度でもかかってくるといい!!時間はたっぷりあるからな!!!」
それを聞いた三人はそれから何時間もぶっとうしで対人戦を続けるのだった。
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