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34話 加勢

 ショッピングモールを飛び出して、逃げる人の流れに逆らい走ること、約十五分。

 そこはまさに、地獄と化していた。


 建物は燃え、地面には無惨にも逃げ遅れた一般市民の死体と、そこから散るように描かれた血痕。

 そして、それを引き起こしたであろう化け物達が今も尚、暴虐の限りを尽くし、その咆哮を轟かせている。


 化け物たちの猛る声が重なり響く中、弱々しくも、大きな、今にも泣きそうな声が駆け抜ける。


「いやぁぁぁぁあぁ!!!!」


 声の主は五歳程の少女。その近くには腹部から血を流し倒れる母の姿と、少女を見下ろし、手に持つ棍棒を振り上げる豚顔の大人間ーーオークである。


「ごふ、フガゴヒィィィ」


 醜い叫び声と共にオークの棍棒が振り下ろされ、少女を一をも言わぬ肉塊へと変えようと迫る。

 少女の頭部にオークの血塗られた棍棒が当たる、瞬間、轟音と共にオークの棍棒が吹き飛ぶ。


「那月!」

「おう!」


 那月はすかさず、少女を抱き抱えると、手元から武器が無くなった事に目を見開いているオークに向けて手を伸ばす。


「《:重力》!」

「………………」

「………………やべ、スキル使えねぇんだった!」

「ゴヒィィィ!!」

「あのバカ……!《雷電》」


 オークが那月に掴みかかろうと手を伸ばすと、その頭部に稲妻が矢のように飛んで爆散させる。

 那月は少女を連れると、その場を離脱し、翔達がいる場所に戻る。


「おいおい、大丈夫かよ」


 赤髪の少年が心配そうに声をかける。

 現在、この場には那月を合わせると六人の人影がある。

 うち四人は那月と買い物をしていた翔、百花、氷華である。

 そして、残る二人はたまたま買い物に来ていた紅蓮と朝日だ。

 二人も迷宮崩壊のアナウンスを聞き、高校生の身でありながら、加勢に参じたのである。


 那月は紅蓮に大丈夫だと伝えると、翔に怒声を浴びせられる。


「バカ那月!お前の役割はそいつの回収だろ、余計なことをするな」

「だってよ、俺にだって倒せそうだったじゃんか!」

「スキルの使えないお前にか?」

「うぐっ……!」


 痛い所をつかれた那月はそれきり黙り込んでしまう。

 すると、那月の腕の中で震えていた少女のうるうるとした瞳が那月を捉える。


「……あの……ありが、とう」

「おう!怪我とかしてねぇよな?」

「うん」

「そっか!じゃあもうこんな危ないところ居ないで、さっさと逃げな」

「……でも、お母さんが……」


 少女は先程までいた所を一瞥すると、そこに倒れる母親を見て、涙が一滴頬を伝う。

 那月は言葉に困る顔を隠し、目いっぱいの笑みを見せると、片膝を着いて少女の頭をぐしぐしと撫でる。


「悪い、お前の母ちゃんは守れなかった。でもよ、母ちゃんの仇なら俺が討ってやる。だから安心して逃げろ。な?」

「……うん!」


 少女は元気に返事を返すと、人の流れに乗って逃げていく。

 那月は立ち上がると、周りにいるクラスメイトに目を配る。


「モンスターの数はまだまだ居る。気を抜かずに行くぞ」

「ったりめぇだ!!」


 翔がいち早く飛び出し、それに続いて那月もモンスターを狩りに駆け出す。百花は他のプレイヤーの人の回復に向い、他の三人は那月と同じくモンスター狩りに参加する。


 那月は一番手前に緑色の肌のゴブリンを見つけると、後ろから頭部に振り絞った拳を叩きつける。


「ギギャ!」

「くたばれ!緑野郎!!」


 仰向けに倒れたゴブリンの上に跨ると、近くに落ちている大きめの石を拾い、それをゴブリンに叩きつける。


「……………」

「ふぅ、まず一体!」


 ゴブリンは絶命する。


 翔は動きの遅いオークに雷の矢を打ち付ける。


「ゴヒィ!?」

「ちっ!」


 しかし先程とは違い、一撃は軽く、頭部を焦がすのみとなる。

 翔を視認したオークは手に持つ棍棒を乱雑に振り回しながら、駆けてくる。


「《雷電》!!」


 だが、オークは翔に一撃を加える前に、大きな雷に撃たれ、丸焼きになる。


「動きが速いんだよ!」


 紅蓮はちょこまかと動き回るウルフに長剣の刃を当てかねる。

 紅蓮自前の剣は学校に置いてきてしまっているため、今使っているのはゴブリンが使っていた粗悪品の剣である。


「グアァル!!」

「うぉ!おぉぉ!!くそっ!」


 ウルフが鋭い牙を剥いて紅蓮に飛びかかる。

 紅蓮はそれを剣で受け止めると、気合いで押し返す。

 しかし、所詮は粗悪品。紅蓮の力とウルフの力が合わさり、その耐久値をゼロにする。

 ポキリと折れた剣を捨てると、近くに転がるプレイヤーに近寄る。


「借ります!」


 地面に寝ている緑刃の長剣を拾うと、後ろから飛びつくウルフを振り返り際に切り捨てる。


「うし!軽いけど、いい切れ味だ!」


 紅蓮がウルフを一体切り捨てたのと同時、氷華は十体のウルフを氷漬けにする。


「《氷凍》…………弱すぎる」


 朝日は氷華の呟きを聞き、つい笑いが零れる。


「そりゃ、あんただけよ。こっちは強すぎだっての!」


 朝日は死体と闘っていた。ゾンビである。

 腐敗臭を漂わせながら歩くそいつは、既に朝日の拳を十発以上食らっているのだ。


「たく、手応えがないわね」


 朝日は一度距離を取ると、掌を体の横に持ってくる。

 大きな一歩でゾンビに近づくと、その掌を頭部目掛けて繰り出す。


「来栖流・攻めの型三陣!『圧轢掌』!!」


 朝日の攻撃はゾンビの頭部を体から離し、後方へと飛ばす。

 紫色の血を吹いた体は、後ろに倒れ、それ以降動くことはなくなった。

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