27話 事情聴取
ボスを倒した後に出てくる転移の陣に乗り、地上まで戻ってきた那月たちは一人の教師に出迎えられる。
「ね、音淵センセ!?」
「先生!?これには事情が……」
「ちっ、面倒くさ」
三人の顔を見渡して、少し安堵を浮かべるがそれは直ぐに鬼の形相へと変わる。
「三人とも、聞きたいことは沢山ある。が、まずは保健室で治療だな。話はその後で聞く」
有無を言わさぬ形相に、三人は大きく首を縦に振るって、音淵先生に続き保健室へと向かう。
「ありゃりゃ。これは派手にやられてるわね。でも応急処置がしっかりしてるから私のスキルの出番はあまりなさそうね」
白衣を着た保健室の主人。初峰 玖珠璃が、那月の体を診て答える。
「それで?この子達どうしたの?」
「いつものやつです。詳しい事は治療後に聞きますが」
音淵先生は簡潔に説明をする。
いつものやつ。の一言で伝わるのは新入生がダンジョンに潜ることは恒例行事だからであろう。
しかし、初峰先生は感心したというふうに息を漏らす。
「ほお。三人で潜って、三人で帰還ね……それも一人は黒滝くんで……」
那月が生きていることに少しは驚くが、それが大きくならないのは翔がサポートしたとでも思っているのだろう。
音淵先生からそれ以上の情報を聞き出せないと分かると、初峰先生は手を叩く。
「はいはい。じゃあ治療しちゃうから、黒滝くん以外は出ていってね」
初峰先生は那月以外を室外へと押しやると、那月をベッドに横たわらせる。
「それじゃあ始めるわね」
「……あの、何するんすか?」
「そりゃ、手術?」
「麻酔は?」
「ないわ」
那月は恐る恐る質問をするが、返ってきた答えに顔を青くする。
「安心しなさい。すぐ終わるわ」
初峰先生は那月の体に手を触れると、何かを探すようにそれを動かす。
胸、腕、腹、腰、足、と動かしながらうんうんと頷いている。
暫くして、初峰先生は真面目な顔で那月を見る。
「でもその前に、あなた変な事をしなかったかしら?例えば、無理矢理スキルを使ったりとか?」
那月には思い当たる節がないため、小さくかぶりをふる。
「なら、どうしてこんなにも魔力神経が傷ついているのかしら?」
「魔力神経……?」
「魔力神経とは、人がスキルを使う時に発する魔力というものを身体中に巡らせる神経の事よ。人は魔力が無いとスキルは使えないから、この神経が無いとスキルが使えないわ。でも、あなたはそれがズタボロ。まるで無理に大きな力を押さえ込もうとして、爆発したかのよう」
那月はそれでも分からないと首を振る。
だが、そこで疑問が不安と共に浮かぶ。
「あの、もしかして俺はもうスキルを使えない……とか?」
「え?いやそんな事は無いわ。私も魔力神経なんて治した事ないけど、私のスキルにかかれば治せない怪我なんてないわ」
那月は安心したように目を瞑ると、ベッドに身を任せる。
「さて、それじゃあ始めようかしら。《天癒天恵》」
初峰先生の手が温かい光に包まれ、それが那月の体に広がり包み込む。
光が収まると、先刻まで身体中を支配していた痛みが消滅していき、体が嘘のように軽くなる。
不思議と力が漲ってくるような気もする。
那月が手を握ったり開いたりしていると、初峰先生は外に居る三人に声をかける。
「もう、終わったんですか?」
「えぇ、私のスキルを使うだけだからね」
「じゃあ、外に出なくても良かったんじゃ……」
「黒滝くんと内緒の話をしたかったのよ」
百花の疑問に答えつつ那月にウインクを贈る。
それに対して、百花が頬を膨らませていたのは気の所為だろう。
百花が何か言いたげな顔をしているがその前に音淵先生が話を切り出す。
「さて、話を聞かせてもらおうか。黒滝、白浪、九九。」
それから三十分かけて、起きた事の全てを説明した。
ダンジョンに入ってすぐにゴブリンに襲われたこと。
ウルフの群れに追われたこと。
ボス部屋に入りゴブリンセイバーに殺されかけたこと。
そして、それを討伐した事。
「まさか、第一層のボスを倒すとは……」
「しかも、倒したのが黒滝くん!?白浪くんじゃなく?」
「うっす!」
「まぁ、そうですね」
信じられないとばかりに那月とかけるの間を交互に移動する初峰先生の視線に二人は頷く。
「でも、なるほど。黒滝くんがあんな風になっていた理由が少しだけわかった気がするわ」
「あんな風?」
「いいえ、なんでもないわ」
初峰先生は音淵先生の探りの目を掻い潜る。
那月にも同じ視線を向けるが、那月はよく分かってないので、仕方なく諦める。
「まぁ、事情はよく分かった。お前達が無事に帰ってきて嬉しいのも事実だ。今回はこのくらいにしておこう。九九、お前は寮に戻っていいぞ?」
「え?百花だけ?」
「あぁ。黒滝、白浪。お前達二人には罰がある」
「「罰?」」
「言ったはずだよな?三回目は無いと!」
「「あ……」」
音淵先生の圧のある視線に那月と翔は言葉も出なかった。
「ふぁぁ。一風呂浴びようかな」
早朝。眠い目を擦りながら紅蓮は男湯へと向かう。
脱衣所に入り、いざ服を脱ごうとシャツに手をかけると、浴場の方から声が聞こえる。
「なんで、こんなことしなきゃならないんだよ…!」
「口より手を動かせバカ那月」
「だいたい、お前がダンジョンに行こうって言うから……」
「それはお前もだ。第一に元を辿ればお前が入学早々に俺に突っかかって来たのが原因だろ」
「んだとぉ!」
「やんのか?」
扉に手をかけ、ガラガラと横に開くと、ブラシ片手に睨み合いをする那月と翔の姿があった。
「お前ら何してんの?」
「え?おぉ!紅蓮、早いな!」
「あぁ。朝風呂に浸かろうと……で、何してんの?」
「罰だ」
翔の簡素な答えに、首をかしげるが、風呂は諦めるかと、扉を閉める。
「ばーか、ばーか」
「あーほ、あーほ」
紅蓮が立ち去った後でも二人の言い争いは止まらない。
しかし、それでいいのだ。それでこそこの二人なのだから。
ダンジョンが出現してから二百年。物語の歯車はようやく少しずつ動き始める。
那月の夢は今はまだ雲の上に存在するただの夢に過ぎない。
しかし、夢は見ているだけでは叶わず、一歩、また一歩と歩みを進めなければならない。
那月はまだ歩み始めたばかりであるが、その一歩こそ、大きな意味を持つのである。
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