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45話 双弓

「《双弓》ーー『ツインショット』!!」


 四本の矢が飛来する。

 矢はミノタウロスへ向けて飛んでいき、その背中へと突き刺さる。


「ンモォォ!!!」


 ミノタウロスは声を上げ、大きく開いた口を閉じる。

 背中からは血が流れ、足を伝って地面に落ちる。


 突然の攻撃にミノタウロスは驚き、手を開く。


 開かれた手から、一人の少年がこぼれ落ちる。


 鈍い音を立てて地面に落ちた少年は、まだ息があるようで、禿男はほっと胸を撫でた。


「大丈夫か!?黒滝くん!!」


 次の瞬間、禿男はそう、叫んだ。





「ーーはげの、おっ……さん……!」


 那月は二つの事に驚いていた。


 一つは自分が生きていること。

 そして、もう一つは、逃げたと思われた禿男がミノタウロスに一撃(正確には四撃)を加えたことだ。


 那月は顔を動かして、禿男を見る。


「おっさん……どうして……!!怖くて、逃げたんじゃ……?」

「…………」


 禿男は答えない。

 しばらく、何かを考えるように黙り込む。

 そして、那月の顔に真剣な眼差しを向ける。


「……俺にはね、家族がいるんだ。妻と子供の三人家族。だから、死ぬわけには行かない。だって俺が死んでしまったら二人を残してしまうことになる。唯一の収入源である俺が死んでしまったら、二人が不幸になってしまう」


 禿男はそこで言葉を止めて、もう一度続ける。


「ーーそう、言い訳をしていた。逃げていたんだ。家族を逃げ場に危険から逃げていた。家族の為と言いながら、ただただ自己保身の為に」


 禿男はバッと顔を上げる。

 瞳がミノタウロスを捉える。

 覚悟の据わった瞳がーー


「だから、もう辞めるよ。俺はプレイヤーだ。君の憧れるプレイヤーだ。羨望の眼差しを向けられて、逃げるわけには行かないだろう!……それに、逃げたなんてことを家族に知られたら、向ける顔がないからね」


 禿男は一度小さく笑うと、ミノタウロスを睨みつける。


「俺が相手だ、ミノタウロス。その少年の未来のために俺が犠牲になってやろう!」

「ブルゥ……」


 ミノタウロスは食事を邪魔され、それはそれは怒りに満ちていた。

 食の恨みは恐ろしいというが、相手に限度があるというものだ。

 そして、ミノタウロスはそれを超えている。


「ブルッフーーッ!」

「おっさぁぁん!!!」


 ミノタウロスは姿勢を低くすると、禿男ーー司馬しば 泉貴いずきへ向けて、全力で駆け出した。

 轟音が地面を穿って行く。


 一瞬。

 まさに一瞬で泉貴の目の前にミノタウロスは拳を振りかぶった、格好で現れた。


「《双弓》ーー『ファストショット』」


 泉貴は慌てることなく、そう呟く。

 次の瞬間。

 泉貴の手の中に光の弓が握られ、更に瞬刻後には光の矢が放たれた。


 光の矢はミノタウロスの腹部に当たると、ミノタウロスの巨体を吹き飛ばした。


「まじか!あの巨体を……!!」

「なに、ただ吹き飛ばすだけの矢だよ。ダメージは無いはずだ」

「ブルフゥ」


 ミノタウロスは無傷で立ち上がると、吹き飛ばした張本人である泉貴を睨む。


 それから、ミノタウロスが近づき、泉貴が吹き飛ばすというやりとりが延々続いた。


「那月くーん!」

「百花!?」


 那月が両者のやりとりを眺めていると、後ろから声がかかる。

 振り返ると、そこには桃髪を揺らした少女の姿。


「百花、お前なんでここに?」

「なんでって、那月くんを助けに来たんだよ!」


 百花はふんすっと頬を膨らませる。


「別に助けなんて……」

「足、怪我してるみたいだけど?」

「ぅ」


 那月は自分の足を見て、次いで百花を見る。

 百花は笑顔で両手を出してくる。


 那月は静かに足を百花に預けるのだった。





「あの人、強いね」

「だな。あのミノタウロスが手を焼いてやがる」


 那月達の前では、十分以上、同じ光景が続いている。

 那月は百花に治療をされながら、それを眺める。


「はぁ、はぁ……『ファストショット』!」

「ブルゥフッ!」


 ミノタウロスが懐に入るなり、泉貴が光矢を放つ。

 そして、ミノタウロスが吹き飛ばされる。


 ずっとこれの繰り返し。


「はぁ、はぁ、さすがに疲れたね……『ファストショット』!」

「ブルゥフ!!」


 ミノタウロスの拳が振り下ろされるが、拳が届く前に、泉貴の光矢がミノタウロスを突く。


「おっさん、疲れてないか?」

「うん。でも、しょうがないよ。スキルをずっと使い続けてるんだもん」


 那月達の言うように、泉貴の顔には疲れの色が見えてきていた。

 額から汗が顎先にかけて流れていく。

 息が荒く、時より足元がふらついている。


 見るからに限界といった様子である。


 だが、泉貴は腕を休めない。

 もしそうすれば、自分を含め那月や百花までも、命を落とすことになるから。


「はぁ、はぁ……うっ!……『ファスト……ショット』!」


 何とかと言った様子で光矢を搾り出す。

 残り弾数は多くて十回。

 それ以上は持たないだろう。


 泉貴もそれが分かっているのか、那月達に目線で逃げるように訴えている。


「那月くん……」

「俺は逃げねぇ。おっさんを置いて逃げられねぇよ」

「……だよね」


 那月は固い意思を示して、視線を泉貴とミノタウロスに向ける。

 そして、驚いた。


「……ブルゥフ」


 今まで休みなく攻撃を続けていたミノタウロスがここに来て動きを止めた。

 疲れたのだろうか。

 いいや、違う。

 ミノタウロスは考えていた。

 どうやってこのループから抜け出すかを。


 考えた結果、ミノタウロスは再び突進をした。


「……何度やっても同じ事!『ファストショット』」


 何度も見た光景だ。

 泉貴の手の中に光の弓が握られ、矢が放たれる。

 矢はミノタウロスに向かって真っ直ぐに迫っていく。


「ーーモフゥ」


 矢がミノタウロスに当たる瞬間、ミノタウロスは笑みを浮かべた。

 そして、次の瞬間、全員が驚愕に顔を染めた。


 地面から針状の岩が突き出たのだ。


 岩の針は光矢の腹を突き刺し、その動きを止めた。

 光の矢は一度強く光ると、身を光の粒子へと変え、空気へと溶けて行った。


「…………」


 唖然とする泉貴。

 だが、彼は忘れていた。

 光矢が破壊されたということは、ミノタウロスが懐に入ったということだ。


「ーーッ!」


 瞬刻後、その事を思い出した泉貴。

 だが、もう遅い。


「ブルゥフゥゥ!!!」


 振りかぶられた拳が、真っ直ぐと泉貴へと向かい、泉貴の体をくの字に曲げて吹き飛ばす。


 ドゴッ、という鈍い音が辺りに響く。


 だが、それで終わりではない。


「ブルゥ」

「ーーアガっ!」


 宙を舞っていた泉貴の体が、地面から突き出た無数の針によって貫かれる。


 赤い血が地面に滴る。


「……おっさん?……おっさぁぁん!!!」


 那月の叫びが轟いた。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。


面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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