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28話 校長

あけましておめでとうございます。

今年も本作をよろしくお願いします。

今話より、第二章開幕です。

「黒滝、どうした早くしろ」

「わ、分かってるって!」


 音淵先生の厳しい声が響いたのは、那月がダンジョンから帰還した翌日の二時限目、訓練棟内での事だった。

 入学してからの一週目が終わろうかという金曜日。那月はうんざりしながら、目の前の小石に睨みを効かせていた。


「《:重力》!」


 小石に手を翳し、大きく一言。先日、ゴブリンセイバーを縛り付けにしたのと同じく、小石に重たい重力をかける。のだが……。

 しかし、結果は小石は崩れるどころか、動く気配もなし。静寂が辺りを包む。

 音淵先生は何度目かも分からないため息を吐く。


「黒滝、ふざけているのか?強くなるどころか弱くなっているようにしか見えないぞ」

「うっ…………」


 まさに音淵先生の指摘通りだった。

 ダンジョン帰還後、那月は魔力神経が有り得ないほどに傷ついていた。魔力神経とは魔力を全身に流すための回路で、それがないとスキルの一つも使えないのだ。

 しかし、那月の魔力神経は初峰先生の治療済みである。

 そのはずなのだが、那月は一つの問題を抱えている。

 何故かスキルが使えないのである。


 那月がゴブリンセイバーを倒した事は知っているが、魔力神経が傷ついていた事を知らない音淵先生には今の那月はふざけているようにしか映らないであろう。


「くそっ!なんで……あの時は自然と出来たのに……」


 那月が拳を地面に叩きつける。

 ふと、顔を上げるとそこには複雑な顔をした翔が那月を遠目に眺めていた。

 心配と、落胆。それらの入り交じった顔は目が合うと、すぐに逸らされる。

 那月は更に心を抉られたような思いをした。


 音淵先生が那月に対して何かを尋ねようと、口を開きかけた時、二限目終了の鐘の音が、本校舎から訓練棟まで届いて響く。


「授業は各自で終わるものとする。黒滝、お前はついて来い」


 音淵先生は全体に指示を出すと、那月に囁きかけ、出口へと歩いて行く。

 那月もすぐに立ち上がると、その後に続いた。




 無人の教室に入り、机を並べるなり、音淵先生は那月に尋ねる。


「黒滝。どうしたんだ?お前らしくない。おまえはバカでも、手を抜くような奴では無いだろ?」

「……センセ、実はーーー」


 那月は初峰先生に口止めをされている事を思い出し、一度は口を閉ざそうとしたが、音淵先生にならとスキルを使えなくなったであろう原因を素直に話す。


「……なるほど」


 音淵先生は那月の話を聞き終えると深く頷いた。


「まったく、あの先生は……大事なことをいつも隠して……」


 音淵先生は遠い目で初峰先生を思い描くと、常々思っているであろう文句をぼやく。

 音淵先生の愚痴がヒートアップする寸前で、那月は自分の問題の話に戻す。


「魔力神経の破損ね……聞いたことはあるが、まさか生徒がそんな怪我をするとはな。それで?どうしてそんなことになったんだ?」

「分かんねぇす。気がついたら体に力が漲ってて、そのままスキルを使ったらそうなっちまって……」

「ふむ。たしか、ゴブリンセイバーに殴られ気絶したと言ってたな。その時に壊れたのか?」


 那月は顔を上げて考えるが、小さくかぶりをふる。


「いや、違う気がする。あの時は身体中に魔力が流れるのをはっきりと感じられたから、壊れたとすれば、スキルを使った時……」

「ん?どうした?」

「……スキル……」


 那月の脳裏にふと白いモヤのような記憶が浮かび上がる。

 那月はそれを思い出そうと、頭を抱えると、記憶の一端を掴むことに成功する。


「そういえば、ゴブリンセイバーに飛ばされた後、気絶した時に夢?みたいな物を見た気がする」

「夢?どんなだ」

「えーと、真っ白い空間に、一人女性がいた。名前は、えーと……あ!クロエ。そんな名前の女性がお茶を飲んでて、俺はその人となんかを話したんだよ」

「クロエ?そんな生徒この学校にはいないがーーー」

「失礼するよ」


 那月と音淵先生の二人きりの空間を扉の開閉音が破壊する。

 扉を開いて入ってきたのは、見るからに痩せ細った小柄な男性である。

 年齢は八十を超えていそうだが、髪はしっかりと黒く生き生きとしているので、老けて見えるのは骨ばった頬や、筋肉の無い腕のせいで、実年齢は五十前後だろう。

 那月が誰?という顔で見つめていると、那月の思考を読んだようなタイミングで、音淵先生がその人を呼ぶ。


「こ、校長先生!?どうかなされたのですか?」


 校長と呼ばれた人物がその痩躯な男だと理解するのにたっぷり十秒。

 那月の驚き声が無人の教室に反響する。


「え!?このガリガリおっさんがこうちょ…ぶべッ!」


 那月が失礼にあたる呼び名をつけた瞬間、隣からゲンコツが振り下ろされる。


「おま!校長先生相手になんてことを!すみません校長。私の教育不足で」

「いやいや、構わんよ。高校生はこれくらい元気でないとな。将来が不安と言うものだ」


 朗らかな笑みを貼り付けた顔は音淵先生を持ってしても、その奥の考えは読み取ることが出来ない。


「それより、那月くん。先程『クロエ』という名が聞こえたのだが……詳しく聞かせてもらえるかね?」


 クロエという名に覚えがあるのか、校長先生は那月の前に机を並べ、その前に腕を組んで座った。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。


面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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また、感想なども思った事を書いて頂けたら私の励みになります!!


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