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55話 夏帆先輩の特訓

 林間学校三日目。


 その場所はつい二日前まで周囲と同じく木々が生い茂っていたのだが、今は何も無い砂地と化している。


 そして、そこには森を砂地に変えた二人が睨み合う形で立っている。


 一人は常に無表情で冷たい視線を放つ少女ーー漣 氷華。

 もう一人は表情豊かで常に笑顔を見せる娘ーー盆東風 夏帆。


 その二人がピリピリとした空気をぶつけ合っているのだ。


 理由は簡単。

 それこそが夏帆先輩が氷華に課した特訓なのだ。

 特訓内容は対人戦。


 特別鍛える部分の無い氷華に、教えるのを面倒くさがっている夏帆先輩。

 二人が揃えばその特訓内容になるのは必然と言えよう。


 初日から、本日まで二人は日が沈むまで延々と戦闘を続けて来たのだ。

 特待生の氷華と生徒会という学年の頂点と言っても過言ではない組織に所属する夏帆先輩が戦って地形が変わらない方が不自然と言えよう。


 そして、本日もまたその戦いが始まろうとしていた。


 「盆東風先輩・・・・・、今日こそ勝つ……」

 「夏帆先輩って呼んでね」


 氷華は皮肉を多分に含んだ言葉をぶつける。

 対する夏帆先輩は笑いながらも額に青筋を浮かばせる。


 何故こんなにも険悪な雰囲気なのかと言うと、それは氷華が夏帆先輩に一度も勝てていないことにあるだろう。


 氷華達は今日まで三十を超える戦いをしてきた。

 だが、そのうち氷華が白星をとったことはただの一度も無い。

 故に、氷華は機嫌が悪いのだ。


 ならば、夏帆先輩はどうしてなのか。

 こちらは、とても個人的なものだが、夏帆先輩にとって盆東風という名はコンプレックスらしい。


 本人曰く「可愛くない」ということのようだ。


 なので、初対面の人には名前で呼ぶことを強要している。


 だが、負け続けの氷華はその事に気がつくと、腹いせとしてそこを弄り始めたのだ。

 故に、夏帆先輩は機嫌が悪いのだ。


 こうして剣呑とした雰囲気の中、二人の特訓が開始された。


 「盆東風先輩、先手は譲る……」

 「一度も勝てずに何を……?あと、夏帆ね」

 「……吠えずらをかかせる……!」


 先に動いたのは氷華である。

 毎回初撃は氷華と決まっているが、今日はいつもとは違う。


 「ーーッ!」


 夏帆先輩もそれを見て、驚き目を見開く。


 普段の氷華ならば、遠方から地面に氷の剣山の様なものを生成し、それを相手まで地面伝いに伸ばしていくという攻撃をする。


 だが今日は、手を後ろにし、氷塊を生成すると、氷塊が地面を押す勢いで一瞬にして夏帆先輩の懐に侵入することに成功する。

 その際、足からスキルを発動し地面を凍らせていたため、想定の倍以上のスピードを出すことが出来た。


 夏帆先輩の出鼻を挫く事に成功した氷華はそのままの勢いで攻撃に移る。


 「…………!」


 拳に氷を纏わせ、それを夏帆先輩の顔面目掛けて繰り出す。


 「……くっ!!!」


 面を食らった様子の夏帆先輩だったが、何とか平静さを取り戻し、ギリギリのところで回避に成功する。


 回避する際、飛び込んでくる氷華を半身で受け流し、ついでにカウンターとして、腹部に強めの風を送り込み、吹き飛ばす。


 因みにだが、夏帆先輩のスキルは《風神》という風を操るスキルだ。


 「がはっ……!」


 致命傷とは行かずとも、それなりの圧迫感に氷華は着地と同時に唾を吐く。


 「驚いたけど、まだまだね。工夫が足りないぞ」


 可愛くそう言う夏帆先輩だが、頬を一滴の汗が流れたのを氷華は見落とさない。


 「……その割に、少し焦ってる……?」

 「、!……無駄口を叩く暇があったら、次の作戦考えな!!」


 夏帆先輩が風の刃を飛ばしてくる。

 しかし、氷華は冷静に対応する。


 その攻撃は何度も見たのだ、だから適切な対処法を知っている。


 「……《氷凍》!」


 氷華は風の刃の通り道に氷の壁を生成する。


 風の刃は氷の壁にぶつかると、三分の二ほど削ったところで、その姿を消した。


 氷華が安堵の息を発する。

 が、ーー


 「……!?」


 氷華は驚いた顔を見せる。


 先程、氷華が夏帆先輩に面を食らわすことが出来たのはそれが相手にとって初見であったから。

 つまり、夏帆先輩にとって想定の範囲外だったからだ。


 ならば、その想定外が自分だけに対して効かない道理があるだろうか?

 いや、無い。


 止まったと思われた風の刃の進行は、再び再開された。

 別の風の刃によって。


 そう、夏帆先輩は風の刃を二本放っていたのだ。

 一つは先程氷を削ったもの、もう一つはその真後ろで削られて出来た氷の道を辿ってきたもの。


 その二本目の風の刃が、今氷の壁を突き抜けた。


 威力はまだ十分にあり、当たれば血が出る事は避けられない。

 だが、氷華はとっさの出来事だったため、スキルを上手く操作出来ず、スキルによる防御は不可能。

 ならば、氷華に取れる行動はただ一つ。


 「…………っ!!」


 夏帆先輩と同じく、半身になることでその攻撃を回避する。


 氷華はそれを無事成し遂げ、頬を掠めながらも回避する事に成功する。


 頬を血が伝うが、今はそんな事を気にしていられない。

 氷華は直ぐに夏帆先輩を捉えるべく視線を前に向ける。


 しかし、そこで硬直する。



 先程まであった夏帆先輩の姿がどこにも見当たらないのだ。


 右を見ても左を見ても見当たらない。

 隠れられる場所の無いこの場所で一体どこに?という疑問が胸中を満たし口から零れる。


 「どこ……!!」

 「上よ」


 不意にかけられた返事に、氷華は反射的に上を向く。


 するとそこには、風を足場に宙に浮かぶ夏帆先輩の姿があった。


 「……!!」


 氷華は空飛ぶ夏帆先輩を見て、今度こそ思考を停止させた。


 隙を見つけた夏帆先輩は勝利の笑みを浮かべ、氷華の頭上向けて飛び降り、重力に従うがままに、氷華の頭にゲンコツを食らわせた。


 「〜〜〜〜ッ!!!!!!!!」


 ゴツン!という音が木霊して、氷華は頭を抱えて蹲る。


 その前に降り立った夏帆先輩は笑みを浮かべたまま氷華に向けてピースサインを送る。


 「またあたしの勝ち♪」

 「…………もう一回!!」


 氷華はめいいっぱいの怒りを込めて夏帆先輩を睨みつけ、そう叫んだ。


 それから日が沈むまで何回も試合をしたが、結局氷華はただの一度も勝つことは出来なかった。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


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面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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