42話 モールダンジョン攻略⑦
翔が思考を巡らせようと、脳に意識を集中させる。
━━が、それをはハイ・オークが許さない。
「フンゴォロォル!!」
ハイ・オークの斧が翔を真っ二つに分断させようと横薙ぎに払われる。
先刻までよりも速いそれは翔の不意をつき、翔の服に一の文字を刻みつける。
「ーーちっ、さっきまでのが全力じゃないのか……」
翔は悪態をつきながらも、足を動かし速める。
ハイ・オークの周りを回るようにして大きな円を描いて走る。
「はぁ!《雷電》《雷電》《雷電》!!」
走りながらハイ・オークに向けて手のひらを出すとそこから雷を放つ。
「フゴォル!!」
ハイ・オークは左足を軸にその場で一回転をする。と、同時に右手に握る斧で飛来する雷を斬り裂いていく。
翔はハイ・オークに雷を放つと、紅蓮の元へと駆け寄る。
「翔!」
「紅蓮。この戦い、俺達が圧倒的に不利だ」
「あ、あぁ」
「そこで、お前に時間稼ぎをしてほしい」
「時間稼ぎ?」
紅蓮は翔の言っている意味が分からないという風に翔の言葉を繰り返す。
「詳しいことは話してられない。俺の合図と同時にオークの攻撃を凌いでくれ」
「凌ぐったって……おい!」
翔はそれだけ言うと、再びハイ・オークの周りを走りながら雷を放つ。
今度は眠る朝日を抱えた氷華の元へと行く。
「氷華」
「っ!翔……何?」
翔に呼ばれ、一瞬驚いた顔をする氷華だが、直ぐに表情の読めない顔に戻る。
「お前、あいつの体温どこまで下げられる?」
「心外……と、言いたいところだけど……せいぜい六十度くらい」
「十分だ。俺が合図するからそれと同時にスキルを使ってあの豚の体温を限界まで下げてくれ。それじゃ……」
「待ってーー」
翔が再度走り出そうとしたところで氷華から待ったがかかる。
「あの豚の体温を限界まで削ぐには、私の本気を出さないと無理。でも、本気を出すには私は動きを止めて集中しないといけない。それまで、あいつが止まってくれるわけが……」
「安心しろ。時間なら俺達ーーいや、主に紅蓮が稼いでくれる!」
翔はそう言うと、今度はハイ・オークの目の前まで走り、目前で仁王立ちする。
「おい、豚野郎!後半戦の……始まりだ!」
翔はハイ・オークの顔目掛けてこれまでで一番大きな雷を放つ。
雷はハイ・オークの顔面に直撃すると、最初の攻撃との時よりも大きな黒煙を立ち昇らせる。
「氷華!」
「……《氷凍》!」
翔の合図と同時、氷華の手から氷が生成される。
氷は地面を凍らせ、ハイ・オークまで迫るとその体積を増加させ白煙となる。
黒煙と白煙が混ざり、灰色の煙がボス部屋を隙間なく埋め尽くす。
「ウォォォォォォォォォ!!!!」
視界が煙で埋め尽くされると、耳を劈くような咆哮が鳴り響く。
「ーーッ!」
「フゴル!!」
咆哮は衝撃波を伴っており、それにより煙が吹き飛ばされる。
翔の視界が開けると、そこに大きな影が飛び込んで来る。
ハイ・オークは斧を軽々と持ち上げると、それを翔目掛けて乱雑に振り下ろす。
「ーーー《雷電》《雷電》、《雷電》!!」
翔は無造作に振り回される斧を寸前で回避すると、ハイ・オーク目掛けて牽制を放つ。
ハイ・オークの腹に当たった三発の雷は、そのボディに黒焦げのひとつもつけることなく消えてしまう。
だが、ハイ・オークの動きを止めることには成功する。
「《氷凍》」
動きの止まったハイ・オークに、氷華の氷が特大サイズで襲いかかる。
覆い被さるように襲いかかる氷の塊に、ハイ・オークは避ける暇なく呑み込まれる。
だが、その体温のせいで氷は煙に変えられる。
「ガァァァァァァ!!!」
ハイ・オークの悲鳴が響く。
初めて攻撃らしい攻撃が当たり、ハイ・オークの体温がグッと低くなる。
「《氷ーー」
「フガゥル!!」
氷華が再度氷を放とうと、手に力を込めるが、ハイ・オークがそれを許さない。
自分にダメージを与えた白髪の少女を瞳に映すと、銀光を放つ斧を振り回し氷華との距離を詰めるために駆け出す。
「まずい……」
「紅蓮!!」
「おうよ!」
翔の意図を汲み取った紅蓮が、ハイ・オークと朝日を結ぶ直線の間に割り込んで入る。
「フガ!……フゴォォォ!!!」
「動きが鈍くなってるぜ!」
ハイ・オークは面を食らったように、一瞬顔を顰めるが、直ぐに醜悪な顔を戻し、重たい斧を重力に任せて落とす。
ギィィィンという音が再び唸る。
紅蓮が抜いた緑の刀がハイ・オークの斧の刃とぶつかり、火花を散らす。
だが、前回とは異なり紅蓮の体は吹き飛ぶことはせず、その場に留まりハイ・オークの斧を受け止める。
「ふご!?」
「こんなもんか?だったら……今度は俺から行くぜ!」
紅蓮は今度こそ驚愕を顔に表すハイ・オークにニヤリと笑みを浮かべると、腕に力を込め、斧を押し上げる。
そして、振り上げた刀をそのまま右上から袈裟懸けに斬り下ろす。
「りゃあぁぁ!!」
「ーーウォォォガァァ!!」
気合いの乗った刀はハイ・オークの皮膚を浅く抉る。
ハイ・オークは痛みに悶えた後、警戒心を瞳に灯し紅蓮と距離をとる。
「……フゴゥル……」
「いい顔するじゃねぇか……なんだ、俺が怖ぇのか?」
「……!フゴ、フゴォ!!」
紅蓮の挑発に、沸いた血が頭に上ったハイ・オークが地面を斧で削りながら紅蓮を殺さんと走り寄る。
「だから、遅せぇって!」
ハイ・オークの切り上げを、同じく下段に構えた切り上げで防ぐ。
金属音が空気を揺らし、衝撃波が小石を砕く。
両者が反動で体を仰け反らせるが、そんな間にもハイ・オークの体温を氷華の氷が着々と削る。
「フ、ゴォォォ!!!」
「行かせねぇ!!!」
氷華の元へと行きたいハイ・オークと、それを防ごうとする紅蓮の二つの意志が斬撃となって現れる。
キン、キン、キンという音が火花を散らし、部屋中に轟く。
何度目か分からない斬撃音が鳴り響いた時、その音に隠れるように、しかし確実に紅蓮の耳にピシリという不穏な音が届く。
「ーー!やべっ!」
音のした方に視線を向けると、そこには紅蓮の持つ刀に小さい亀裂が入っている姿だった。
「フゴォォォ!!」
「ちょ、ちょっとタンマ!タンマだって!!」
紅蓮がいくら叫んでも、ハイ・オークは攻撃の手を止めない。
紅蓮は亀裂よりも鍔に近い方の刀身でそれをいなして行くが、亀裂は勢力を拡大し、刀身の三割を侵略する。
「やめろってぇぇ!!!」
紅蓮は乱雑に右下から切り上げる。
だが、それが悪かった。
ハイ・オークは防御の斧を振り下ろす。
それは見事に緑刀の亀裂を捉え、刀を二本に分断させた。
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