50話 特訓の準備
那月達は音淵先生達がいる砂地から少し離れて、大きな岩が至る所に鎮座する場所へと来ていた。
「ここだ。ここで特訓を行う」
「ここで……」
那月が辺りを見回す。
ここにも木は生えておらず、地面は砂地なのだが、大きな岩のせいで見通しが悪い。
対人戦などの特訓には不向きだろう。
特に那月と翔の二人には……
翔がその考えに至ったのか、緊張に喉を鳴らす。
だが、枷鎖先輩から伝えられた特訓内容は予想の斜め上を行くものだった。
「さて、お前らにはこれにスキルを全力で使ってもらう」
そう言って振り返った枷鎖先輩の手には二本の漆黒の鎖。
「なんすか、これ?」
「これで何が……?」
那月と翔は同時に首を傾げる。
「お前らに教える義理は無いのだが、何も知らない事に全力も注げまい……いいだろう。教えてやる」
枷鎖先輩は手のひらを上に向ける。
「見ていろ……《鎖鎖》」
すると手のひらから紫色の鎖が伸びる。
「俺の《鎖鎖》 は、鎖を生成する能力だ。そしてーー」
枷鎖先輩は鎖を那月達の後ろに生える一本の木に伸ばし、その幹に巻き付ける。
そして、鎖が音を立ててその円を小さくすると、幹が音もなく切れ、上半分がなぎ倒された。
「俺の鎖は事象を具現化させることが出来る。今のは『斬る』という事象を鎖の形に具現化したのだ」
那月達は開いた口を閉じる事無く、枷鎖先輩の話を聞いていた。
「この鎖はお前達のスキルの強さと性質を見る物だ。お前達が全力でスキルを使うことで、より適切な訓練内容を伝えることが出来る」
枷鎖先輩は手元の漆黒の鎖を差し出してくる。
「……なるほど」
「……わかりました」
那月と翔はそれを受け取ると、少しだけ離れ、スキルを使うために腰を落とす。
「全力で、スキルが使えなくなるまでだ」
「「分かってます!」」
「《:重力》!!」
「《雷電》!!」
両者の鎖がそれぞれ光る。
那月は紫色に、翔は黄色に。
「はぁぁぁ!!!」
「……………!!!」
那月は気合いを声に出しながら、鎖にスキルをかけ続ける。
逆に翔は静かに、黙々とスキルを加え続ける。
「さて、どれくらい持つかな」
枷鎖先輩は、近くの岩に腰をかけ、二人の様子を眺めるのだった。
一時間後。
「はぁ、はぁ……クソっ……もう、限界……」
初めにバテたのは翔だった。
時計を一瞥しながら、枷鎖先輩が寄ってくる。
「一時間か、なかなか上出来だ。ふむ、流石特待生といった感じだな」
「あ、ありがとうございます」
翔は肩で呼吸をしながら、枷鎖先輩に感謝を述べる。
枷鎖先輩はそれを受け取ると、先程まで腰掛けていた岩に戻る。
翔もそれについて行き、促された岩に腰をかける。
「さて、それじゃあ黒滝の様子でも見ているか」
「はい」
枷鎖先輩と翔は今尚叫び続ける那月を眺めた。
一時間、二時間と時が過ぎ、開始から三時間が経った。
「……長いな」
枷鎖先輩の顔に初めて焦りの色が見えた。
流石の枷鎖先輩も一年生がここまで持つとは思っていなかったのだ。
それも、特待生でも無い、最下位の黒滝那月が。
枷鎖先輩が那月を選んだのは、ただの好奇心だった。
校長先生が興味を持った人間。
しかし、校長の推薦でありながら特待生になれず、しかも最下位であるという異常な人間。
それがどんなものなのか、ただ、動物園に珍しい動物を見に行く程度の感覚だった。
期待はしていなかった。
だが、どうだろうか。
白浪翔もよくやった方だ。
しかし、それ以上の事を目の前の少年はやっている。
そこに自分の考えの愚かさ、そして、校長先生の目が正しかった事を悟った。
━━こいつは化ける
「おい、黒滝、もうやめていいぞ」
「え、あ、はい」
突然声をかけられた那月は一瞬戸惑ったが、すぐにスキルを解除する。
枷鎖先輩と翔が近寄ってくる。
那月は枷鎖先輩に鎖を渡すと、大きく伸びをする。
三時間も中腰でいたものだから、腰がバキボキと音を鳴らした。
「那月、まだいけたのか?」
翔が問う。
那月は少し考えて答える。
「そうだな、あと一、二時間はいけたな」
「「ーーッ!」」
その発言に二人は目を丸くした。
那月は五時間スキルを使い続けることができると言ったのだ。
それは、上級のプレイヤーレベルの魔力量を持っているということだ。
驚くのも当然である。
枷鎖先輩は自分の考えが正しかったと確信し、二つの鎖をそれぞれ手に持つ。
「さて、これで準備は終わりだ。これから訓練を始める。覚悟はいいか?」
「「はい!」」
二人は大きな返事を返す。
それに対して枷鎖先輩は不敵な笑みを浮かべた。
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