58話 金色蛍採取①
颯が旅館の前に行くと、そこには既に天斗とめめの姿があった。
「よっ……そんじゃ、行こうか」
「おう!」
「えぇ」
三人は旅館を出て右側にある森の奥、そこにひっそりと佇むダンジョンへと向かった。
「何にもいねぇな」
苔の生えた黒の扉を潜って発せられた第一声は天斗のものだった。
それは言葉通り、入ってなかなか歩いたが、薄暗い洞窟の割には一体のモンスターとも出くわさなかったのだ。
「まぁ、先に入ったやつが片付けてくれたんだろ。手間が省けて助かるよ」
「ちぇ、せっかく特訓の成果を見せてやろうと思ったのによ」
「その時はよろしくな」
天斗がうずうずしながら拳を手のひらに叩きつけている。
颯はそれを横目にめめの名前を呼ぶ。
「稲荷さん、頼めるかな?」
「えぇ、任せてください」
めめは少し緊張しながら返事をすると、手を胸の前に持ってくる。
両手をぎゅっと握ると、大きく息を吸う。
「《狐憑》」
そして、スキルを口にした。
めめのスキルは己に狐を憑依させるというものなのだが、以前このスキルを使用した時、めめは狐に体を支配され暴走してしまった。
そのため、今回音淵先生には狐に体を乗っ取られない為の特訓を言い渡された。
内容は『狐との対話』。予め憑依させる狐の霊と対話し契約を交わすことで、最低限の対価でその狐の力を借りるというものだ。
契約はスキルを通したものの為、契約以上の対価を要求される事も無い。
「うお!」
めめがスキルを発動させると、ダンジョン内にも関わらず、突風が吹き、めめの体を包み込む。
天斗が驚きの声を上げるが、更なる衝撃に襲われる。
「……ほ」
風が収まり、めめが姿を現す。
だが、少し様子が違う。
パッと見、あまり変化は無いが、少し視線を上げると、そこには確かな変化がある。
耳が生えているのだ。
顔の横についているものとは別に、頭から耳が生えているのだ。
ピンッ!と伸びた耳は髪と同じ狐色で、先端だけが黒く染まっている。
時よりピコピコ動くので、コスプレなどでは無い。
次いで、颯は視線を落とす。
その先はめめのお尻の付け根。
そこには尻尾が生えていた。
猫のような細いものじゃなく、ぼさっとした太いもの。
配色は耳と同じで狐色に先端だけが黒くなっている。
こちらもゆらゆらと上下左右に揺れているのでコスプレなどでは無い。
以上、二つの要素を追加しためめがそこにはいた。
「…………ほ」
手を握ったり、耳や尻尾を触ったりして、自分が暴走していないことを知ると、めめは安堵の息を吐く。
「おぉ、制御できるようになったんだな」
「はい!暴れなくて良かったです」
「そっか…………おい、天斗お前もなんか言ったらどうだ」
めめの成功を素直に喜ぶ颯だが、隣で黙りこくる友人に声をかける。
だが、返事は無い。
天斗はめめを見てフリーズしていた。
「………………………………………………も」
「も?」
「萌」
「は?」
突然意味不明な言葉を発した天斗に首を傾げていると、天斗は鼻息を荒くして、めめにゆっくりと迫って行った。
「なんだ、その耳!なんだ、その尻尾!!可愛い子に可愛い要素追加したらもう…………可愛い!!」
「え、と……」
急に変な事を言い出す天斗に、めめは困ったような反応を見せる。
「何故そんな可愛いんだ!天は天才なのか!?ここは天国か!君は天使か!俺は死んだのか!!!」
「ちょ、ちょ……」
天斗が一歩一歩と詰め寄っていく。
めめは助けを求める視線を颯に送り、一歩一歩と後退していく。
「はぁ、はぁ、さ、触ってもいいでふか?」
「ひっ……いや、ちょっと……」
天斗の口調が変化し、少々、いやとてもキモくなり始めた。
それに対し、めめも怯えた声を上げる。
天斗が近寄り、めめが逃げる。
それが数回続けられたが、めめが壁に背中をぶつけたところで、天斗とめめの距離が一気に縮まる。
それでも天斗は近づき続け、とうとうめめが涙目になったので、颯は天斗の頭にゲンコツをお見舞した。
「いい加減にしろ!」
「いっーーーーは、俺は何を……!!」
「……まじかよ」
天斗の意識が飛んでいたようで、めめの容姿が変わった後の記憶を失っているという事実に颯は友達ながら少し引いてしまった。
だが、このままでは天斗が可哀想なので、颯が天斗に己が犯した奇行を言い聞かせると、天斗は顔を青くし必死にめめに謝罪した。
「ほんっっっっっとぉにすんませんしたァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「いえいえ、気にしてませんよ」
「おぉ、颯……この人は女神だ」
「いや、人間だよ」
天斗の土下座に慌ててフォローするめめ。
そんなめめを見て、天斗は涙目で祈りのポーズをとった。
再びバカな事を言い始めた天斗をめめから引き離すと、颯はめめに尋ねる。
「それで、分かるかな?」
「はい。少し待ってください」
めめは鼻をクンクンさせると、暗い洞窟の先の方に指を指す。
「そっちに下層への階段があるんだな?」
「恐らく。一番血の匂いがしますので」
「んじゃ、行くか」
「おう!」
颯の言葉に正気を取り戻した天斗が返事を返す。
めめも頷くと、匂いを頼りに走り出した。
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