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4話 試験前

 実技試験の説明を終えた受験生達には試験官から一枚の紙が配られていた。


「なんだこれ?」


 手の平サイズの正四角の紙には<A>から<E>までのアルファベットが書かれており、那月の紙には灰色の文字で<A>と書かれている。


「今配られた紙に書かれているのは試験会場だぜ!アルファベットの書かれたプラカードを持った試験官の指示に従って会場に行ってくれよな!!」


 ハバラはそう言うと、踵を返して、職員専用の出入口らしき所へと姿を消した。

 残された受験生の集団は、己の紙を一瞥し、辺りを見回す。


 やや大きめのプラカードを持った試験官を見つけると、烏合の衆はゾロゾロと動き出し、五つの塊を作り始める。

 那月も<A>と書かれたプラカードを持つ試験官の所へ歩みを進めた。


 プラカードの元へ行くと、見覚えのあるメガネの女性がいた。校門前にいた受付嬢である。

 どうやら彼女が試験官であるらしく、人数を数えているのか、先程から辺りをキョロキョロとしている。


 暫くし、受付嬢はひとつ頷くと、女性にしては低めの声で話を切り出す。


「全員揃いましたね?私はこのAブロックの試験官を務めます、クヌギと申します。以後お見知り置きを.........といってもまぁ、九割の人は二度とお会いしないと思いますが.........」


 見た目通りに少々棘のある言葉をぶつけた椚は、ふっ、と一息吐いて社交的な笑みを浮かべる。


「では皆さん、私の後に着いてきてくださいね」


 受験生達は顔に戸惑いと緊張を交互に映し出したあと、恐る恐るといった足取りでクヌギの後をつける。



 訓練棟を出ると、少しばかり歩き、本館の裏へと行く。

 道中、なにやら的のような物が目に入る。

 藁人形の様な人型のものや、円形の木板に中心から同心円状に広がる赤の二重丸が書かれたものと様々である。

 訓練棟内を近中特化のスキルを主に置くのならば、ここは中遠特化のスキルを主に鍛錬する場なのであろう。

 無数に並ぶ的も大小、遠近、高低、剛柔と違いがあり、それぞれ命中率、射程距離、着弾地、威力と訓練内容別に使う的を選ぶのである。


 那月が、壁側に沿うようにずらりと並ぶ的を眺めながら歩いていると、クヌギの凛とした声が響く。


「着きました。ここが試験会場です。」


 促されるように目を向けると、そこには<B>と書かれた大きな壁━━否、門がある。

 校門程ではないにしろ十分に大きな門がそこにはあった。

 さらに門から延びる塀は左右それぞれ二キロメートル位はあり、これまた凄い。


「うわっ!なんだこれ!広いなー!!」


 高さからの攻撃には慣れた那月も広さという別ベクトルの攻撃には驚愕を口にするほか無い。


「そこ、静かにしてください。」


 受付嬢から窘めの言葉が飛んでくるが、これだけ広く、大きければ仕方のない事だ。

 しかも、これがあと幾つかあるというではないか。

 ふと、首を右肩に振り遠くを見ると、黒い塊が等間隔で四つほどある。一番奥に至っては、ほぼ点となっており、霞んで見える。


 ぼー、と上を見たり、遠くを見たりして立ち止まっていたその時、那月の身体がドンと何かに押される。


「ぼさっとするな。邪魔だ」

「.........っ!何すんだよ!」


 声が聞こえて振り向くと、そこには金の髪をなびかせた少年がいた。

 那月は少しの怒気を含んだ声で言い返す。

 すると、少年は那月を冷めた目付きで一つ睨む。

 しかし、続く言葉はなく、そのまま何事も無かったかのように列に戻る。


「なんだあいつ.........」

「キミ、だいじょうぶ?」


 那月が悪態をつくと、横から声がかかる。

 声のした方を見ると、青髪の無駄に煌びやかな装飾の施された制服に身を包んだ少年がいた。


「お、おう、大丈だぜ。頑丈さには自信があるからな」

「へぇー、そうなんだ。大丈夫そうなら何よりだよ。僕は外園がいえん とおる。同じ受験生として、宜しくね」


 人の良さそうな少年は徹と名乗り、これまた人の良さそうな笑みを浮かべ、右手を差し出した。


「お、俺は、那月。黒瀧 那月だ!よろしく!」


 那月も名乗ると、同じく右手を出して、徹の手を握る。

 数秒間そうしていると、前方からクヌギの声が飛んでくる。


「おい、そこ二人ー!集合しろー!」


 那月と徹は顔を見合わせると、門の前へ急いで走った。





「十分間暇だなぁー」


 緊迫した空間にそぐわないその声にはあまりにも緊張感というものが欠如していた。

 青空と向かい合い、手足を投げ出した那月は盛大にため息を零す。


 試験の細かな説明を聞き終え、いざ出陣と意気込んでいた那月の耳に届いたのは十分という待機時間だった。


「凄いね那月は、僕なんか十分じゃ整わないくらい緊張してるよ」

「そうか?普通だよ....」

「それが凄いんだよ」


 徹は那月の隣に腰を下ろし、空を見上げ、那月の呟きに、言葉を返す。

 徹の言葉に恥ずかしさを覚えた那月は頬をかいて目を逸らした。

 そして、沈黙。


「.........」

「.........」

「.........そういえば知ってるかな?」

「何を?」


 沈黙を破ったのは徹だった。


「試験の内容だよ.........!」

「は?そりゃ知ってるよ。ゴーレムを倒すんだろ?」

「そうだけど、そうじゃないんだ。僕が言いたいのは試験の採点内容さ」

「採点、内容.........?」

「あぁ........この試験、目的は生き残る事、だったよね?」

「え.........あぁ、確かにそうだったな」


 おかしな質問を投げかける徹に対して那月は先程のハバラの説明を思い出し頷く。


「生き残る、つまり戦闘不能にならない事は絶対条件なんだ」

「なるほど.........」

「そして、ゴーレムが居るという事はどういうことだと思う?」

「そりゃあ、脱落者を増やすためだろ?」

「確かにそういう面もあるだろうね。でも僕はゴーレムは倒すためにいると思うんだ」

「倒す.........?でもよ、試験官だって逃げることをオススメするって言ってたじゃんか」

「確かにそう言っていたね」

「だったら━━」

「でも倒し方も教えてくれた」


 徹は那月の言葉を遮りそう言うと、少し近づき声を小さくする。


「それってさ、倒せって事なんじゃないかな?」

「た、確かに」

「だから、採点内容ってのは『ゴーレムを何体倒したか』だと思うんだ」

「なるほど!徹、お前頭良いな!!」

「そ、そうかい?照れるな.........」


 那月はがばっと起き上がると大きな声で徹に賛辞の言葉を投げかけた。


「うん、それでね那月。ここからが本題なんだけど.........」

「?なに?」

「ひとつ提案があるんだ.........」


 徹は少しの間照れたような顔していたが、真剣そうな顔になる。

 真面目そうな、しかし不敵な笑みを浮かべた徹は静かにその口を開いた。


「僕と.........手を組まないかい?」


本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。


面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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