38話 モールダンジョン攻略④
立春なので特別投稿
十層の探索を始めて二十分。一つの層の探索に費やした時間は十層が一番長いだろう。
その長い探索の末、翔達はその最奥へとたどり着いた。
安全地帯の扉よりも豪華かつ重厚な扉は、その中にいる強き者を封じる為に造られている。
しかし、その扉も迷宮崩壊の影響で今にも明け開かれんとばかりに脆くなっている。
中にどんな化け物が潜むのか、それは溢れ出る圧力がひしひしとその場にいる四人に伝えている。
思わず恐怖と共に鳥肌が立つ。
紅蓮と朝日はそれを身震いでかき消すと、リーダーである翔を見る。
翔は二人に頷きを返すと、錆鉄の香を鼻奥に感じながら、両の扉を力一杯に押し開ける。
ゴゴゴゴゴゴと地面を削りながら、扉が明け開かれる。
闇が立ち込める廊下に、これまた別の闇が扉の奥から溢れ出る。
威圧感のある空気が腐敗の混じる鉄の香りと共に流れてくる。
ボス部屋に足を一歩踏み入れると、両脇から四角い部屋の辺をなぞるように、オレンジ色の行灯が灯り出す。
部屋の下から上へと、グラデーションのように明るくなるボス部屋。
その中央に鎮座するのは、全長三メートルはある大斧を背中に担いだ、豚顔の巨人。
肌は豚のような桃色だが、体は人間のそれだ。
下顎から伸びる二本の鋭い牙も特徴的である。
そう、ファンタジーで言うところのオークである。
いや、それも少し違う。
オークは全長が二メートル強の巨体にでっぷりとしたお腹の持った豚顔の大人間である。
しかし、今翔達の目の前にいるのはーー座っているので詳しい数値は分からないがーーおよそ三メートル弱の巨体に引き締まった体を持つ豚顔の巨人だ。
つまりオークではなく、ハイ・オークなのだ。
ハイ・オークは翔達を視認すると、纏う威圧感を殺気に変え、その大きさを増幅させる。
室内を埋め尽くすだけでは飽き足らず、勢いよく扉から吹き出る黒い圧力は、翔達の肌を再び震え立たせる。
ハイ・オークがゆっくりとした動きで立ち上がる。
上から見下ろすように翔達を睨むそいつは殺気と相まってその姿がより大きく見える。
鼻から大きく息が一つ吐かれる。
「来るッーー!」
翔の声が伝わるのと同時、一足でハイ・オークが目の前まで詰め寄る。
大きく振りかぶった拳を翔達目掛けて振り下ろす。
「任せろ!」
紅蓮が腰から抜き放たれた長剣で迎え撃つ。
緑色の軌跡を残し左下から切り上げる形で抜き放たれた長剣は、ハイ・オークの左拳とぶつかり合い、火花を散らしながらその軌道を横にずらす。
軌道のずれた拳は地面を深々と抉る。
しかし、攻撃が外れたにも関わらず、ハイ・オークの口元は細長く裂かれていた。
まるで、その攻撃が挨拶がわりとでも言うように。
初撃を逸らすことに成功した翔達はハイ・オークを囲む形で散開する。
背後まで回り込んだ翔が素早くハイ・オークの背中に電撃を放つ。
「フゴフッ!」
ハイ・オークは瞬時にそれに反応し、右手で電撃を叩き落とす。
だが、背後に視線を向けると、今まで見ていた所が死角となる。
背中を見せた先にいる朝日が、その背中に拳を当てるために駆け出す。
「セイ!」
飛び掛り、空中で拳を振るう。
流石のハイ・オークと言えど、懐まで入られた攻撃をかわす手段は持ち合わせていない。
朝日の拳がハイ・オークに当たるーー
「フゴォォォォォォォォォォアアァァァァ!!」
瞬間、ハイ・オークが腹の底から響く咆哮を放つ。
まるで地響きのような咆哮は地面を揺らし、空気を飛ばす。
衝撃波を伴う咆哮が背後に迫る朝日を吹き飛ばし、岩壁に叩きつける。
「ーーかはッ……!」
肺に溜まる空気が全て吐き出され、湿るボス部屋内の空気と混ざる。
体が壁から離れゆっくりと空中に躍り出る。
ハイ・オークが素早い動きで朝日まで駆け寄ると、無抵抗に空中に放り出された朝日の胴体に一撃を入れる。
「させない」
ハイ・オークの拳は朝日の体を叩きつける前に氷の壁にぶち当たり威力を相殺させられる。
紅蓮が地面にどさりと落ちた朝日を疾風の如き勢いで回収する。
「けほ、けほ……ごめん。ドジっちゃった」
「仕方ねぇよ。それより、動けるならとっととあの豚ひき肉にしよーぜ!」
「そうね、やられっぱなしは性にあわないしね!」
紅蓮は抜剣を、朝日は拳を掌に打ち付けて、それぞれ気合いを入れ直す。
「連携で行くぞ!」
「おう!」
「えぇ!」
「……」
翔の掛け声とともに全員がハイ・オークに向けて動き出す。
「《氷凍》」
「フゴン……?」
氷華が地面に手を着くと、そこから氷が発生し、ハイ・オークの足を氷で固める。
続いて氷に気を取られているハイ・オークの瞳を紅蓮が薙ぎ払いで切りつける。
「りやぁぁ!!」
「フガ……!」
ハイ・オークがとっさの判断で上体を後ろに逸らしたため、紅蓮の長剣は片目を潰すだけに留まった。
だが、後ろに躱したのは失策であった。
紅蓮の背後から飛び出す朝日の拳が、上体が仰け反った状態のハイ・オークの顔面に綺麗な一撃を叩き込む。
「セイ!」
「ンガバァーー!」
ハイ・オークは躱す勢いと、叩きつけられた勢いで頭を強く地面に打ち付ける。
足を氷で固められているため、後ろに吹き飛ぶことも無く、勢いを殺せなかったハイ・オークは地面を大きく破壊する。
「ブゴ………フゴ!?」
視界が揺れるハイ・オーク。
やっとの思いで鮮明になった視界が捉えたのは自分の腹に乗り、見下ろす金髪の少年の姿だった。
「これで終わりだ」
翔は静かに持ち上げた手をハイ・オークの顔に突きつけると、静かに《雷電》と呟く。
放たれた雷電は、一瞬薄暗い天井を黄色く染めると、ハイ・オークの顔を黒焦げにした。
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