41話 モールダンジョン攻略⑥
「《雷電》!」
初めに動いたのは翔である。
翔の手から放たれた雷が、一直線にハイ・オークの豚面目掛けて飛んでいく。
ハイ・オークは目の前まで迫る雷に一つの反応を見せず、その攻撃を顔面で受ける。
被弾。雷が弾け、黒煙が部屋を埋め尽くす勢いで立ち込める。
「フゴォォル!!」
しかし、当然その程度で終わる筈も無く、黒煙を裂いて無傷の豚顔が顔を出す。
ハイ・オークは声を出すと、体を半身に変える。
直後、黒煙が横に一文字、斬り裂かれる。
「「「「ーーッ!」」」」
翔達は咄嗟の判断でそれを避けると、黒煙の外に退避する。
上下に分離させられた黒煙はそのまま霧散し、部屋に広さを与えて消える。
黒煙が消えた部屋の中央に現れたのは、斧を薙ぎ払った姿勢で翔達を睨みつけるハイ・オークの姿だった。
ハイ・オークはゆっくりと斧を腰の横まで戻すと、もう片方の手を挑発するようにクイクイッと動かす。
「舐めやがってーーッ!」
紅蓮は怒りを表すように腰の緑刀を無造作に抜き放つと、抜刀の音が余韻を残す中、全速でハイ・オークとの距離を詰める。
ハイ・オークの目の前で大きく跳躍すると、刀を上段に構え、それを一息に振り下ろす。
「『我流━━一閃』!!」
緑色の光が尾を引いて上から下へと流れる。
「ウゴォォ!」
しかし、刀が肉を裂くことは無く、その前にハイ・オークの繰り出す斧に当たる。
ギャイィィィンンンン!!!という鈍く甲高い音が空気を細かく揺らし、ぶつかる刃の間には黄色い火花が散っている。
ハイ・オークの斧は上から振り下ろされる紅蓮の刀を受け止めると、下から昇る勢いそのままに紅蓮を巻き込んで振り切られる。
「ーーアガっ!」
「紅蓮ッ!……くっそ……!」
吹き飛ばされる紅蓮を横目に朝日が駆け出す。
「はぁぁ!!」
気合と共に繰り出される拳は、ハイ・オークの腹部に確実に決まる。
そう、熱を帯びた体に確実に。
「ァァァァァ!!!」
朝日の拳が熱によって焼き爛れる。
叫び声が響き、朝日はその場に膝から崩れる。
だが、どれだけ痛かろうと敵の目の前で膝を着くのは愚策。油断大敵というやつだ。
案の定、崩れる朝日の腹部をお返しだと言わんばかりにハイ・オークの蹴りが捉える。
「あぐっ!」
朝日はまるで夏の夜に咲く花火の如き勢いで打ち上げられる。
だが、破裂はしない。
否。破裂は今、動き出そうとしていた。
「フゴゥル……!」
ハイ・オークは低く唸り声を上げると、姿勢を低くする。
「まずい……!」
「……!《氷凍》」
直後、ドンッという衝撃と共に地面が削られ、ハイ・オークが朝日目掛けて跳躍をした。
「……させない!」
しかし、それを予見していた氷華の氷がハイ・オークの足を捕まえようと迫っていく。
だが━━
「な……!」
無情にも氷華の氷は、上昇したハイ・オークの体温によって白煙へと変えられる。
氷華がその事に驚愕を隠せず目を丸くしていると、その白煙を突き破って、尚も朝日を睨みつけ迫るハイ・オークが姿を見せる。
「フゴォォォ!!」
ハイ・オークの腕が、朝日目掛けて伸ばされる。
「やらせるかよッ!━━《雷電》」
ハイ・オークの腕が朝日を捉える寸前、翔の手から放たれた稲妻によって弾き飛ばされる。
ハイ・オークが体勢を崩し、声を発して落ちていく。
朝日も空中で静止すると、そのまま落下の動きへと移行する。
「……回収」
氷華の手から氷が伸び、滑り台のような形を作ると、朝日をキャッチして氷華の元まで滑らせる。
朝日が回収されたのを確認すると、翔は地面を揺らしながら着地したハイ・オークに目を向ける。
「Cクラス……ってとこか。想定内だが、まさかここまで相性が悪いか……」
ハイ・オークはゆっくりと立ち上がると、静かに翔を瞳に据える。
翔はこれまでの攻防でハイ・オークに対して相性の悪さを感じていた。
《狂乱》前のハイ・オークであればむしろ相性は良い相手であった。
しかし、《狂乱》とはその相性を逆転させる程に強力なのだ。
紅蓮の刀術はそもそも斧を得意とするハイ・オークには相性が悪い。
火力の高い朝日の打撃は《狂乱》前ならまだしも、蒸気を発するほど上昇したハイ・オークの体温を前に、攻撃を当てられない。
同様の理由で氷華の《氷凍》も効かない。
唯一攻撃が通用するのが、翔の《雷電》なのだが、こうも警戒されていてはそれも当てられない。
「まったく、やりずらいったら無いな……《雷電》!」
一応といった風にハイ・オークの真正面から雷を放つが、首を傾げるだけで避けられる。
ハイ・オークは攻撃を避けると、舌打ちをする翔に笑みを見せる。
醜悪な笑みを浮かべたハイ・オークは腰の斧を強く握ると、翔との距離を一瞬で詰める。
「フゴォォ!!」
ハイ・オークは己の全長にも達せようとする斧を軽々と振るうと、風を切る音を纏いながら翔に振り下ろす。
「ーーっぶねぇ!」
翔が瞬時に避けると、先刻まで翔が居た場所にクレーターが出来ているのを確認する。
「ははは、まじか……一発でももらえばアウトじゃねぇか」
翔は恐怖を笑って誤魔化す。
「さて、ほんとにどうするか」
そして、ハイ・オークの倒し方を考えるのだった。
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