39話 地上と地面
二話目です
地上。
那月は翔達が入っていった扉の奥を眺めていた。
第三波を退け、暇になった那月は、今なおダンジョンで戦い続ける仲間に嫉妬の念を送り続けているのである。
「黒滝くんは弾二四高校の生徒なんだよね?」
不意に背後から低めの声を掛けられる。
振り返ると、そこには頭を禿げさせた男が立っていた。
那月はその顔に言いたいことを察し、返答を返す。
「うっす。今はちょっとした怪我でスキルが使えないですけど」
「あ、あぁ。なるほど。怪我なら仕方ないね」
那月がスキルを使わない理由に納得がいった禿男はうんうんと何回も頷く。
「でも、君の身体能力はどうなってるんだ?スキルも無いのに、ウルフと互角にやりあうなんて!」
禿男の言う通り、那月はスキルが使えないにも関わらず、ウルフと互角の戦闘を繰り広げたのだ。
スキルを使っての不意打ちでやっと勝てた三日前とは違い、今は真正面からの一対一で勝つことができるのだ。
「いやぁ、俺もよく分からないんすよ。ただ、つい先日まではこんなに速く動けなかった筈なんだけど……」
那月は自分の体をつついたり、足や肩を回してみたりと、体の調子を確認する。
禿男はその様子を見て、一つの噂話を思い出す。
「そういえば、ダンジョン内で長く戦ったり、強力なモンスターを倒したりすると、身体能力が上がるっていう噂話を聞いた事があるな。何でも魔力を吸収して、それが筋肉などに流れ込んで強化されるとか……あいにく俺はそんな経験した事ないけどな」
禿男は自重気味に笑うと、これも若さ故の成長か、と呟く。
那月は禿男と別れると怪我人の治療を終え、一息ついている百花の元へと近寄る。
「よっ、おつかれ」
「あ、那月くん!ほんとだよー、やっと休憩貰えてさ。もうへとへと……」
那月は疲れを孕んだため息をつく百花の横に腰を下ろす。
「那月くんも頑張ってたね。怪我した人たちも結構な人数那月くんが助けてくれて。みんな感謝してたよ」
「そっか、そりゃあ良かった。…………」
「どうしたの?」
那月が無理に笑い、顔を伏せる。
顔に影を落とした那月の瞳を百花は心配そうに覗き込む。
「あいつらは、今も戦ってんのかな……」
「え」
「俺たちは来る奴を倒せば休みがあるけど、あいつらは一刻も早くこの迷宮崩壊を止めるために強ぇ奴らと戦ってんだよな」
「うん、そうだね。みんな凄いよね」
那月は強く拳を握りしめる。
「なんで、なんで俺はこんな大事な時に……情けねぇよ。何にもできない自分が心底憎い」
「那月くんだって頑張ってるじゃん!私からしたら凄いことだよ」
「凄くねぇよ。戦える力も失って、百花みたいにけが人の治療も出来ない俺は、やっぱり足でまといで、守られる存在に思われてる」
那月は更に拳を強く握り、歯を噛み締める。
「強くなりてぇ……!もっともっと強くなって、守られる存在じゃなく、守る存在になりてぇよ……!!」
「ーーッ!」
百花は那月の苦痛に歪む顔を目にして、胸がざわつくのを感じた。
自然と手が那月の頬に触れ、声が意思のふるいにかけるよりも先に那月の名前を呼ぶ。
「那月くんーーーー」
名前を呼ばれ、那月ははっと気が付き、百花を見やる。
那月と目が合った百花はさらに心がざわつくのを感じる。
もう、心のダムは決壊し、言葉がとめどなく溢れ出る。
最初の一言が今、その口から紡がれるーーーー
「おい!なんだあれ!」
男の焦燥に駆られた声がダンジョン前の広場に響き渡る。
二人は同時に肩をビクつかせ、声のした方に振り返る。
そして、そこに衝撃的な光景を見る。
そこは、広場の中央からややダンジョンの入口よりの地面だった。
普段は何の変哲もない地面。
しかし今は、まるで心臓の鼓動のように、ドクン、ドクンと、膨張と収束を繰り返している。
那月と百花は直ぐに立ち上がると、問題の場所へ駆けていく。
「なんすか、これ?」
「俺もよく分からない。このダンジョンには二十年以上通ってるが、こんな現象見たことない」
禿男は脈打つ大地を見て、驚愕していた。
しかし、直ぐに正気に戻ると、周囲に大声で呼びかける。
「負傷した一般市民を連れて、この場を離れろ!今すぐだ!走れ!!」
禿男は危険だと判断すると、踵を返して走り出そうとする。
そこで、那月が尋ねる。
「おい、あんた逃げるのか?」
「あぁ、そうだよ。君も直ぐに逃げるんだ、危ない予感がする」
「あんた、プレイヤーだろ?市民を守るプレイヤーが逃げんのかよ?」
「……あぁ、逃げるさ。逃げて悪いかよ!命あっての仕事だろ!ガキには分からないかもしれないがな、こっちは仕事でやってんだ!慈善活動でこんな危ないことができるかよ!!」
禿男の言い分も確かに分かる。
しかし、那月の脳には届かなかった。
那月にとってプレイヤーは、なんの利益もない戦いに挑み、なんの顧みもない人助けを無償で行う。
皆に平等で、皆に優しくて、皆に尊敬される。
そんなカッコイイ存在なのだ。
そんなプレイヤーの一人が、いやこの場にいる全てのプレイヤーが見るからに危険な物体に背を向けて、逃げている。
それは、まさに那月の夢を壊すには十分な理由で、同時に那月の闘志を駆り立てるには十分過ぎる薪木となった。
「そうかよ、大人な対応だ。だけど、俺は認めねぇ。あんたらがプレイヤーじゃないならば逃げればいい。俺の尊敬するプレイヤーはこんなところで逃げたりしない!」
「ーーッ!勝手にしろ!」
禿男は一瞬足を止めかけたが、最後に一言吐き捨てると、再び逃げ走る。
那月は背中に逃げる大人たちの足音を聞き、脈動する地面を睨みつける。
「来るなら来やがれ!最強のプレイヤー志望の俺が相手だ!」
那月が地面に勝負を挑む。
直後、それに反応するように、地面を突き破り、黒の腕が現れた。
引き続き三月まで、休載させて頂きます。
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