37話 モールダンジョン攻略③
階段を下っても内装に変化は見られない。
変わったところといえば、地面の所々に魔草が生え始めた所だろう。
「ここが二層か……一層とあんま変わんねぇな」
「だが、油断も出来ない。気張ってくぞ」
「おう!」
翔達は出来る限り全力で廊下を走る。
廊下を五百メートル程走った所で、再び地響きが遠くの方に聞こえてくる。
「来る!!」
朝日の声が響いたのは先頭のモンスターがウルフだと気づいたのと同時だった。
ウルフが地面を踏みしめて、走り寄る。
「さっきの通りに行く。《雷電》」
「わかった《氷凍》」
翔が先程の戦闘と同じくスキルを使う。
だが、今度は面の攻撃で無く、槍のように尖る線の攻撃である。
一点に集中された雷の攻撃はウルフを貫き、その後方に迫るモンスターの群れに穴を開ける。
その隙を見逃さずに、氷華の氷が壁を作り出す。
穴は固定され、そこに道が出来上がる。
「よし、成功だ!」
翔はモンスターが壁を突き破る前に、走り抜ける。紅蓮、朝日、氷華もそれに続く。
そうして、また十数分の時を経て、二層を攻略し、同じ方法でその下の層も攻略していく。
翔達は快進撃とも言える攻略で第五層までやってきた。
「はぁ、はぁ、やっと五層か……」
「やっと休憩できる!!」
翔達は一時間近くに及ぶ探索で体力を限界まで、消耗していた。
そんな時、目の前に大きな扉が現れ、それが安全地帯だと気づいたときは、まるで天国と見紛うほどには嬉しかった。
そして、四人はそこで休憩をとることにしたのである。
「あーあ。ここに百花が居ればこんな傷あっという間に治ったのに……」
朝日は体の至るところに付いたかすり傷を見て呟く。
朝日達は度重なる連戦によって、その体に無数の傷を負っていた。
しかし、ここに医者などいるはずもなく、唯一回復系のスキルを使える百花は地上に置いてきてしまっている。
傷はつけども癒す手段を持ち合わせていないのである。
故にそれはただの無い物ねだりでしかないのだ。
翔も自分の傷を確認すると、持って来ていた水を傷口にかける。
他のみんなにも、水をかけるよう言うと、やんわりと断られた。
「弱音はいい。それより、ここから先の事を話そう」
「そうだな、あの兎野郎をぶっ飛ばす方法を考えねぇと死ぬぞ、俺達」
兎野郎とは、この安全地帯に入る前に翔達が戦ったモンスターである。
そいつは頭に一本の角と凶暴な爪と牙を持った兎型のモンスターで、とても素早い動きで動き回り、すれ違い間際に攻撃を加えてくるのだ。
翔たちの傷は殆どそいつらに付けられたと言っても過言では無いだろう。
翔は遠い目でその兎を思い浮かべる。そして、先程の戦いを振り返る。
「一角兎を倒すには、あの動きを止める必要がある。だが、どうやって……」
「私がやる」
氷華が手を上げる。そして、全員の視線が氷華に注がれる。
「私がウサギを凍らせる。成功するかは分からないけど、やる価値はある」
氷華の提案を呑むと、立ち上がり、安全地帯の扉を開けて外に出る。
外に出ると、そこは一層と同じ石レンガ造りの廊下が伸びている。しかし、そこにはモンスターが待ち構えていた。待ち構えるのはゴブリンでもウルフでもなく、手のひらサイズの兎ーー一角兎である。
赤目の兎は獲物を確認すると、キュキュキュと可愛く笑い、恐ろしい笑みを浮かべる。
白の毛を血で赤く染めた兎は地面を一蹴りすると、まるで弾丸のようなスピードで突っ込んでくる。
「《氷凍》」
氷華の淡々とした声が響く。しかし、氷華のスキルは不発に終わる。
同時、氷華の頬が切れ、赤い鮮血が流れる。
「クソっ!やっぱダメだったか!」
紅蓮が氷華の作戦失敗を見て、剣を構える。
兎も目標を紅蓮に変え、再度突進を繰り返す。
数回兎が紅蓮の体に傷を付けると、しかし、そこで兎に異変が起こる。
兎の動きを紅蓮が捉えられるようになってきたのである。
「なんだ!?」
「まさか……冷気か……!?」
「うん」
そう、氷華が放ったスキルは不発などでは無かった。氷華が行ったのは空気の凍結。つまり、冷気を放つことだったのだ。
放たれた冷気は小さな体の兎を体の内側から凍らせ、その動きを鈍くする。
「キ、キキュ……」
そうして、兎の動きは完全に停止する。
「簡単に倒せたな……」
「あ、あぁ……」
あまりにも拍子抜けな結末に紅蓮も翔も呆然とそれを見守っている。
だが、直ぐに頭を振ってリセットすると、下層への道を探す探索に出る。
「さて、兎の倒し方もわかったところで下層への階段を探すぞ。ボスがいる所までは、まだ層は残ってる」
「おう!」
それから幾度か一角兎や他のモンスターと遭遇したが、どのモンスターも氷華の冷気や翔の雷で蹴散らされていった。
そして数分後、翔達は下層への階段を無事見つけることに成功した。
「こっから先は、休憩無しだ。真っ直ぐ寄り道無しでボス部屋まで行くぞ!」
そう宣言した翔は、それから一時間ほどかけて、残る五層を突破し、最下層である第十層に足を踏み入れるのだった。
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