5話 裏切り
「手を.........組む?」
那月は徹の言葉を復唱し、尋ねる。
「うん。僕と那月で手を組むんだ。僕のスキルは戦闘には不向きでね、その代わり支援は得意だから安心して欲しい。だからさ、僕と那月で手を組めば効率的にゴーレムを倒せる、そう思わないかい?」
「なるほど!やっぱり徹は天才だな!俺にはそんな発想無かったよ!!」
「ハハハ、ありがとう。それで、僕の提案乗ってくれるかい?」
「もちろんだ!」
徹の提案に那月は即答し、伸ばされた手を強く握る。
「それじゃあ、那月のスキルを教えてくれないか?お互いのスキルを知らないままじゃあチームワークなんて成り立たないからね」
「スキル……そ、そうだよな。スキル……」
「……?」
那月はその提案を受け、言葉が喉に詰まる。
那月は過去に自分のスキルを聞いて良い顔をした者を知らない。
故に言葉に困る。今まで通り嘘を付き他人を騙して己を隠すか、それとも徹を信じて……失望されない事を勝手に期待して、本当の事をありのままに事実として打ち明けるべきか。
那月が深く思案していると、何を思ったのか、徹が口を開く。
「ごめん那月。僕の考えが至らなかったよ」
「ふぇ?」
「那月は僕が君のスキルだけを聞き出して、僕のスキルを教えない事を心配しているんだね」
どうやら徹は、那月の沈黙を自分への不審と捉えたらしい。
徹に思わぬ勘違いをされ、情報の整理がつかず放心する那月。それをまたも間違って捉えた徹は言葉を続ける。
「わかる。わかるよ那月。人という生き物は疑っても疑い足りないほどにあざとく、恐ろしく、醜い。まるで詐欺師のようだよね」
「……」
「でも信じてくれ。僕は君を裏切らない」
「そうだな。徹、お前は信じられそうだ」
「……そう言って貰えると嬉しいよ。でも、本当に無神経だった。謝るよ、ごめん。」
「いや、いいって。気にしてないからさ、頭上げてくれ」
徹はしばらく頭を下げていたが、姿勢を正し、真剣な眼差しで那月を見据える。
「那月、君は信頼できそうだ。だから、教えるよ。僕のスキルは……《強化》。自分や他人に力を与えるスキルだ。」
「強化……強そうだな!」
「そうだね確かに強いよ。でも僕一人じゃ使い物にならないんだ。なにせ、僕は非力だからね。一に二を掛けても、所詮二にしかならないよ。」
「苦労してんだな……お前も…」
「まあね.........」
それだけ言うと徹は那月に笑みを見せて、手を叩く。
「さて、それじゃあ次は那月の番だね。教えてよ。那月のスキルをさ」
「あ、あぁ。……スキル、だよな.........」
「.........那月?」
「……はは、なんか恥ずかしいな.........これ」
「那月」
「……ごめん。言うよ。分かってる。分かってるんだ」
やはり言葉が喉に詰まる。色々な感情が言葉を紡がせまいと邪魔をする。
それでも那月は頭を振って雑念を切り捨てる。
恐怖は克服したし過去はもう振り返らない。と。
だが、どうしてだろうか。恐怖も過去も切り捨てた。それなのに、それなのに━━
━━それなのに恐怖が脳裏を離れない、過去が尾を引いて離れない、怯えが背中を突いては離れない、嫌な予感が……後を付いて離れない.........
やっとの思いで那月はその一言を口に出した。
「お、おれ……の、スキル、は……!」
「.........うん」
「俺のスキルは《重力》だ」
「《重力》?聞いた事が無いな。でも、効果は名前から想像出来るよ。重力を操るんだろ?とても強いじゃないか!」
「い、いや、違うんだ」
「違うのかい?」
「俺のスキル……《重力》は、そんな凄いものじゃないんだ。本当は、本当は……『物質の重さを加減五百グラムまで変えられる』っていうスキルでさ……!」
那月は無理やり笑って、そう答えた。そうしなければ徹の期待を裏切る事への恐怖と、その後の徹の反応への不安で押しつぶされる気がしたから。
しかし、当の本人の反応はない。
那月は期待と不安でその顔を見ることは出来ず、下を向く。
しばらくの間、沈黙がその場の空気を覆い尽くす。
「……なんだよ、それ」
沈黙の後に訪れたのは静かで凍りつく様に冷たい空気だった。
━━あぁ、やっぱりな……
那月は顔を上げない。その空気を知っているからだ。
この後に向けられる視線も、投げ捨てられる言葉も知っている。
那月のスキルを耳にしたものはみな一様に負の感情を視線に乗せてきたから。失望、同情、侮辱、幻滅。
━━それらの視線はもう慣れた。慣れるほど見飽きた。
那月のスキルを耳にしたものはみな一様に負の言葉を投げ捨ててきたから。罵倒、中傷、冷評、嘲弄。
━━多くの言葉は聞き飽きた。飽きるほど聞いてきた。
「がっかりだよ。他の奴とは違う気配を感じて来てみれば、こんな雑魚スキル……。君は僕の貴重な時間を無駄にしたんだ。この落ちこぼれ……!」
━━それでも.........
「……ッ」
リーンリーン、と試験開始の鐘が鳴る。
那月は奥歯を噛み締め、胸の辺りを強く握りしめる。
身を翻して門へと向かう徹の背中を見ることはない。ただ、俯きがちに呟いた言葉は誰の耳にも届くことは無かった。
「━━痛てぇよ.........!!」
何分そこで俯いていたのだろうか。
異変に気づいた試験官が駆け寄ってくる。
「……あなたは……。那月さん、どうかしたのですか?試験はもう始まっています。急ぎ門を潜り、試験に取り掛かってください。」
「…………はい」
何とか出た声は掠れていた。
那月は今が試験の最中であることを思い出し、子鹿のように立ち上がると、おぼつかない足取りで門へと向かう。
しかし、そこで待ったがかかる。
「待ってください。那月さん……いえ、黒滝那月。特別に一つアドバイスをしましょう。」
そこで、試験官の椚はゴホンと咳払いをすると、わざと低い声を作り出す。
「……大切なのは結果じゃない。生きようと、最後まで足掻くそのいしだ!……です。頑張ってください」
那月は何も言わない。聞いていたかすら定かではない。ただ、その足取りは少しだけよく見えた。
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