33話 警鐘
「まじかよ……まさか、あの後デザートまで頼むとか……うぷ」
「デザート、お代わり何回してたんだ……うぷ」
男子二人が百花の食いっぷりにお腹いっぱいになっているとは露知らず、百花は元気いっぱいの笑みで、次の店へと足を進めている。
まさかこんな元気な少女が先刻、魔王城パンケーキを食べ、更に追加にショートケーキを三つも平らげているとは誰も思わないだろう。
翔は重たい足取りで百花を追う。
那月も同じくそれを追おうとして、ふとゲームコーナーの一角に見知った姿を見る。
「おぃ、あれって……」
「ん?……あ!」
那月が百花に声をかけると、百花も那月と同じところを見て声を上げる。
そこには、足元に大量のぬいぐるみを積み、現在もお尻フリフリとクレーンゲームのアクリル板と睨めっこをしている、瓶覗色の髪をした少女の姿があった。
那月はその姿に見覚えがあり、那月よりもその少女の事を知っている百花がその名前を叫ぶ。
「氷華ちゃん!?」
「ーーッ!!」
瓶覗色の少女ーー氷華は、肩をビクりと震わせると、恐る恐ると言った感じに振り返り、そこに三人のクラスメイトを確認すると顔を青く染めあげる。
「な、な、なな、なんでここに……!?」
普段のクールな態度とは似ても似つかない焦りっぷりを発揮する氷華。
氷華はしばらくフリーズしていたが、自分の足元に大量のぬいぐるみがある事に気がつくと、今度は逆に頬を紅く染め上げる。
「これは、違くて、えと、あの……」
氷華が珍しくあわあわとした態度で戸惑っていると、百花がすすす、と近寄っていく。
「氷華ちゃんも遊びに来てたんだね」
「私は、別に……」
「一人?」
氷華がこくりと頷くと、百花はパァと顔を輝かせる。
「じゃあ、私達と一緒に遊ぼ?」
「え、えと……」
氷華は即答で断ろうとしたが、百花の天使のような笑顔が目に入る。
流石の氷華も百花の無垢な笑顔を見てしまっては断ることも出来ない。
もし断れば、泣くまでは行かないまでも、百花のテンションはマイナスに突入するだろう。そんな表情は付き合いの浅い氷華も男子二人も望まない。
しかし、足元には数ある秘密の中の一つである、可愛いもの集めの結果に手に入れてしまったぬいぐるみの山がある。
袋五つ分にもなるぬいぐるみの山を持っていては、遊ぶのには邪魔になってしまうというものだ。
そこまで考え、心苦しながらも断りの言葉を残して帰ろうと口を開けた瞬間。百花の後ろにそれを見つける。
「分かった。行く」
「やったァァ!!」
「でも、お前その荷物じゃ回るのに邪魔じゃ……ん?」
「持って」
「………?」
「持って」
那月が氷華の心配をすると、氷華は足元の袋を持ち上げ、那月に近づく。
氷華は合計十の袋束を持つ那月に、五つの袋を突きつける。
那月はもしかしてとは思いつつも、首を傾げ、とぼけてみせる。
しかし、氷華の意思は変わらず、再び同じ言葉を繰り返し、袋束を突きつける。
「なんで、俺なんだよぉぉぉ!!!俺は荷物持ちじゃねぇぇぇ!!!!」
那月は追加された五つの袋を手に取ると、那月を置いて先を行く三人の後を追って走る。
と、その時。大きな建物全体に、耳をつんざく甲高い音が警鐘として鳴り響く。
『緊急事態発生。緊急事態発生。迷宮崩壊が発生しました。モール内の皆様は直ちに避難をしてください。繰り返します近隣のダンジョンが迷宮崩壊をしましたーーーー』
続いたアナウンスに、四人の顔が緊張に強ばる。
ダンジョン内にはモンスターが外に出ることを防ぐ結界が張られている。迷宮崩壊とは、それが何らかの影響で決壊し、モンスターがダンジョンの外に出てしまう事である。
更に、結界にはモンスターを弱体化させる効果もあり、外に出たモンスターは通常の五倍程の力になっているのである。
強化されたモンスターが無制限に暴れ続ける。考えただけで恐ろしいその状況。それを解決するのがプレイヤーである。
プレイヤーの義務の一つに、迷宮崩壊を解決するというものがある。
これは、『プレイヤーは国民の安全を願い、その力を行使する』という条例の元に作られた義務で、プレイヤーであれば、絶対に守らなければならないのである。
しかし、この近くにある『モールダンジョン』は、ダンジョンランクがFのダンジョンであるため、強力なプレイヤーが少ないのだ。
そんな所に能力が五倍のモンスターが現れて、はたして一般市民に被害が出ないのか。
否である。強力なプレイヤーの到着を待っていては、市民への被害は軽く三桁は超えることだろう。
那月は天井を見上げ考える。
自分はプレイヤーでは無い。だが、プレイヤー候補生である。
プレイヤー以外のダンジョン探索は禁止されている。だが、ダンジョン外に出たモンスターの討伐は制限されていない。むしろ、少しでも加勢が必要な状況のはず。
市民を守る義務は無い。だが、だからといってそれを切り捨てる事は俺には出来ない。
だったらーーーーー
那月はそこまで考えると、それをまとめる。
結論を導き出し、三人の顔を見回す。
どうやら、三人とも考えていた事は同じようで、頷いて返す。
「行こう!!」
「うん!」
「あぁ」
「……うん」
四人はモールダンジョンの迷宮崩壊を止めることを決意して、走り出した。
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