27.5話 番外編は委員長
今年最後の話です。
那月達がダンジョンから帰還した日。
ホームルームが終わり、一時間目の授業。音淵先生は教室に入り言い放つ。
「遅くなったが、委員長を決めようと思う。誰かやりたい人はいるか?」
音淵先生の言葉に五つほど手が上がる。
「はいはい、俺!俺やりたいです!」
「うち!うちもやりたいにゃ!」
「俺もやりたいです」
「俺も」
「わ、私もやりたいです」
那月、愛莉、颯、翔、めめの五人である。
「なるほど。では、立候補者全員の演説を聞いて多数決……ん?来栖どうした?」
びしっと、綺麗に手を伸ばす朝日。先生に名前を呼ばれ意見を言う。
「先生。五人では少し多くないですか?」
「そんなことはない……」
「多いですよね!!」
「え、あぁ。そうだな。確かに少し多い気もする」
朝日の圧に先生は教壇を譲る。
朝日は席を立ち、前に出ると、バンと教壇を叩く。
「えー、五人では多いので四人にする為の多数決を行うこととします!」
「なんで、朝日が決めんだよ!」
「那月、うるせぇぞ」
紅蓮が那月を宥めるのを横目に百花が質問をする。
「でも、なんで?」
「なんでって、ねぇ……」
朝日が那月を一瞥するが、那月はそれに気付かない。
「まぁまぁ、理由なんてどうでもいいじゃない。それよりも、一人を落とすための多数決をしまーす」
皆が首を傾げ、訳が分からないと言った風であったが、朝日の次の一言に那月を覗いた全員が挙手をする。
「じゃあ、那月の演説を聞く必要がないと思う人ー?……はい、満場一致ね」
「ちょっと、まてえぇぇぇい!!!」
満場一致の那月落選意見に本人だけが意義を唱える。
「なんで俺なんだよ!」
「だって、あんた委員長らしくないし」
クラス中に頷きが連鎖する。
「おい、紅蓮。おかしいと思わねえか?」
「いや?妥当だろ」
「くっ!……日奏!お前なら分かってくれるはずだ」
「ごめんね、那月。僕も那月は委員長に似合わないと思うな」
「ぐはっ!……かけ………百花!」
「えと、あと、あの…………うん………」
「百花ぁぁぁ!?」
百花は静かに視線を逸らす。
三人に振られた那月は観念した様子でーーまだ少し不満顔だがーー席に座る。
朝日はそれで満足したのか先生に教壇を戻し、いそいそと席に戻った。
「さてと、立候補者が四人になったところで、演説を始めるぞ。まずは白浪、お前からだ」
指名された翔が席を立ち、先生と壇を代わる。
翔はぐるりと教室を見回し、呟くように声を発する。
「俺が委員長になる。以上だ」
静寂。そして、喧騒。
「なんだそれ!」
「舐めとんのか!」
静かに席に戻る翔に対して、不満いっぱいの那月と紅蓮がそれぞれ文句を言う。
「黙れ、予選落ち」
完全に頭に来た那月が机を盛大に叩き、翔に飛びかかろうとするが、音淵先生のにこやかな笑みを見て、体を硬直させる。
「じゃあ次は薫風」
「はい」
丁寧な返事と共に颯が教壇に立つ。
「俺が委員長になった暁には、ここにいる全員が、何不自由なく学園生活を謳歌できるよう尽力したいと思います。そのためならどんな努力も惜しまない所存です。皆、どうか俺に一票を」
綺麗に一礼をして、席に戻る颯に教室中から拍手が沸き起こる。
「いい演説だ。次は二尾」
「にゃ!」
ニコニコと教壇につく愛莉。
大きく息を吸うと、かっと目を見開いて、演説を早口でまくし立てる。
「うちが委員長になったら、このクラスを一番のクラスにするにゃ!とりあえず、ご飯は皆うちによこすにゃ。そして、お風呂での奉仕もかかせないにゃ。頭のいい人はうちの宿題を手伝うにゃ、もちろん全て!それから、それから……ちょちょちょ!なんで皆手を挙げてるにゃ!?」
愛莉の我儘な主張に、自然と十九本の手が挙がる。
愛莉はまだまだ言いたい事があると教壇にしがみついていたが、朝日によって強制退場させられた。
「最後は稲荷だ」
「はい」
気品の良い返事を返し、めめが机を立つ。
教壇の前に立つと、そこでクラスメイトへ向けて、優雅に一礼。
顔を上げると、そこには覚悟の決まった目がある。
大きく深呼吸をする。
「私は、委員長に向いていないかもしれません」
最初の一言は否定的な言葉だった。
全員が呆然としていると、でも!と大きな声が響く。
「でも、私は皆とこのクラスを盛り上げていきたい。人生で一回きりの高校生。クラス替えも無い学校だからここにいる皆と三年間命を共にすることになる。だからこそ!私が皆の絆の架け橋になれればいいと考えています。どうか私に熱意のこもった一票を!」
瞬刻の静寂の後、颯の時よりも大きな拍手が巻き起こる。
めめは何度もありがとうございます、ありがとうございますとお辞儀をすると、そそくさと席に戻って行った。
「さて、これで全員の演説が終了したな。これより投票に移る。全員配布した紙に立候補者の名前を書いて伏せておけ、回収に行く」
先生が言い終わると同時、ペンが紙越しに机をつつく音が鳴り響く。
数分後。
最後の一人がペンを置いた音が静謐な空間を作り出す。
先生もそれを確認して、机の端に置いてあるそれぞれの紙を回収する。
更に数分後。
集計を終えた先生が黒板にチョークを走らせる。
立候補者は祈るような気持ちで目を閉じ、手と手を重ねている。
先生がチョークを置く。
「結果はこの通りだ」
黒板には立候補者の名前、そしてその下にそれぞれの得票数が記されていた。
「や、やったぁぁ!!」
最初に声を上げたのは、きつね色の髪の少女だった。
「はは、完敗だな」
颯が苦笑いを浮かべ、黒板を眺める。
その視線の先にはーー
白浪 翔 0
薫風 颯 1
二尾 愛莉 0
稲荷 めめ 19
という圧倒的な結果が表記されていた。
自分には投票出来ないルールなので、颯の一票はめめが入れたものだろう。
「以上の結果から、一年A組のクラス委員長は稲荷 めめ。副委員長は次に多い、薫風 颯という事に決定。異論のあるやつは……いないな。では、稲荷から一言」
「へ!?」
突然話を振られためめは困惑した様子を浮かべる。
涙の乗った瞳は小さく揺れるが、すぐに覚悟の色が映される。
「皆の期待に応えられるように、精一杯頑張ります!至らぬ所もあると思いますが、その時は力を貸していただけると幸いです!どうぞよろしくお願いします!!」
気合いの籠るお辞儀にクラス中から、今日一番の拍手が沸き起こる。
これにて一章終了です。
今年中になんとか終えられる事が出来て嬉しい限りです。
前書きにも記載しましたが、これが今年最後の投稿です。
皆さん良いお年を。また来年。二章一話で会いましょう。
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