59話 金色蛍採取②
めめについて行くこと十分。
颯達は一体のモンスターとも出会う事なく下層への階段を発見した。
三人はそれぞれ目配せすると、一斉にその階段を駆けて行った。
「おぉ!!」
「これは……」
「凄い、ですね」
階段を下ること一分。
眼前には森が広がっていた。
三人はその光景にただただ唖然とし、感嘆の言葉を漏らすのみ。
「ーーッ!」
その時、カサカサと雑草が擦れる音が聞こえ、三人が警戒態勢を取る。
すると、草むらから一つの影が勢い良く飛び出した。
「モキュ!」
出てきたのは一匹のリス。
桃色の毛色で、大きな尻尾が二つ生えている。
何とも可愛らしいリスだが、めめと颯は警戒態勢を緩めない。
しかし、天斗は警戒をとき、しゃがんで手を伸ばす。
「お、なんだ?ちっこくて可愛いな。……こっちこーい、ちちち…………」
「あ、おいバカーー」
「あ?…………」
颯の焦った言葉に天斗が振り返った。
その時ーー
「ギュギャギャ!!!」
「ーーいっっっってぇぇぇぇ!!!!」
リスが凶悪な牙を天斗の腕に突き立てた。
天斗は叫び、腕を振ってリスを振り落とそうとするが、全く離れる気配が無い。
その様子を見て、めめが呆れ半分で口を開く。
「天斗くん。そのモンスターの名前は『チギリス』と言います」
「ち、ちぎりす?ーーいててて!!」
「はい。『血斬離手』です」
「物騒な名前だな!!」
血斬離手とはその名の通り、手に噛み付いて、その手がちぎれるまで離れないという何とも物騒なモンスターなのだ。
そして、今天斗の手に噛み付いている。
「ご愁傷さまです」
「助けろぉ!!」
颯が天斗に手を合わせると、天斗は噛まれている最中なのに的確なツッコミを打ってくる。
━━余裕あんじゃん
颯がそんな事を考えていると、天斗はついに我慢の限界に達したようだ。
「……いい加減に、しやがれぇえ!!……《集中》━━『弱点看破』!!」
瞬間、天斗の体感時間が引き延ばされ、周りの動きが遅くなる。
更に、天斗がリスを睨むと、その胸部が白く光る。
そこは血斬リスの弱点だった。
「ここだぁ!!」
天斗が叫び、リスの胸部に掌底を食らわせる。
掌ほどの大きさのリスの胸部に、寸分違わず掌底を打ち込むには、並大抵の集中力が無いと出来ないだろう。
しかし、その点に関しては天斗はスキルを使うことでクリアしていた。
一ミリのズレも無く胸部に掌底を打ち込まれたリスは小さく鳴くと、それを断末魔とし、その場に落ちた。
「はぁ、はぁ」
「お疲れ〜」
「おぅ〜…………ってなるかぁ!!」
息を切らした天斗に颯が軽く労いの言葉をかけると、天斗はノリツッコミで返してきた。
━━やっぱり余裕があるな
その後、助けてくれなかったことに文句を言う天斗を颯が適当にあしらうと、それが余計に怒らせてしまったようで、天斗が更に喚き始めた。
暫く天斗が喚き散らしてしたが、疲れてきたのか、口を閉ざした。
颯は無意識していた指耳栓を外すと、めめに目を向ける。
「さっきので『血斬リス』の戦闘力は知れたから次からは無視でいいだろう」
「ですね。新しいモンスターが出たら対処して、その強さに応じて次からの対応を考える。弱ければ無視、強ければ警戒。こんな感じでどうしょうか?」
「あぁ、いいと思うよ」
二人が話を進めると、それをつまらなさそうに聴いていた天斗が割って入る。
「んな事より!!先、進もうぜ」
にっこりと笑う天斗に颯もめめも頷く。
「だな」
「はい。では、二人ともこっちです。ついてきてください」
「おう!」
「了解!」
走り出すめめに返事を返して、二人も後に続く。
それから程なくして、三人は三層へ続く階段を見つけ、下層へ足を踏み入れた。
三層は二層とあまり変わらず森が広がるばかりだ。
唯一違う点は、地面を覆う雑草の背丈が少しだけ高いことくらい。それ以外は全く同じだった。
「変わり映えしないな」
天斗がつまらなさそうに言う。
だが、それも仕方ない。金色蛍が出るという五層までこの景色が続くと思うとそんな声も出てしまうだろう。
めめが天斗を一瞥して、匂いを頼りに先に進む。
三層は二層より大きいのか、二層を踏破した時間より二倍ほどかかり、四層への階段を見つけた。
「結局、あのリスしかモンスターは出なかったな」
二層からここまで、颯一行が出会ったモンスターは血斬リスのみである。
それがまた、戦闘を楽しみとする天斗を退屈にさせた。
「あぁ!!すまねぇけど、一回新種のモンスターと戦おうぜ!」
「んー…………」
天斗がそんな提案をしてきた。
颯は顎に手を当て考える。
本来ならばそんな危険は犯さないのが正解だ。
だが、仲間のやる気が削がれ、注意散漫になるのであれば、それは必要な過程とも言える。
颯があれこれ考えた後、天斗に向かって頷く。
「分かった。四層に入ったら一回戦闘を行おう。そんな事を言うんだ、モンスターを見つける手段はあるんだろう?」
「おうよ!!」
天斗が元気良く返事をするのを見て、颯はめめに謝った。
「勝手に決めて悪かったな」
「いいえ。大丈夫ですよ。それに私もちょっとだけ暇でしたから」
めめは優しく微笑んだ。
颯もそれに釣られ、微笑み返すと、天斗が待ちきれないと言わんばかりに急かし始めたので、早速階段を下ることにした。
四層は案の定と言うべきか、これまでと変わり映えしない森が広がるばかりだ。
だが、様子が少しだけおかしい。
静かなはずの森が騒がしいのだ。
勘違いと言われればそれでお終いなのだが、どうも胸騒ぎがする。
颯が首を傾げる横で、目を輝かせた天斗はスキルを発動させた。
「《集中》━━『空間探知』」
目を瞑り、何かを探すように、顔を揺らす天斗は突如、眼鏡の奥でハッと目を見開くと不敵な笑みを浮かべた。
「見つけたぜ……それも大物だ」
その言葉に颯の胸騒ぎは確信へと変わった。
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