48話 林間学校概要
三章スタート!
夜陰。
その建物に住む住人が全て寝静まった頃。
その少女は苦悶の声を上げた。
「ーーアァァァァ!!」
被る毛布には霜が降り、置いたグラスの中身は固体となった。
壁面は凍りつき、床には透明な板が出来、月明かりに照らされ、輝いている。
「……はぁ、はぁ」
ひとしきり叫び声を上げ、息が上がる。
吐く息は白くなり、空気に溶けて消える。
それが少女には酷く悲しく見えた。
まるで、自分を見ているようでーー
「う〜〜〜、バスレク!やる人ー!!!」
「「「イエーイ!!」」」
その車内は喧騒に満ちていた。
乗るのは那月の所属する弾二四高校一年A組の面々である。
その中には当然那月の姿もあるのだが、那月は窓の外にある、頭を白くした山を眺め、一週間ほど前の出来事を思い出していた。
それは、入学からおよそ一ヶ月程経ったある日のホームルームの事。
「ホームルームを始めるぞー」
普段と変わらない様子で入ってきた音淵先生は普段と変わらない口調でそう告げた。
全員が席に着いた事を確認した音淵先生は口を開く。
「突然だが、林間学校に行くことになりました」
「「「「「…………」」」」」
一瞬の静寂。
からのーー
「「「「「えぇぇぇ!?!?!?」」」」」
驚愕の声。
そして、全員が言葉の意味を咀嚼するなりそれぞれが思い思いの感想を口にする。
「え、うそ、まじで?」「どこ行くの?」「何泊?」「何するんですか?」「携帯持ってっていいの?」「メイクはありって感じ?」
などなど。
それぞれが声を出すもんだから、教室内は都会の街中並の喧騒だった。
「黙れ」
「「「「「…………」」」」」
先刻まで場を支配していた喧騒は、今や口笛の一つすら吹く事をゆるされない静謐な空間に食い殺される。
これはここ一ヶ月で音淵先生に行われた教育の賜物である。
いや、あれを教育と言うにはいささか生易しい気もするので、脅育としておこう。
とまあ、物の見事に脅育された面々が静かになったのを確認して、音淵先生が林間学校の概要を説明する。
「今回の林間学校は『林間学校』と銘打ってあるが、実際は強化訓練合宿だ」
「強化訓練合宿?」
那月が疑問を零すと、全員の焦りの視線が那月を射抜く。
そして、那月も自分の行った愚行に気がつき、冷や汗を滴らせる。
案の定、音淵先生の優しみに満ちた双眸が那月をロックオンしていた。
「黒滝、『黙れ』と言った筈だが?」
「す、すんませんしたぁ!!!」
「次は無い」
それだけ言うと、音淵先生は説明を続けた。
「特訓の内容は現地で説明するとして、場所はここからバスで五時間程走った先にある『海無しの森』という旅館だ」
「『海無しの森』って、森に海があるわけねぇじゃん」
那月の言葉に、全員が頭を抱える素振りをする。
音淵先生が静かに那月に近づいて、その首を脇に抱える。
「え?」
そして、プレス。
「宿泊場所はその旅館。六泊七日の長旅だ」
「痛だだだだだだ!!!」
音淵先生は那月を無視して説明を続ける。
「日時は早いところで来週だ。準備ならこの週末に終わらせておけ」
「痛い!痛い!!痛いってぇぇぇ!!!」
全員が那月に同情の視線を向ける。
那月は今にも泡吹きそうなほど、首を強く締め付けられている。
「こ……の……!!」
那月は音淵先生の腕を掴むとーー
「《:重力》!!」
スキルを発動させる。
先月の戦いで無事生還した那月は、己のスキルが強くなっていることに気がついた。
初峰先生曰く、魔力回路に必要な魔力の量が十分に満たされた為、ということだ。
よって今の強化された那月の《:重力》は、人の骨を優に折るだけの力があるのだ。
「なにか、したか?」
「…………いえ、何も」
だが、当の音淵先生はというと涼しい顔で、那月に微笑みかける。
これは那月が再度スキルを使えなくなったのでは無く、音淵先生のスキルによるものだ。
音淵先生は静かに那月の首を絞めるホールドをキツくする。
そして、この一月で何度したか分からない説明をする。
「何度も言うが、俺にお前ら程度のスキルは通用しない。俺が触れてしまえば、お前らのスキルは掻き消えるんだからな」
「あばばばばばーー」
そう、音淵先生の《響振》は相手の魔力波に合わせた波を作り出すことで、そのスキルの発動を無効にする事が可能なのである。
那月に対して行われた説明は、那月が泡を吹いて気絶したことで、完全な無意味となった。
「さて、これでホームルームは終わる。何か質問がある奴は後で俺の所に来い」
音淵先生は那月のホールドを解くと、ホームルームを締め、教室を出ていった。
「はぁ、」
那月はその事を思い出し、ついため息を零す。
「那月、どうしたの?楽しくない?」
那月のため息を聞いた、隣の席の日奏が尋ねてくる。
那月は、それに対し首を振る。
「いや、ちょっと考え事をな……」
「そっか、それならいいけど……それより、バスレク、やろ?」
日奏はそう言うと、一枚の折り畳まれた紙を渡してくる。
那月は紙を見て、ついで笑顔の日奏の顔を見る。
そしてーー
「そうだな、楽しむか!」
「うん!!」
日奏から紙を受け取る。
「んで、これなんだ?」
那月が紙を開くとそこには『罰ゲーム』の文字。
「あ、那月、罰ゲーム……」
「え……」
それから現地に到着するまで、バス内はどんちゃん騒ぎだった。
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