40話 モールダンジョン攻略⑤
大変長らくお待たせしました。
本日より投稿を再開させていただきます。
今後とも本作をよろしくお願いします。
「呆気なかったな」
翔は眠るハイ・オークを見下ろして呟くと、視線を切り、その場を後にする。
振り返り、三人の元へ戻っていく。
「意外とあっさりと倒せたな……ん?」
翔が手応えの無さに驚いていると、驚愕、そして恐怖に顔を青ざめた三人のクラスメイトの姿が目に入る。
「おい、お前らだいじょーーッ!」
どうしたのかと尋ねようとした━━瞬間、全身の毛が逆立ち、毛穴という毛穴から汗が噴き出し、自分の呼吸が荒くなるのを感じた。
同時に翔の脳裏に一つの単語が浮かび上がる。
ーー『死』。
本能が警鐘を鳴らし、理性が必死に逃げることを試みる。
「フゴォォォォォォォォォォアアァァァァ!!!!!!」
反射的に振り返ろうとし体を捻るが、その危機感の正体を視認する前に、耳元で響いた爆音とそれに伴って放たれた衝撃波によって翔は吹き飛ばされた。
吹き飛ばされる前に体を捻る事に成功したため、何とか背中から壁に当たることが出来た。
しかし、それで衝撃が消える訳ではなく、背中を強打した翔はボロ雑巾のように地面に倒れ込む。
「うぁ、ぁ…………なんだ……!?」
翔が明滅を繰り返し焦点の合わない視界で現状を把握しようと、顔を上げる。
すると、そこに青ざめたくなる衝撃な光景が広がっていた。
「あ、れは……!」
そこには倒した筈のハイ・オークが斧を片手に咆哮を上げる姿だった。
だが、翔が衝撃を受けた理由はそれだけじゃない。
オークの体が赤黒い光を放っているのだ。
《狂乱》。
一部の強力なモンスターが持つと言われるスキル。その効果は絶大で、理性を失う代わりに己の限界を超えた超人的な力を手に入れるという。
特徴として、スキルを発動している最中は体が赤黒く輝き、その体からは黒い蒸気が放たれる。
「まさか、《狂乱》個体だとは……」
命令を無視する足に無理やり言うことを聞かせると、三人のクラスメイトの元へと、駆け寄る。
「お、おい、大丈夫か翔!すげぇ勢いで吹っ飛んでたけど…!」
「あぁ……何とかな。それより、今はアイツに集中しろ。《狂乱》の発動には時間がかかるが、それを過ぎればアイツの能力は今の十倍を優に超えるぞ」
「じゅ!ーーそんなのどうやって勝つんだよ」
「そうだよ!今からでも遅くない、逃げよう!」
紅蓮と朝日が逃亡を提案する。
しかし、翔はそれを却下する。
「逃げる……?馬鹿を言うな。コイツを外に出せば、低くてB級、最悪S級のモンスターに匹敵するぞ。どれだけの被害が出ると思ってやがる。俺たちがここで殺らねぇと……死人は五桁じゃ済まなくなる!」
「「ーーッ!」」
「で、でも!俺たちがやらなくても外に出れば、強いプレイヤー達が増援に来るかもーー」
「それは無い」
「氷華!?」
紅蓮が尚も意見を突き通すと、以外にも氷華が反論を述べる。
「プレイヤーは来ない」
「どうして言いきれる……?」
氷華は少し思案すると、自分の発言が言葉足らずだった事に気が付き、訂正を加える。
「正確には、プレイヤーが来る頃には辺りは地獄になってる」
「だから、どうして!」
「翔の言うとおり、コイツがS級のモンスターに昇華してしまったら、それに勝てるプレイヤーは日本に三人しかいない」
「ーーッ!」
「いつ来るか分からない三人を待つより、私たちがここで食い止める方がまし。それにもしコイツから逃げたとして逃げ切れる保証も無い。どうせ死ぬなら私は戦って死にたい」
氷華の覚悟の灯る瞳に見つめられ、紅蓮は足が竦みそうになる。
他の二人に助け舟を頼もうと、視線を向けると、そこには同じ色を灯した瞳を向けるクラスメイトの姿が映る。
紅蓮は少し思案すると、大きくため息をつく。
最後にすっと息を切ると、覚悟の火を瞳に灯す。
「あぁったよ!!やるよ!やりゃあいいんだろ!」
「助かる」
「うん」
「やろう!!」
「ウォォォオォォォォォ!!!」
全員の意思が固まった所で、ハイ・オークが一際大きな咆哮を放つ。
衝撃に耐えながら、翔はハイ・オークに目を向ける。
赤黒い光を放つハイ・オークは、白い蒸気を纏い、目に血を走らせる。
大きく息を吸い込み、突き出る鼻から身に纏うものと同じ蒸気を吹き出す。
「熱っつ!!」
ハイ・オークの蒸気は熱を帯びており、まともに近づくことすら困難な程である。
体の赤黒い光は体内の血が沸いている事の証明だろう。
「フゴゥル」
ハイ・オークは小さく身震いをすると、口から涎を垂らし、目を三日月型に吊り上げて、翔達を睨みつける。
「本格的に化け物……」
「だが、やるしかない」
氷華の評価に翔が言葉を続ける。
そして、ハイ・オークの視線に視線を合わせ、睨み返す。
視線という導火線に火がついて、今にもその糸が焼き切れそうになっている。
「さぁ、始めようか。第二ラウンドだ……!」
「フゴォォルゥ!」
翔の声と、ハイ・オークの鳴き声が重なり、壁に反響して鳴り響く。
ついに切れた視線の糸は、同時に戦闘の始まりを意味している。
そして、第二ラウンドにして、最終戦の開始が幕を切って落とされた。
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