60話 金色蛍採取③
颯の案内で向かった先にいたのは、緑色の毛色の狼を貪る大きな大きなリスだった。
リスは全長二メートル程もあり、明らかに通常モンスターでは無い。
ボス、あるいは変異種だろう。
毛色は血斬リスと同じ桃色。いや、若干こちらの方が濃いだろうか。
尻尾の本数も一本多く、口元からは血に染った、針のように鋭い牙が二本覗く。
「なんだ?あいつ…………」
「血斬リス……じゃないのか?」
「なわけねぇだろ……!」
木の影から天斗と颯がデカリスを眺める。
そして、その下からひょっこり顔を出しためめもリスを見る。
「あ、あれは……」
「知ってるのか?」
「えぇ、あれは血斬リスの上位種で『ジジリス』です」
「……漢字は?」
「『死死離首』です」
「また物騒!!」
めめの答えに天斗が叫ぶ。
それがいけなかった。
「グギャ……」
低い声が唸る。
三人は恐る恐る首を捻り、死死リスに目を向ける。
すると、深緑色の団栗眼と目があった。
「グギャギャ……!!!」
「み、」
「「「見つかったぁぁーーー!!!!」」」
三人同時に上げた悲鳴に似た声は、森中に響き渡り、それが開戦の合図となった。
最初に動いたのは死死リスだ。
丸太のように太い脚が地を蹴り、一瞬にして間合いを詰める。
そして、颯の懐に入ると地を蹴った方とは逆の脚で蹴りを繰り出した。
「グギャ!!」
「……ッ!?……《加速》!!!」
颯は迫る脚に対し、スキルを用いて己の蹴りを合わせる。
空気が一瞬揺れるような衝撃が走る。
直後、颯の体が宙に浮き、後方へ吹き飛んだ。
「ガッ……!」
「颯!」
颯はそこら中に生える木の一本に背を打ち、静止する。
それを見た天斗が、腰に差した短剣を抜き、死死リス目掛けて走り出す。
「《集中》」
スキルが発動され、天斗の感覚が研ぎ澄まされ、同時に周囲の動きが遅くなる。
死死リスが天斗目掛けて蹴りを放つが、間一髪の所で避けられる。
避ける、避ける、避ける。
数回それが繰り返され、拉致があかないと判断した死死リスが後方へジャンプし、距離を取る。
「グギャ、ギャ…………」
思案するように唸るが、警戒は解かれていない。
一切の隙もないその様子に天斗は黙って見てるのみ。
暫くして何かを思いついた死死リスは姿勢を低くし、ダッシュの構えを取る。
そして、地面が数度蹴られ、今までで最も加速された死死リスが突っ込んで来る。
「何度やっても無駄だぜ!」
加速した勢いのまま蹴りを放ってくる死死リスを天斗はまたも紙一重で回避する。
だが、それで終わりでは無い。
死死リスは前に出した脚で地面を強く踏み込むと、それを軸に回し蹴りを放った。
想定外の攻撃に天斗の体は反応出来ず、くの字になって蹴り飛ばされた。
「アガッ…………!!!」
天斗の体はサッカーボールのように転がると、雑草に絡まれながら、動きを止めた。
「二人とも、大丈夫ですか!?」
心配するようにめめが駆けてくる。
「あぁ、大丈ーーっ!」
「んだよ、これは!!」
先に飛ばされた颯が立ち上がろうとするも、痛みで思うように動けない。
天斗も全身に絡みついた雑草が邪魔をして動けない状態だ。
つまり、この場で動けるのはめめだけという事になる。
「…………!」
「グギャ?」
めめは意を決すると、挑むような目で死死リスを睨みつける。
「次は、私です!」
死死リスに宣戦布告すると、背負っていたバックを放り投げる。
「《狐憑》━━『黒狐』!!」
瞬間、めめの瞳が赤く染る。
髪が毛先から黒に侵食されていく。
髪が黒に染まったと同時、頭から同色の耳が生える。
鼻と口が伸び、銀糸のような髭が伸びる。
顔、首、体、腕、脚と順番に黒毛に覆い尽くされ、背中がぐっと丸まる。
最後にお尻から尻尾が伸び、めめが黒狐へと変化を遂げた。
『行きます』
「グギャ!?」
めめは地面を蹴ると、死死リスに噛み付いた。
狐と化しためめの脚力は凄まじく、死死リスと同等か少し劣る位まで強化されていた。
一瞬にして距離を詰められ、反応しきれ無かった死死リスは肩から血を噴き出す。
しかし、死死リスの筋肉を舐めてはいけない。
めめの牙は半分もくい込むことなく、跳ね返されてしまった。
『く……硬いです……』
「ギャギャギャ…………」
めめが離れると、死死リスも適切な距離を取る。
『…………』
「…………」
両者が睨み合いを効かせ、殺気立った空気が場を満たす。
それから数十秒睨み合っていたが、痺れを切らした死死リスが突進を仕掛けてきた。
今度は蹴りではなく、さっきのめめの攻撃の仕返しのつもりか、牙での噛みつきである。
「ガァっ!!」
『ーーッ!』
先刻よりも素早い動きに、一瞬めめの動きが遅れた。
それが戦いにおいては致命傷。
めめの胴体を狙った噛みつきは、めめが動いたことにより、足を穿った。
『ーーグぅッ!!!』
骨を噛み砕かれ、思うように動かせない。
歩くことは出来ても走ることは無理だ。
めめが苦悶の表情を見せると、それを好機と見た死死リスがトドメの攻撃に移る。
めめの周りを走ったかと思うと、徐々に加速していき、とうとう目で追えなくなる。
そして、
『……う!……あ!……きゃ!』
右、後ろ、前、左、と全方位から攻撃が加えられる。
めめの体に浅くはあるが傷が増えていく。
更に攻撃は激化し、とうとうめめの意識が朦朧とし始めた。
「グギャ!!」
そして、最後だと言うように死死リスが声を上げる。
めめの真正面から牙を剥き出して死死リスがトドメの突進を仕掛ける。
めめがもうダメかと目を瞑る。
その時だったーー
「━━『乗速一脚』!!」
めめの目の前に人影が現れ、それが死死リスの顔面に蹴りを放った。
それは吸い込まれるようにして顔面に当たり、剥き出しだった牙を容易くへし折った。
「ギャギャ……!!!」
「ごめんな、めめ。痛い思いをさせてしまった」
そう言ったのは颯だった。
めめが颯に目を向けようと体を動かすと、緊張の糸が解けたのかめめは地面に付してしまった。
「ありゃ、寝ちまったか……」
「グギャギャギャ!!!」
颯が人に戻っためめを抱き抱えると、怒りに震えた死死リスの声が耳朶を打った。
それは蹴られたことへの怒りか、それとも無視されたことへの怒りか、はたまた両方か。
「あー、無視して悪かったな。……でも、お前こそ俺ばっか見てて良いのか?」
「グギャ?…………ギャっ!」
颯がニヤリと笑うと、死死リスは怪訝そうに目を細めた。
次の瞬間、その死死リスの胸に刃が光った。
天斗である。
天斗は短剣を勢い良く死死リスの胸に突き立てると、その命を狩りとった。
「ふぅ、死ぬかと思った」
「無事倒せてよかったよ」
めめを抱えた颯と天斗は、倒れる死死リスを見下ろして呟いた。
「所で、これからどうするよ?」
「取り敢えず今日のところは止めだろう。めめも寝ちまってるしな」
颯はめめの寝顔を横目で見る。
すぅすぅ、と可愛らしい寝息を立てている。
それを見て男二人は顔を赤くすると、同時に笑った。
その後、死死リスの魔石を取り出した第四班は、ダンジョンを出て旅館に戻るのだった。
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