29話 プレイヤー生命
「聞かせてくれるかな?クロエのことについて」
校長先生の優しい声色。しかし、そこには大きな圧力が内包されている。
那月はその圧力に押され、自然と額を流れる汗を拭う。
「あの、その話の前に一つ聞きたいことがあるっす」
「あります、だろ!」
「ふむ。何かね?」
音淵先生を片手で制すと、那月に先を促す。
「どうして、俺を合格にしたんですか?」
「?」
「音淵センセから聞きました。あんたが俺を合格させた、と」
校長先生は音淵先生を一瞥して、考えることなくその答えを言う。
「未来ある若者を合格にして不思議があるかね?」
「え?」
「私は君が未来、日本を背負って立つプレイヤーになると、そう信じたから合格にしたのだよ」
なにか問題が?といった風に言ってのけるそれは、とても常人とは思えない。
ただ信じ、それを実行することがどれほどに難しいか。それも実力のある翔にならまだしも、ゴーレムを一体も倒せない那月をだ。
那月はなんと言えば良いか、考えようとしたが、口が先に動いた。
「ありがとう、ございました」
校長先生はそれを受け取ると、にっこりと笑う。
「さて、君の質問は以上かな?」
「うっす!」
「では、私からも質問をさせてくれ。クロエーー『厄災の魔女』という言葉を聞いたことはあるかい?」
「ーーっ!」
「…………!」
校長先生の口から、『厄災の魔女』の単語が出た瞬間、音淵先生が顔を青ざめて、椅子を立つ。
那月も、その単語には聞き覚えがあったので、その旨を伝える。
「確か、クロエがそんなこと言ってた気がする」
「こ、校長!厄災の魔女というのは、あの……?」
音淵先生の質問に校長先生は首肯する。
「厄災の魔女。かつてその強大な力故に人間の手によって封じられたプレイヤー。那月くん。君の目指す最強のプレイヤーの一人さ」
「黒滝。その女性の特徴を言うんだ」
「えーと、髪が黒くて、目が赤かったな」
「ほう。ここまで来れば本当の事だと信じるしかあるまいな」
校長先生は手を組み、机に肘を置くと、真剣な顔で那月を見る。
「さて、那月くん。本題と行こうか。君は彼女とどんな話をしたのかな?覚えている限りで良い、教えてくれないか?」
「うす。えっと……」
那月は考え込むように天井を見上げると、ぽつりぽつりと、話し始める。
先程、音淵先生にした話に加え、クロエと質問をし合った事や、那月が死に急いだのを止められたこと。そして、謎のスキルを譲渡された事。
「《反帝》……聞いた事の無いスキルですね」
「ふむ。しかし、厄災の魔女が持つスキルが弱いはずも無い。恐らくとても強力なスキル………なるほど、強力なスキルを突然取得した事に魔力神経が耐えきれず、崩壊。それが那月くんの怪我の原因だったのだね」
校長は一人納得して、頷くと那月に質問する。
「して、そのスキルの内容は覚えているかな?」
「えっと……うーん。すまん、覚えてねぇわ」
「そうか……」
校長は心底残念そうに呟くと、しかし熱のこもった瞳で、那月を見やる。
「だが、その《反帝》というスキル。それはきっと君に強力な力を与えてくれるだろう。今はまだそのスキルを扱いきれないかもしれない。しかし、それを我がものとした時、その時君は私をも超えるプレイヤーになれるだろう。いや、世界一のプレイヤーにすらなれるかもしれぬな」
校長先生は高らかに笑うと、椅子を立ち、扉を開いて廊下に姿を消した。
「『私をも超えるプレイヤー』って、校長ってそんなに強いの?」
「お前……それでも本当に最強のプレイヤーとやらを目指しているのか……」
音淵先生は呆れ顔で那月を細めた目で見ると、ため息を吐く。
「校長ーー緋袴 手網さんは、日本に三人しかいない特級プレイヤーで、その中でも二番目に強い御方だぞ」
「えぇぇぇ!!!だって、ぇええ!!」
那月は驚愕を顔に貼り付ける。
しかし、それも当然だろう。
現在、日本のプレイヤー人口は約10万人。
プレイヤーはそれぞれの実力によって階級が決められている。
『初級』。これはプレイヤー資格を取立てほやほやの初心者に与えられる階級。言わば一番下位の階級である。
『下級』。これは初級プレイヤーが一月、プレイヤーとして活動すると与えられる階級である。この下級からが本当のプレイヤー階級で、初級はプレイヤーお試し期間の仮免許のようなものである。
『中級』。これはモンスターランクと呼ばれるモンスターの強度を表すクラスのCランクーーランクは弱い方からGからSまであるーーのモンスターを単騎討伐出来る者に与えられる階級である。
ちなみに先日那月の倒したゴブリンセイバーはランクEにあたるモンスターである。
『上級』。これはダンジョンランクーーモンスターランクと同じくGからSまであるダンジョンの強度を表すものーーCのダンジョンを単騎攻略出来るプレイヤーに与えられる階級である。
そして、『特級』。Sランクモンスターを単騎討伐可能のプレイヤーに与えられる階級。現在、日本にこの階級を与えられているのはたったの三人のプレイヤーで、そのうちの一人が、緋袴校長なのである。
「まじか、あの人そんなとんでもねぇ人だったのか!」
「そうだ。だから、さっきみたいな態度は二度ととるなよ」
音淵先生が絶対!というように念を押すため、那月は流れで頷く。
絶対に言うことの聞かないであろう那月にため息をつきつつ、音淵先生は教室を出る。
「はぁ……まぁ、お前の不調の原因はよく分かった。この後保健室に行って詳しいことを聞いてこい。あの人にかかれば治らない怪我はないが、もしそれが治らなかったら……プレイヤーを諦める事を考えておけ」
ピシャリと閉められた扉。
静謐な空間に叫び声が響いたのはそれからたっぷり一分後のことである。
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