43話 モールダンジョン攻略⑧
今までで一番高い音が鳴り響く。
折れた刃が空を舞い、紅蓮の遥か後方に突き刺さり、力なく黒の地面を体に写す。
「…………」
「…………」
ハイ・オークと紅蓮の間に静寂が流れる。
折れた刃、先を失った刀、それらを二つに分けた斧。
その場にいる全員の視線がその三点を行き来する。
「……」
紅蓮の視線が斧に移り、次にその持ち主をゆっくりと見上げる。
そして、そこに醜悪な笑みを見た。
「フゴォォルルルル!!!」
喜々とした声を高々と発し、ハイ・オークは鈍く光る巨斧を頭の更に上へと持ち上げる。
「フゴォ……ォォォォオオオオ!!!」
「さらば」と言うように小さく呟くと、終わりの斧を振り下ろす。
紅蓮の視界を銀の刃が覆い尽くす。
斧に光が当たる。
光は斧に反射し、そこに紅蓮の姿を写した。
それは青ざめた顔で、赤い髪も相まって尚酷く見える。
死を感じているせいか、ゆっくりと流れる時間の中、紅蓮は近づく己の分身と睨めっこをする。
分身の顔に恐怖は無く、悲しむ感情もない。
喜びなんてものも勿論無い。
そこにあるのは覚悟だけ。
ただの死ぬ覚悟だけだった。
━━それでいいのか……!
━━いいや、いいわけ……
「ねぇだろぉぉぉぉぉ!!!!!」
紅蓮が目を見開き、迫る斧に対し気合いを放つ。
気合いで何かが変わる訳では無いが、それでも叫ばずにはいられなかった。
最期こそ、自分らしく生きるために……。
ハイ・オークが斧を思い切り振り抜く。
「…………フゴル?」
「…………え?」
ハイ・オークと、そして紅蓮の疑問の声が響く。
それもそのはず、ハイ・オークからすれば紅蓮が生きていることに対して首が曲がり、紅蓮からすれば自分の身がくっついていることに頭が傾がる。
何故紅蓮が生きているのか。
それは、ハイ・オークの斧が紅蓮の鼻先まで迫ると、何故かその軌道を逸らし、紅蓮の肩口を掠り、地面を抉ったのだ。
二人の間にを疑問符が駆け巡る。
「ーー俺も忘れるな。豚野郎……!」
そこに、静かに声がかかる。
二人が視線を向ける先には、煙の出る掌をハイ・オークに向ける翔の姿があった。
そう、翔の手から放たれた稲妻がハイ・オークの斧の軌道をずらしたのだ。
「……フグルルゥ…………!!」
水を差されたハイ・オークは怒り浸透の様子で小さく唸ると、翔に向けて斧を投げ飛ばす。
「ーーッ!」
翔はそれを跳んで回避する。
足元を通過する斧を見てホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、目の前にはハイ・オークの拳が迫っていた。
「(まずいーー)」
翔は無駄だと分かっていながらも、拳との間に腕を滑り込ませ、胸の前でクロスにし、ガードを作る。
「ウォォォォ!!!!」
ハイ・オークは気合いを込めて腕を振り切るーー
「ーー『天狗風』!」
が、ハイ・オークの拳が翔の腕に当たる瞬間、ハイ・オークの巨体が空気に押され、横に吹き飛ばされる。
「私を忘れないでくれる……!」
ハイ・オークがドォォンという轟音を上げて壁にぶつかった後、凛とした声が場に響く。
翔が視線を向けると、そこには片膝をついた状態で拳を前に突きつけた朝日の姿があった。
「朝日!」
「はは……ごめん、もう、限界……あと、は……まか、せた……」
そう言うと、朝日は糸が切れたかのようにぱたりと倒れた。
「フゴゥル……フゴ、ぉぉぉぉぉおおお!!!」
ハイ・オークは軽く頭を振って、視界に朝日を据えると、怒りを顕に駆け出した。
「ーー朝日!!」
紅蓮か翔か、はたまた両方の朝日を叫ぶ声が重なる。
だが、それでハイ・オークの足が止まる訳も無く、着々と朝日との距離が縮まって行く。
「行かせないーー《氷凍》!」
朝日に迫るハイ・オークを後ろから巨大な氷塊が呑み込む。
「ウォォォォォオオオ!!!!」
先刻あげた雄叫びとは打って変わって、悲鳴を上げて、その場に立ち止まるハイ・オーク。
「翔……ここが限界……」
「ーー十分だ」
翔は動きの止まったハイ・オーク目掛けて走り出す。
ハイ・オークは未だに苦悶の声を上げており、動く気配は感じられない。
ハイ・オークの目の前まで走り寄った翔はハイ・オークの
顔の高さまでジャンプする。
「ーーぅぉ!?」
翔と視線の合ったハイ・オークは素っ頓狂な声を上げ、固まる。
それが悪かった。
翔は集中を顔に貼り付け、手をハイ・オークの胸に当てる。
━━イメージしろ。細く、鋭く、それでいて大きい一筋の稲妻。
「これで決着だーー《雷電》!!」
翔の手から黄色い閃光が放たれる。
それは今まで翔が放ったどの雷よりもか細く見えたが、速さは段違いで速く、内包されたエネルギーも一際大きかった。
貫通力に特化したそれは、翔の手を離れると、すぐ目の前に存在するハイ・オークの皮膚を肉を核を、易々と貫いて消えた。
「ふ、フゴォ……る……」
ハイ・オークは最後に小さく唸ると、そのまま仰向けに倒れて、魂の灯火を消した。
「やった……んだよな」
いつの間にか翔の隣にやって来た紅蓮がフラグのような事を口にするが、ハイ・オークが立ち上がることは無い。
それを見た翔がそっと胸を撫で下ろす。
「みたいだね」
「これで、一安心……」
朝日と、それを背負った氷華がやって来る。
氷華は動けない朝日を紅蓮に渡して、疲れという風に腰をさする。
「あとは、帰るだけ?」
「そうだな、転移陣も出てるみたいだし」
「よっしゃ!じゃあ、凱旋と行こうぜ!」
全員が口々に勝利を讃えて、転移の魔法陣に向かい始めた、その時ーー
「「「「ーー!?」」」」
地面が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
「分からない。でも、急いで出た方が良さそう」
氷華の提案に全員が足早に転移陣に向かう。
「?……翔!何やってんだ!急げ!」
「あぁ、今行く!」
翔は何かをポケットに仕舞うと、他の三人が乗る転移の魔法陣に乗る。
魔法陣は強く光を上げると、上に乗る者全員を包み込んで、消えた。
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