46話 活性化
「百花……俺はもういいから、おっさんを治してやってくれ」
「え、でも、那月くんは……」
「早くしてくれ……これ以上は、怒りでどうにかなりそうだ」
「ーーッ!」
百花が見た那月の顔は、鬼すらも恐れおののきそうな怒りの形相だった。
背筋に寒いものが走った百花は、無言で頷き、泉貴の元へ走っていく。
「すぅ……」
那月は泉貴の方へと向かっていくミノタウロスに目を向けると、大きく息を吸いーー
「ミノタウロォォォォォォォス!!!!!!!」
そう、叫ぶ。
「モォフ……?」
ミノタウロスはその声に動きを止め、那月の方を向く。
「ーーッ!モフゥ」
そして、そこに恐怖を感じた。
那月の目に宿る殺意は、ミノタウロスすらも怯えさせたのだ。
ミノタウロスは自分が初めて恐怖という物を感じたことに歓喜の声を上げる。
そして、それをもたらした那月を睨みつける。
「ミノタウロス、お前だけはぶっ殺す……例え俺が死んでも……!!」
那月はミノタウロスを睨みつけながら、ポケットの中に手を突っ込み、中の物を取り出した。
紫色に輝く丸薬。
魔力活性薬だ。
「ーー!那月くん、ダメぇ!!!」
嫌な予感を感じた百花が那月を見て、叫ぶ。
だが、当の那月には届かない。
今の那月にあるのは、ミノタウロスを殺す意思だけなのだから。
「あー…………ゴクン、ゴクン、ゴクン………」
那月は袋に入った魔力活性薬を全て(・・)飲み込んだ。
直後ーー
「ガ、アァァァァァァ!!!!!!!」
全身が焼けるような痛みが那月を襲う。
細胞という細胞が悲鳴をあげ、毛穴という毛穴から血が吹き出る。
だが、同時、暖かく優しい何かと熱く激しい何かが、身体中を駆け巡り、那月の中を満たしていく。
「アァァァ!!……くっ!……力が溢れてくる……これなら……でも、そう長くは持たないな……」
那月は痛みを飲み込むと、 グッと手を握りしめる。
「だからーー」
那月はミノタウロスを睨みつけ、足に力を入れる。
「一瞬で決める!!!」
地面を強く蹴り、一瞬でミノタウロスの懐に入る。
更に、そこでジャンプをし、かかと落としの姿勢をとる。
そしてーー
「ーー《:重力》!!!」
那月はスキルを口にする。
先刻までなら絶対に発動しないと思われていたそれは、今は何故か発動出来るという確信が那月にはあった。
事実、那月の踵落としには倍以上の重力がかかり、一瞬にして、ミノタウロスの額へ打ち込まれた。
「ーーガっ!」
那月の踵落としを食らったミノタウロスは額から血を流し、地面に膝をつく。
小さく漏れた声は轟音に掻き消される。
「ーーーー」
間髪入れず、那月はミノタウロスの顔面目掛けて、スキル上乗せの拳を繰り出す。
「モブ!」
「ーーッ!」
ミノタウロスは膝を着いた状態で、地面に手を当て、そこから岩の針を伸ばす。
それは那月の顔に穴を開けようと迫る。
那月はそれを後ろにジャンプして避け、ミノタウロスと距離をとる。
「ーーッ!」
那月の体を蝕む痛みがより一層強くなる。
那月は痛みに足がふらつく。
ミノタウロスがその隙を見逃す訳もなく、大きめの針を飛ばしてくる。
那月はそれを右に身を倒して躱す。
だがーー
「モォフッ!!!」
「く……《:重力》!」
躱した先にはミノタウロスの拳が待ち構えていた。
避けることの出来ない一撃。
那月は食らうことを覚悟して、吹き飛ばないために自身の体重を重くする。
「ーーグっ!!!」
直後、ミノタウロスの巨大な拳が那月の腹部を抉るようにしてめり込む。
骨の数十本から軋み声が聞こえ、内数本からは折れた感覚が確かに伝わる。
それでも、那月は《:重力》で重くしていた体重のおかげで、その場に留まることに成功した。
視界がぼやけてくる。
血が外に流れすぎているせいだ。
足がふらつく。
意識が薄れているせいだ。
それに加えて痛みが増していく。
だが、那月はそれら全てを無視する。
何故なら、次の一撃で勝敗が決まるから。
「ぁぁアアアアアアアア!!!!!」
「モォォォォォォオオオ!!!!!」
那月が己を騙すために雄叫びを放つ。
それに続くようにミノタウロスも吼える。
二つの声が重なり、一つの空間を支配する。
空気が震え、地面が揺れる。
それらが止まり、静寂が訪れた次の瞬間、両者が同時に動いた。
「ーーくッ!」
「ーーモッ!」
那月は腕を振りかぶり、ミノタウロスは地面に手を着く。
「《:重力》!!!」
「モォォォブッ!!!」
那月は己の拳に重力を乗せ、拳を放つ。
ミノタウロスは地面から特大の針を生み出し、那月に向けて伸ばしてくる。
那月の拳がミノタウロスに迫る。
ミノタウロスの針が那月に迫る。
だが、若干だが、ミノタウロスの針の方が速く、那月の拳はミノタウロスに当たることなく、那月は倒れるだろう。
ミノタウロスの針が切迫する。
針は瞬刻後には那月の顔に穴を開けているだろう。
だがーー
「ーーッ!」
那月はそれを首を傾げて回避する。
針が頬を掠めて、赤い液体が頬を流れる。
「あぁぁぁぁぁ!!!!!」
ミノタウロスの針を回避した那月は、気合いを声に込めて、拳を振り抜く。
拳はミノタウロスの頭部を捉え、その頭蓋を粉々した。
「モ、ォ…………ーーーー」
静かな断末魔を残して、ミノタウロスはその場に倒れ、それ以降起き上がることはなかった。
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